この命が果てるまで君を想うよ

紅杉林檎

アオ色の命


「____申しあげづらいのですが、海冥さんの余命は残りです」


淡々と僕の余命を告げる医者。その顔を見るだけで怒りが込み上げてくる。だから僕は意図的に医者を視界に入れなかった。口ではああ言うが、聞いているこちら側でも分かる言葉だけの感情で僕の精神を取り繕うとするな。たかが医者風情が僕の気持ちを汲み取った気になるな。僕を、ような顔をするな。お前の全てが、動作が、今の僕にとっては不愉快極まりないんだ。


「そう、ですか」


こちらも受け入れたくない現実を取り繕って言葉を失うをする。医者に告げられた今でも、心のどこかでは信じきれていない僕がいた。


「ありがとう....ございました」


診察室を出た。足元がふらつく。元々貧血気味だったからそこまでおかしな事では無かった。ただ、僕の血色は好調のようだが......

まともに思考が出来ない。思考が出来ないなりに考えてみても、医者が僕に放った余命三年という言葉が思考を埋め尽くす。あークソ。こんな事になるなら、あの時、あの日のうちに命火を絶てば良かったんだ。そんな事を考えていた。 そんな時____


「きゃっ!」


「うぐっ」


曲がり角を曲がった時にちょうど人と出くわしてしまい、そのまま体をぶつけてしまったようだ。その証拠に、さっきまで床を見ていたのに今は天井を見ている。天変地異が起こったかと言えば、まぁ小規模のやつが起きたかな。

それよりも僕とぶつかった人の安否確認だ。本来ならあまりしないが、ここは病院。体が弱い人が通う場所だ。普段気にしない事にも気にしなければいけない、非常に場所。


「すみません、ボーッしてました。お怪我はありませんか?」


この言葉は本心じゃない。僕が他人によく使う、猫被り言葉。言うならばさ。そうさ僕は昔から......

なんだ。


「すみません、ぶつかってしまって......何分、急いでるもんで......」


そう言って僕の瞳を見る淡い青色の瞳を持った女の子。名は純翠アオイという。聞くに、アオイは、ここ、「銀星ぎんせい病院」に持病で入院しているお母さんの様態が急変したから慌てて病院に飛び込んできたようだ。それで、母親の病室に向かってる最中に僕とぶつかったようだ。話を聞いた僕はこれも何かの縁だと思い、アオイのお母さんの居る病室に同行する事にした。その事をアオイに言ったら、笑顔で「えーホントですかー!」と言った。何故赤の他人である僕を実の親が危ないという時に軽々とその場に入れてくれるのか、自分で言っといてなんだが、僕にはよく分からなかった。

早速病室へ......と思ったが、アオイが病室に行こうとする僕の足を止めた。そしてこんな事を聞いてきた。


「ごめん、名前......聞いてもいいかな? ほら私も言ったし....それに......」


「見た感じ、私とっぽいし....」


なんだ、そんな事か。アオイも災難だな。こんな、死に損ないの男の名前と未来明るい自分の名前を同価値だと捉えてしまうなんて。本当に、災難だな。


「僕の名前は『海冥 綴かいめい つづる』。余命三年の、ただの死に損ないさ」


初対面の人にする挨拶では無いだろう。言った僕もそう思ってる。だが言わねばならないんだ。言わなければ僕の頭が正気を保てなくなる。余命僅かで、それは嫌だ。何故僕が、わざとアオイに嫌われるような言い方をしたのか。それは僕が......

今会ったばっかのアオイにしてしまったから......

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