第10話 奈落~吸血鬼

 子供達が仕事をする様になってからこの拠点も随分と村っぽい雰囲気が出て来た。

 生活をする上で困っている事も特にない。

 鍛冶師が欲しいけど、この辺りでは鉄が取れないし、まだ必要ではないな。


 『リウム君、聞こえますか?』


 頭の中で響くこの声はネスティーだな。

 

 『聞こえている。 楽園都市で何かあったのか?』

 『ええ、行方不明者が出ました。

  しかも、25人が同時にです』


 『わかった、報告してくれてありがとう。

  奈落を調査してみる』


 25人が同時にか……奈落に落とされたのだろうか?

 奈落に落ちて生きているのなら楽園都市の裏の情報が手に入るかもしれない。

 千里眼で中を覗ければいいんだが、奈落の中を見る事が出来なかった。

 なので、直接奈落に乗り込むしか選択肢が無い。

 今から行くと、俺の姿を見られる可能性がある。

 日が暮れるのを待つか。


 「奈落へは今から行かれるのですか?」

 「いや、日が暮れるのを待ってから行くつもりだ」


 「そうですか、25人ともなると混乱して危険な状況になっているかもしれません。

  出来るだけ早く行った方が良いかもしれません。

  回復役は必要でしょうし、エルフローレンをお供に連れて行くといいでしょう」

 「そうだな。

  だが、見つかると楽園都市で動きにくくなる。

  やはり日が暮れるのを待った方がいい」


 「変身魔法を使うと良いですよ」

 「あの魔法は二度と使うつもりはない。

  いや、待てよ?」


 別に俺様が魔法少女にならなくてもいいんじゃないのか?

 例えば……目の前にいるアインに魔法少女になってもらい、変身魔法を使ってもらう……とか?


 「待って下さい、俺を魔法少女にしても誰も特しません。

  折角ですし、タマモ辺りに使わせてみては如何かと」

 「そうだな。

  他に適任もいないだろうし、タマモにやってもらうか」

 

 子供達と遊んでいるタマモを呼び出し、魔法少女の能力を壌土する。


 「能力の浄土……これがリウム殿の能力。

  それに、頂いた能力も凄まじい……。

  流石は我が主様、妖狐タマモはすぐれて時めき給ふ」

 「喜んでくれている様で何よりだ。

  それじゃあ、早速その能力を使って貰いたい。

  出来そうか?」


 タマモは何の躊躇ためらいもなく魔法少女化する呪文を唱えた。

 子狐のタマモが魔法少女の姿となって現れる。


 「主殿、この服はいささ破廉恥はれんち……」 


 魔法少女の姿が恥ずかしいのか、その場でしゃがみ込み、大きな尻尾で足元を必死に隠している。 

 子狐の時は……全裸だがそれは大丈夫なのだろうか?


 「タマモよ、我等が主より授かった力を恥じているのか?」

 「アイン殿、ジロジロと見ないで欲しい。

  主殿のお力を恥じているわけではない。

  タマモは体を見られるのが苦手なのだ」


 「まあ、恥じらっている姿も悪くはないか。

  しかしだ、リウム様は変身魔法をお望みだ。

  早く立ち上がって主の期待に応えてみせろ」

 「変身魔法……成程!」


 タマモがボンっと煙に包まれ、煙が晴れると全身を包む程のローブを纏った姿で現れた。


 「主殿、これでお供する事が出来るぞ。

  何処いずこへ参られる?」

 「楽園都市の奈落へ向かう。

  エルフローレンも一緒だ。

  そうだな……俺がイメージした姿を見せるから、その姿に変身させてくれ」


 「あい分かった」


 エルフローレンを呼び、事情を説明した後、タマモに変身魔法をかけてもらう。

 俺が神官長でエルフローレンとタマモは修道女の姿になった。

 千里眼を使い、奈落へ繋がる穴の前まで転移する。

 周囲に人の気配はない……これなら変身魔法は必要なかったな。


 三人で奈落の穴へと飛び込む。

 ここに落ちた時と違って、今は能力も色々と持っているし全然恐怖を感じないな。

 風魔法を使い、落下速度を落としながら奈落の底へと辿り着く。

 早速だが落下した時に死んだ人間の亡骸が放置されている。


 10人居たので全員から能力を奪い、亡骸も回収する。

 他の15人は無事だろうか?

 奥へ進むと人影が見えた。


 「生存者か? 俺達は敵ではない。

  姿を見せてくれ」


 返事は無いが、声に反応してこちらへ向かってきている。

 そして、姿を現したのは正常では無いと一目見て判断出来る姿の人間。

 あれは……ゾンビか?


 「エルフローレン」

 「はい、まずは治療を試してみます」


 俺の魔法で拘束し、エルフローレンが治療を行う。

 しかし、苦しむばかりで効果は無い。

 仕方がないので、炎の魔法で葬ってやった。


 「少し見えて来たな。

  恐らくだが、全員ゾンビになっているのだろう。

  他の奴等も見つけて葬ってやろう」


 更に奥へ進み、残りの行方不明者達を見つけたので、同じように炎の魔法で葬ってやった。

 これで25人全員……いや、一人足りないな。

 千里眼で奥を見通すと、ゾンビでは無い人間を見つけたので、三人でその人物の元へと向かう。


 「あぁん、もしかして私殺されちゃうぅ?

  それにしては数が少いかぁー」

 「主殿、妙な気配だ。

  普通の人間ではないぞ」

 「そうみたいだな」


 この女の能力はランク5の吸血鬼。

 血を吸った人間はゾンビになる。

 眷属化する能力も持っているみたいだが、使わなかったようだな。


 「別にお前を倒しに来たわけではない。

  どちからと言えば助けに来た」

 「助けにぃ?

  じゃあ、私の下僕にしてあげる!

  感謝しなさい!

  今日からあなた達は女王様の家臣よ!」


 女王様気どりの吸血鬼か。

 哀れだな、吸血鬼による血を武器にして操る魔法で攻撃して来ているが、俺様の結界を打ち破る事は出来ない。

 圧倒的な力でねじ伏せる事も出来るが、戦闘経験は必要だし、二人にやらせてみるか。


 「二人で協力して戦え、そして生け捕りにしろ」


 俺の指示を受けて二人が動き出す。

 タマモは複数の分身を作り、攻撃を拡散させる。

 エルフローレンは真正面から真っ直ぐ突っ込んで行ってしまった。


 エルフローレンに吸血鬼の攻撃が直撃しているが、攻撃を喰らっても即座に回復するエルフローレンは気にする素振りすら見せずに前進する。

 

 「痛くないの? アハっ物理的な攻撃は効果的じゃないみたいね。

  それじゃあ、熱いのわぁ、どうかな?」


 前進するのを止めないエルフローレンに向かって吸血鬼は巨大な炎の火球をぶつける。

 凄まじい炎だ、奈落の壁が熱で溶けている。

 だが、それでもエルフローレンは止まらない。


 エルフローレンはこんな戦い方をするのか……それに、心なしかまだ余裕がありそうだ。

 吸血鬼の方も吸血鬼の能力だけじゃなく、炎の魔法をこのレベルで使えるのは驚きだ。

 

 「つまらないわね。

  あなたの苦痛に歪む顔って素敵だと思うんだけどなぁ」


 吸血鬼の背中から黒い蝙蝠の様な羽が生えて来た。

 そして、瞬時にエルフローレンの懐まで距離を詰め殴った。

 吸血鬼は身体能力が高く、易々とエルフローレンの体をその腕で貫いた。

 しかし、瀕死の重傷を負っているはずのエルフローレンはそのままの状態で吸血鬼を両腕で包んだ。


 「捕まえました、私の勝ちですね」

 「あなた凄いわね。

  でも、まだ捕まってないわ」


 そう言うと吸血鬼はエルフローレンの体を力任せに突き飛ばした。

 吸血鬼の体に腕を回していたエルフローレンの腕が吸血鬼の足元に落ちた。

 吸血鬼はその腕を拾い上げ、血を啜る。


 「あぁ……美味しい! やっぱり血って最高ね!

  ハァ、おかしくなっちゃいそうぅ!」


 吸血鬼は全身から血を噴き出し、全方位を攻撃する。

 奈落の壁をどんどん破壊しているので、かなりの威力がありそうだが、俺様の結界はやぶれない。


 攻撃が激しい為か、タマモが俺の結界の中へと入って来る。

 

 「主殿、あれはもう壊れておる。

  止めを刺すぞ?」


 

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楽園都市の追放者、支配者能力で俺様の楽園を築く。 ジャガドン @romio-hamanasu

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