第55話 ジュノリス大国に亡命し、新たな生き方を見つけてスタートする。

――それからの日々は、シュノベザール王国よりは過ごしやすいジュノリス大国での生活がスタートした。

時折アツシ兄上に呼ばれて国に出される草案等の手伝いもしつつだが、比較的やっている事は余り変わらない。

一年もすればテリサバース教会も俺を探すのを諦めたようで、多少俺の周りは穏やかになった。


それに、弟であるシュリウスもシュノベザール国王として申し分ない働きをしてくれている。

時折相談には乗るが、大体はお互い同じ意見と言う事が多くなってきた。

これも経験と言う事だろうか。


また、神々の島からでも充分に今まで頼まれていたエリアの天候は操れたので、テリサバース教会の総本部のあるエリアは5年間の雷雨にしてやった。

俺なりの嫌がらせである。

だが、これが意外と効果があったらしく、シュノベザール王国を陥れようと目論んでいた上層部は震えあがり総本山の大司教に懺悔した事により、テリサバース教会のトップから心からの謝罪が送られてきたとシュリウスが嬉しそうに話していた。

無論、金1000枚も返って来たそうだ。

俺の銀行に入れて置いたとの事だったので「態々悪いな」と謝罪した上で感謝も告げた。


――と言うのも、リゼルが妊娠したからだ。

俺も二十歳になったことから子作りに専念した所、結構早くに授かる事が出来た。

アツシ兄上からは「男の子だった場合、宰相として育てたい」という言葉も貰い嬉しく思ったが、「この国では貴族籍もない為、それは難しいのでは?」と伝えた所とても悔しがっておられた。


あの後シュノベザール王国はと言うと、市場はキッチリと出来上がり大盛況らしい。

シュノベザール王国から出せるものは余り少ないが、甘味等は飛ぶように売れる事から問題はないようで、場所がまた国内と言う事もアリ違う意味でお金を落として貰えているようだ。

リゾート地も上手く機能しているようで最初こそ不安だったが、何とか売り上げも出しているようで安心する。


また、世界中とまではいかないが、【テリサバース教会の陰謀により、一人の賢王が神々の島に亡命し、この先テリサバース教会を信用していいのか分からない】と言う噂が広がりつつあるようだ。

いい噂はゆっくり広がるが、悪い噂はあっという間に広がる。

火消しに必死のテリサバース教会が今後どういう対応を取るのか楽しみだ。



「なぁシュライ、貴族籍与えるから俺の仕事の手伝いしてくれよ」

「とは言ってもアツシ兄上。俺は亡命したんですよ?」

「亡命したのは知ってるさ。テリサバース教会の陰謀の所為でな? だがシュライは悪くない。悪いのはテリサバース女神から天罰と言う名の雷雨を貰っているテリサバース教会だろう?」

「その雷雨も俺の力ですが……で、貴族籍貰ったら貴族税とか色々あるでしょう?」

「俺の仕事を手伝ってくれれば給料も出す。それにカナエに頼んでいい乳母も紹介出来る」

「むう。それを出されると困りましたね……。良いでしょう、払えるくらいの給料は頂きますよ」

「余裕が出るくらいの給料は支払うさ」



――その後俺はジュノリス大国にて貴族籍を貰った。

シュノベザールの名は取っておきたかったので、そのままシュノベザールを貴族の名にした。

また、ただのシュライから、【シュライ・シュノベザール】となった訳だ。

貴族としては俺の法案提案や魔道具開発などの貢献から伯爵の地位を頂いた。

また、アイスクリーム用の工場建築にかき氷といった氷を作る工場等もドンドン作った為、中々の実績である。

今ではシュノベザール王国の国民食であったかき氷もジュノリス大国で食べることが出来るようになり、懐かしい味に舌鼓を打っている。

やはり上に乗っているのは安っぽいイチゴのソースが一番だな。

無論これはアツシ兄上に頼んで買って貰った物だ。


意外とジュノリス大国ではエンジョイした生活を送っていて、でも服装だけはシュノベザール王国の服を着ている為、俺の姿はとても目立つが、それはそれでアリだと思う。

驚いたことに、ロスターナと言う大司教様とロスターニャは、まるで双子のように似ていたのだが、種族が違うというだけで「「ドッペルゲンガーだわ」」と驚きつつも、たまに女子会に参加しているらしい。

何とも逞しい性格をしている二人だ。

無論二人共男性な訳だが。


休んでいる間に4国を周り、色々と視野も知見も広げたお陰で、もっとシュノベザール王国に対して出来た事もあったのではないかと思わなくもないが……これから先はシュリウスに託そうと思う。

無論月に1回は帰って会ってはいるが、毎回貴族の愚痴を聞くのは大変だ。

俺が神々の島に亡命した事によって【シュノベザール元国王シュライ様は、神々に好かれて神の仲間入りを果たした】なんて噂も広まってしまい、それもまた大変な事ではあるらしい。

本当に申し訳ないと思っている。


そして今日は月に一度のシュノベザール王国への帰国の日。

ロスターニャの箱庭からシュノベザール城の執務室に戻ると、シュリウスとサファール宰相、そしてその息子テリオットに出迎えられる。



「皆変わりないか」

「国内も安定していて国外からの旅行者も増えております。市場は特に賑やかですね」

「ふむ。リゾート地ではシュノベザール王国でしか食べれない燻製やアイスクリームと言った食べ物で分けているからな。住み分けが出来るのはいい事だ」

「もうテリサバース教会も諦めているようですし、兄上はまた戻ってきたりはしないのですか……?」

「ああ、この度あちらの島で貴族籍を承った。俺とリゼルとの間に男の子が生まれたら宰相として育てたいそうだ」

「なんと」

「それは凄いです……」

「自分が大嫌いな貴族になるとは思わなかったがな!」



そう言って苦笑いしていると、シュノベザール王国の書類を見ながら懐かしく感じつつ、国内が安定していて国民が飢えることなく穏やかに暮らしていることがよく分かる。

――俺はやるべき事はすべてやってから去ったつもりだ。

それは間違いない。

――だが、もっとやりたい事もあったのは事実だ。

時間があれば……だったが、悔やんでも仕方ない。

俺が去る事でシュノベザール王国を守れた。

周辺国を巻き込むことなく守り通す事も出来た。

俺の汚名は無くなったそうだが、もう戻る事は出来ないのは明らかだ。



「後はしっかり者の弟とその周りに任せるさ」

「……兄上」

「国民の為にやれることはやった、国の為に去らねばならなかった。悔しいという気持ちよりも、当たり前の選択と言う気持ちだった。それは今も変わらん」

「……はい!」

「そして俺は新しい風となる。神々の島ではやる事もまた多そうだ」

「兄上が新しい風ですか」

「うむ! 風通しがまた良くなったら、その時は……」



その時は、何年後、何十年後か分からないが、また神々の島とこのシュノベザール王国の海域を安定させ、今度こそ大手を振って帰って来よう。

国民が覚えていてくれればいいが……覚えていなくとも、俺のしてきた事はきっと彼らの身体に残っている。

シュリウスがいる限り、きっともう大丈夫だ。



「その時は、神の一員となった兄上が帰路するんですね?」

「一時的にな?」

「祝いの式典を開かねば」

「仰々しいのは嫌いだぞ」

「あはは!」

「良いではないですか、神々の一員となりし兄君の帰還。大きな話題になりますぞ」

「サファール宰相……」

「私が生きている間にお戻りして頂きたいものですな」

「努力しよう」



こうして笑いあい、本当に執務室内でしか国内を見る事も叶わないが、それでも――以前のように執務室で相談し合い、笑い合い、意見し合い、その光景は変わらない。

さて、俺も新しい風となって神々の島を少しだけいい方向へと変えてみるか。

それもまた、国民の為、民の為……そこで生活している人々を守る為だ。

俺はそういう生活が向いているのだろう。


そして、大手を振って戻れる日はきっと――そう遠くないと思いたい。

俺とシュリウスは、お互いに戦う場所でやるべき事を、果たすべき事をする為にまた前を向く。

頼れる弟がいてくれて良かった……。



「さて、俺はそろそろ帰ろう。リゼルが心配だ」

「はい兄上」

「また一か月後……民の暮らしを守ってやってくれ」

「はい!」



そう言って俺はジュノリス大国へと戻って行った。

新たなる俺の戦う場所でもあり、支える兄上の元へ。

俺と言う風は更にジュノリス大国を作り替えるだろう。

それが今は大変で、とても忙しいが、意外と楽しいと思えるのだった――。



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