TRPGオリキャラ短編

@Shiina0312

5月9日

未だ耳をつんざく様な銃声が鳴り響く



この荒れた戦場で俺は何を思うだろうか



遠距離狙撃部隊、だが俺はこんなもの、握りたくもない 忌々しい鉄の塊だ



『ふはははは!!! そーー…れっ!!!』



灰色の空にふわりと体を預け この場の誰よりも生き生きとした声を口から放つ



相手の脳天に銀に輝く それ を打ち込む



敵軍が次々とバタリと音を立てて倒れる



彼、ウィナー・ディフェクトの手によって



『わしにはお前らなんて造作でもない!』



そう言って鮫のような歯を見せ笑った



あ、昨日仕上げしたっけ、大佐がしたのかな



なんてこの場に合いもしない事を考えていると、この思考すら切り刻むような足音が聞こえ、奥から凄まじい数の敵軍が来るのが見える



俺は少し慌てるように銃を構え 1人、また1人と撃ち殺す



ウィナーも負けじと敵を倒し 未だ宙を飛び回り続けている



不味いな



「指揮官!援軍は!」



左耳に手を当て応答を願う



[まだ時間が掛かる、もう少しだけ持ち堪えてくれ……!!]



「………了解」



奥歯がギリっと音を立て少し削れる



「……!!ウィナーは!」



『っは!、!げホっ…!うお゛ッッらぁ!!』



持って1時間といった所か



体力消耗を抑えるためか地に足をつけている



やはりこちらの分が悪い



「大丈夫、1時間以内に終わらせれ……」



静かな銃声が耳鳴りになり警告のように鳴り響く



彼を狙い放たれた玉が見えた


気づいていない


撃たれる


死ぬ


死んでしまう



「 ア ポ ー ト 」



ぐしゃ



彼の背後からは鉛玉が消えた。敵兵は驚いた顔をしているがすぐにこちらの兵にやられた



「っ……」



びちゃびちゃと、水の入ったコップを勢い良く逆さに向けたような音がする



ウィナーは……死んでいない



少し座標がズレただけ 、左目をかすっただけ



彼は気づかず一心不乱に戦う



[聞こえるか、ルーザー もう時期援軍がそちらに到着するだろう]



「…あ、ぁ 、よか …た」



[ルーザー?……おい、ルーザー!報告を! 何があった! く 、C地点遠距離狙撃部隊 個別班4に医……を向か……ろ ! ウィ……等兵……の……に]



俺の意識はそこで暗転した











『ル……!お……ろ!…きろ!起ーきーろー!ルーザー!!!』



「……っは!、はぁ、はッ、」



俺、生きてる? ウィナーも、良かった…。

でも、視界の左側が妙に暗い



そんなことより、そう声をかけられたかのように強烈なめまいに襲われる



[おはようございますルーザーさん。まだ急に起き上がるのはオススメしませんよ]



優しい桃色の看護服に暖かそうなカーディガンを羽織っている



綺麗な黒髪をなびかせながら口を開くのは医務室で助手を務めているアシスさん



『そうらしいぞ?ほら、寝るんじゃ』



まだ脳が働いていないのか言葉を飲み込めず数秒かけてゆっくり噛み砕き、横になった



「すみません 、あの、俺」



そこまで話すとアシスさんは察したように話し出してくれる



[ええと、うん、負傷の痛みによる軽いショックと結構な量の出血だったから貧血になったんだろうって先生が。治療は施したからすぐ大丈夫になると思います。義眼を入れるかどうかは他の人の治療が終わってから先生とお話なさってください。]



痛み、ショック、出血、貧血、治療、義眼



……なるほど 、 アポートを急ぎすぎて座標がズレたのか。それが左目に。



「わかりました、ありがとうございます。」



[はい、では]



そう言って優しくドアを閉めてくれる



ウィナーが騒ぐと分かっているからきっとわざわざ個別の部屋を用意してくれたのだろう

今度入院している人達にマジックショーでも披露しに行こう



『なぁルーザー、ぎがん ってなんじゃ?』



まるで5歳児のようにぷらぷらと足を揺らしながら丸椅子に座る彼から疑問が投げられる



なんと言えばいいだろうか、使えなくなった目の代わり、なんて言うのは衝撃が強すぎるだろうか



『ルーザー?』



「あぁ、今ウィナーが付けてるような包帯や絆創膏とおなじ、怪我を治すものだよ」



『でも今も ほーたい 付けとるじゃないか』



そう言いキョトンとした顔で俺の使い物にならなくなった左目を指差す



「あ、はは……そうだね、でも包帯や絆創膏以外にも治療に使うものがあるんだ」



嘘は消してついていない



何も偽っていない



聞かれていないだけだ



『なるほどな!!じゃあ、それつけるのか?』



義眼は消して安いものでは無い



俺たちの軍はウィナーも大佐も居て負け知らず、金はある方だ



でも、俺の目1つで軍の資金を崩させたくは無い 正直狙撃の時だって片目を瞑るんだ、大して変わることじゃない



そんなとこに金をかけるくらいならそろそろあるウィナーの誕生日会に金をかけたい



俺の目より彼の笑顔の方がよっぽど価値がある



偏っていく思考に俺は嫌悪感なんてひとつも

感じなかった



まだ目がじんじんと痛むを無視して考えたことの1割にも満たない返事をこぼす



「ううん、付けないよ。」



『そうか!!じゃあ包帯のままなんじゃな!』



「あぁ、当分はね」



そう答えた後、ペラペラと楽しそうに今日の戦争での様子を身振り手振り教えてくれる



『……でな!そこでワシがバーンと!』



「ねぇ、ウィナー」



嫌じゃなければしっかり言うことを聞いてくれるのが彼だ、いつもより少し低い声でそう発せば口はすぐにピタリと止まった



『なんじゃ?』



「ちゃんと覚えてるかい?誕生日」



「あぁ!もちろんじゃ!!!」



「ワシの誕生日は________」




~完~

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