雪だるま

口羽龍

雪だるま

 雪奈(ゆきな)は高校3年生。北海道の農村に住んでいる。通っている高校は10km以上離れた所にあり、列車で通学している。雪奈が乗り降りしている駅は、この村で唯一の駅だ。その駅には列車が平日上下4本ずつしか停まらない、とても寂しい駅だ。通学客は雪奈のみで、あとは、鉄オタがたまに来るぐらいだ。


「もうすぐ東京に行っちゃうんだね」

「うん」


 その横には、幼馴染の俊一(しゅんいち)がいる。俊一は雪奈より1つ年上で、去年の3月に高校を卒業して、北海道の大学に進学した。長い春休みを利用して、実家に里帰りしていた。


 雪奈の進路はすでに決まっていた。高校を卒業したら、東京の大学に進学する。そして、この村を離れ、東京で独り暮らしを始める。寂しいけれど、成長するために独り立ちは大事な事だ。耐えなければならない。


「東京では、雪があまり降らないし、積もらないんだね」


 俊一は東京の風景を思い浮かべた。高いビルが立ち並び、東京タワー、スカイツリーなどがあり、とても賑やかな街だ。雪が降る事や、積もる事があまりない。北海道ほど寒くない。


「うん。たまに積もったら、嬉しいと思うぐらいだよ」

「そうだね」


 東京がどんな街なのかは、雪奈は知っている。東京は北海道よりもっと人が多くて、賑やかで、豊かな街だ。だから、みんな憧れるんだろうかと思っている。


「小学校から高校まで、一緒にいたけど、まさか東京に行ってしまうなんて」


 俊一は残念がった。高校まで一緒にいたけど、まさか大学で離ればなれになるなんて。ずっと一緒にいたかったのに。あまりにも残念だ。


「仕方ないんだよ。成長するためには、東京に行かなければならないの」


 雪奈の決意は固い。もっと強くなるために、豊かな生活を手に入れるためには、東京に行かなければならない。親元を離れるのは寂しいけれど、いつかは親元を離れて、独り立ちしなければならない。


「俺もいつかは行かなければならないのかな?」

「どうだろう」


 と、俊一は考えた。一緒に雪遊びをしよう。東京では雪遊びなんてあんまりできないだろうから。


「ねぇ、雪遊びしようよ」

「そうだね。東京に行ったらあんまりしないもんね」


 俊一もその遊びに付き合う事になった。雪奈と一緒に雪遊びをするなんて、何年ぶりだろう。


「うん」


 2人は雪原にやって来た。雪の下には田畑があるが、この辺りは冬の間、一面の銀正解だ。とても幻想的な光景だ。


 2人はやって来た。雪は降っていないが、とても雪が積もっている。


「こっちこっち!」

「それっ!」


 と、雪奈は俊一に向かって投げつけた。もう雪遊びが始まったのに、俊一は驚いた。


「やったなー! くらえ!」


 俊一は雪奈に向かって投げつけた。雪奈は目を閉じた。顔に当たったようだ。だが、すぐにまた開いた。


 その後も2人は投げ合った。だが、全く傷はできない。雪が柔らかいからだ。2人ともとても楽しそうだ。3月で東京に行く雪奈とも残された日々を楽しんでいるようだ。


「えいっ!」


 雪奈は少し疲れてきた。久しぶりにやるから、腕が疲れたようだ。


「とどめだ!」


 その時、俊一が雪を投げつけた。とても強烈だ。もう今日はこれで終わりにしよう。


「楽しかった?」

「うん」


 2人は雪原を後にして、帰り道を歩き始めた。通学で通いなれたこの道、春からは歩く機会がぐっと少なくなる。だけど、この道を歩いた思い出は、いつまでも忘れたくないな。


「東京に行っても、私の事、忘れないでね」

「忘れないよ。雪は溶けても、思い出は消える事はないよ」

「ありがとう」


 雪奈は俊一を抱きしめた。離れ離れになっても、電話をかけて、近状を話してほしいな。そして、帰ってきた時は、一緒にここで遊びたいな。




 3月になり、少しずつ雪が解けてきた。遅いけれど、北海道にも春の足音が近づいてきた。だが、まだまだ寒い日々が続いている。


 2人は駅にいた。駅にはあまり人が来ていない。来ているのは、2人と雪奈の両親ぐらいだ。みんな、雪奈の旅立ちを歓迎している。これから東京で頑張ってきてほしい。そして、成長して再びここに帰ってきてほしい。


「じゃあね」

「東京に行っても、頑張ってね」


 俊一は応援している。雪奈は思った。俊一のためにも、東京で頑張って、成長しないと。


「うん。じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


 その時、単行のディーゼルカーがやって来た。この列車に乗って、この村を離れる。雪奈はホームに向かった。3人はその様子を見ている。みんな、雪奈を応援している。そう思うと、雪奈は1人じゃないと考える。


 ディーゼルカーが停まり、ドアが開くと、雪奈はディーゼルカーに乗った。ディーゼルカーは寒さ対策でデッキがある。雪奈はセミクロスシートに座り、車窓を見た。見慣れた車窓だが、それも夏休みまで見る事がないだろう。


 ドアが閉まり、ディーゼルカーが動き出した。3人はその様子をじっと見ている。


「行っちゃった・・・」


 と、俊一はある物を見つけた。道端にある雪だるまだ。誰が作ったんだろう。上手じゃないけど、とても可愛い。


「あれ? 雪だるま・・・」


 だが、よく見ると、少し溶けている。陽に当たって溶けたのだろう。せっかく作ったけど、やがて溶けてしまうのかな?


「溶けてしまったのか・・・」

「だけど、2人の思い出は消えない」


 と、雪奈の父は何かを思い浮かべるように、空を見上げた。


「いい事言うじゃないか!」


 俊一は父の言葉に感動した。雪は解けても、雪奈との思い出は溶ける事はない。これからも、思い出は残り続けるだろう。そして、再び会う時に、その思い出を語り合えたらいいな。

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雪だるま 口羽龍 @ryo_kuchiba

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