第34話 「ワフッ!! ……じゃなくて、「オギャー!」のオレについてこい!!」

 34


 翌日、目を覚ました俺は愕然とした。

 何故なら、家の中のどこを探してもラッピーが居なかったからだ。


「ラッピー! ラッピー、何処行った!!」



「ラッピー! ラッピー!」


 ハルカも一緒に探してくれた。


 でも……


「ラッピー! 何処なんだよ!! 何でいないんだ!!」


「ラッピー! 出てきて!!」


 ラッピーはやっぱり居なかった。


「何で……何でだよ……」


「ぶぶちゃん……」


 ハルカと俺は泣いた。


「何だよ……また居なくなっちゃうのかよ……」


「突然現れて……突然また居なくなっちゃうなんて、ヒドイよ……お別れくらい言いたかったよ……」


 -----


 それから数ヶ月が経ったある日……ハルカの妊娠が分かった。


 だから、俺はもう落ち込んではいられなくなった。

 お父さんになるんだから。しっかりしなくちゃならない。



 そして………



「オギャー! オギャー! オギャー!」


「お母さんよく頑張りました! 大きな赤ちゃんですよ!」


 待望の赤ちゃんが誕生した!


 一晩にも及ぶ出産を乗り越えて、赤ちゃんが産まれた!


「すげぇ……ハルカすごいよ。ハルカはスーパーマンだ。いや、スーパーウーマンか。すごいよ。すごすぎるよ……」


 めちゃくちゃ嬉しい!

 俺は赤ちゃんを抱くハルカを、そして赤ちゃんを見て、涙を流した……いや、その前から流れていたか。いつからかは分からない。いつの間にか涙が出ていた。


「すごい、すごい、すごい……」


「はいはい……もういいよ。同じ言葉ばっかり、疲れちゃうから」


 ハルカは涙を流し、語彙力のない俺を嗜めると胸に抱いた赤ちゃんに向かってこう言った。


「ほら、これがあなたのお父さんですよ」


「オギャー! オギャー!」


 そうだ! 俺がお父さんだ!

 嗚呼~~! 赤ちゃんがしわしわの顔で泣いている!

 キャワイイ……なんて、キャワイイんだ!!

 俺の子供!! すごい!! あっ、止まりかけていた涙がまた流れる……


 -----


 私は笑っちゃった。一晩に及ぶ長い長いキツーーーイ出産を終えて疲れ切ってるのに、ぶぶちゃんがブルドックみたいな顔をして泣いているから、笑っちゃった。


 勘弁してよ……せめてビーグルにして。ブルドックみたいは可笑しすぎる!

 はぁ……笑っちゃう。

 でもでも、そんなぶぶちゃんは放っておこう。


 それよりも、この子だ。

 あぁ~~~! なんて可愛いんだろう!!


 こんな可愛い子他にいる? 天使じゃん!!


 ぶぶちゃんと同じでしわくちゃの顔をして泣いてるのに、こっちは全然可愛い!

 お父さんに似なくて良かったね! ……なんて、ちょっと似てるか!


 でも……なんか不思議だな。

 この子を抱いていると、デジャブって言うのかな?

 なんか……思い出すんだよね。私を助けてくれたあの子を。抱き心地が似てるのかな? う~ん……でも、この子はあの子みたいに毛むくじゃらじゃないし、良い匂いがするしぃ……


「オギャー! オギャー! オギャー! ワフッ!!」


「えっ……?」


 聞き間違い? いま一瞬吠えた?


「ねぇ……ぶぶちゃん」


「うぅ……ハルカぁ!! 我が子よぉ!!」


 あ……ダメだ。まだ泣いてる。錯乱状態だ。多分何も聞こえてない。


「オギャー! オギャー! オギャー!」


 ……って聞き間違いか。赤ちゃんが『ワフッ!!』なんて言うはずないしね!


 -----


 あーー! 焦ったぁ……いま一瞬前世の鳴き声やっちゃったよ。

 ふぅ……なんとか生まれ変われたぜ。

 つーか、サトシは大丈夫か? 子供みたいに泣きやがって、お前はこれからお父さんになるんだぞ。もう、メソメソするなよ……でも、数ヵ月前に見た時よりちょっと、ほんのちょっとだけだけど、男らしい顔になったか?

 つか、初めて会った頃に比べたら大分だな。おっさんになったとも言えるな!


 あっ!ハル姐はやっぱ素敵だな。そして、流石だ!

 もうママの顔になってるよ。優しい顔だぁ。

 この人の子供になれて良かった。出産ご苦労様です。

 オレも早くお腹から出てきたかったけど、これまた道を間違えちゃってさ……ごめんね。

 ヨシッ! サッサと大きくなって、ハル姐を守れる男になるぞ!


 あっ……そうそう。オレはニンゲンの男の子になりました。尻尾が前にぶら下がってるぜ。あっ……それは犬だった時もか!


 さて……こっからの人生はどんな人生が待ってんのかな?

 メガミさま曰く、暫くしたら犬だった頃の記憶も深ぁ~~い所に眠って、そんな簡単には思い出せなくなるらしいけど、まぁオレが選んだ道だ。新しい人生を楽しみますか!


 おいおい……だからさ、いつまでも泣いてんじゃないよサトシ! つーか、父ちゃん!

 仕方ねぇ、泣き虫な父ちゃんだけど、コイツがおじいちゃんになるまで付き合ってやるか!


 サトシもハル姐も、俺と一緒に幸せになろうぜ!


 ワフッ!! ……じゃなくて、「オギャー!」のオレについてこい!!



 完

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死んだ愛犬が帰ってきた!!~俺と愛犬ラッピーの"俺とオレ"の不思議なドタバタライフ~ ビーグル―ガキ英雄譚連載中― @gaki-eiyuutan

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