第9話 妖狐~子供達の名付け
魔獣は人の姿のまま俺達と少し距離を取った。
人の姿になってからずっと魅了の能力をこちらに向けている様だが久遠の支配者である俺様にそんな能力は効かないし、配下もその能力は受け付けない。
傾国の美女なんて言葉があるが、俺様の楽園が女一人で傾くなんて事はないだろう。
「さて、俺達の力は分かったな。
手を出せば酷い火傷を負うぞ」
そう言って俺はゲウォルドを連れて別の場所へと向かおうとした。
「待て、それだけなのか?
他に何か理由があって来たのではないのか?」
「今はそれだけだ。
会話も出来るみたいだし、気が向いたらまた来るかもしれないがな」
「そうか……」
「寂しいなら俺が遊びに来てやるぜ?
お前、本当はもっと強いだろ」
「主はいらん。
嫌と言うておるのにやめんじゃろ」
「それは、目的しだいだろ。
俺だって嫌がる奴を殴っても面白さ半減だからな」
狐の魔獣は黙り込んでしまった。
ゲウォルドの発言に呆れたのだろう。
「ゲウォルド、いくぞ」
「待って……」
掠れた声でそう告げる魔獣の顔は今にも泣き出しそうだった。
「なんだ?」
返事をすると、魔獣はもう一匹の小さな狐の魔獣を召喚した。
「この子を連れていけ、非常にか弱く、独りぼっちにすると寂しさで死んでしまうから注意して扱うのじゃ」
「そんな奴はいらん。
ゲウォルド、抱きかかえるな、置いて行け」
「置いて行くな!」
なんなんだ一体……大神官の能力で魔獣の能力を見てみる。
ランク不明の大妖怪九尾の狐か。
俺様もアインと同様にランク5までの能力なら確認がそれ以上となると戦力として欲しくはなるな。
子狐の方も見てみる。
大妖怪九尾の狐……?
でかい方は確かに複数の尻尾を持っている。
しかし、子狐の方は一本だけだ……ん?
数えてみるとでかい方の狐の尻尾が一本少ない。
俺達を監視でもするつもりで自分の分体を連れていけと言っているのか。
俺の留守に悪さをされると困るな。
ああ、それなら保険の為にもここでこの魔獣を配下に加えてしまうか。
配下になってしまえば、どこからでも能力も奪えるし、能力を奪えば俺が離れていてもどうとでもなる。
「俺様は自分の配下以外の者はどうでもいいんだ。
子狐だろうが近くを嗅ぎまわる様なら殺す」
「なら、その子を配下にするがいい。
頭が良いのでな、色々と重宝するのは間違いないぞ」
よし、乗って来たな。
まあ、魔獣も配下になった後で裏切る、もしくは契約を誤魔化せると思っているのかもしれないが、こっちも保険程度にしか考えていないし、そうなったとしても構わない。
「わかった。
お前の名前はなんだ?」
「妖狐ダジの娘、タマモと言う」
「タマモか。
俺様はリウム・シカーサル。
タマモよ、俺様の配下になれ」
「妖狐タマモ、リウム殿の配下となる事、承った」
魔獣相手でも問題なく配下に加える事が出来た。
そして、気付かない振りをしているが、しっかりでかい方の支配権も獲得している。
動物が好きなのか、タマモを配下に加えた時点でゲウォルドはタマモを抱き上げてしまった。
タマモも抱っこは嫌いじゃない様子で大人しくしている。
でかい方はあんなに嫌と言っていたのにな。
森の脅威はだいたい把握したし、一旦拠点に戻るか。
ダジに別れを告げて拠点へと転移する。
タマモの危険性について、アインとエルフローレンに報告した後、タマモとゲウォルドを置いて、一人で草原の方へとやって来た。
エルフローレンからタマモが子供達にもみくちゃにされていると言う報告があったが、楽しそうで何よりだ。
草原は見通しもいいし、あまり動物や魔獣も見かけなかったので安全だと思っていたが、これは森よりも危険かもしれないな。
毒蛇が沢山いる。
しかも普通の毒では無いな。
大型の動物なら即死、強い魔獣でも苦しんで死ぬだろう。
あらゆる毒への完全耐性のある毒士の能力を持っているお陰でなんともないが、俺とエルフローレン以外は対策なしで草原には入れないな。
後は川の方も見ておくか。
川上の方へ転移して、川下の方へと歩いて行く。
遠目に見ていた時は分からなかったが、結構流れが早い。
水質は非常によく、川魚も沢山いる。
危険があるとすれば水を飲みに来た動物や魔獣くらいか。
川の調査も済んだので拠点に戻る。
「エルフローレン、ガキ共の調子はどうだ?」
「みんな簡単な魔法なら使えるみだいですね」
「継続してキノコを食べれば魔力量も増えていきそうだな。
よし、ガキ共を集めろ」
エルフローレンに子供達を集めさせ、全員が揃った。
子供達には拠点の発展に貢献して貰おうと思う。
それで、全員を配下に加え、能力を与えていくつもりだ。
「ガキ共、お前達を俺様の配下に加える価値があると判断した。
全員俺様の下僕となり、この拠点の発展に励むいい」
みんな戸惑いながらも、他に選択肢もなく、俺様の言う通りにする事を選んだ。
全員が配下になったので能力を与え、新たな名前を与える。
まずは、俺の拾った貴族の子供から。
「お前は元々魔法の素質があったな。
得意な魔法はあるか?」
「風の魔法が得意です」
「そうか、なら狩人の能力を与える。
そして、新たに名前も授ける。
今後お前は狩人のカリーンと名乗れ」
「カリーンですか……わかりました」
続けて他の子供達にもどんどん能力と名前を与える。
まずは男5人。
建築家のタテル、
そして、女4人。
服作り全般を熟せる裁縫士のオフク、漁師のツリリン、楽園を草食する為の花を育てる栽培士のハナコ、薬師のヒーラーだ。
名付け終わると皆妙な視線を向けて来る。
エルフローレンとアインも、そして、あのゲウォルドまでが不振に満ちた視線をこちらに向けて来る。
「何か言いたい事があるなら言え」
そう言うと、皆が口々に安直すぎる名前に対しての文句を言い始めた。
まあ、オフクと名付けた辺りで文句を言いたそうな顔をしていたからな。
ここで俺の頭の中にタマモの本体であるダジの一言が過った。
「頭が良いのでな、色々と重宝するのは間違いないぞ」と言っていたし、子供達の名前はタマモに任せるとするか。
そして、子供達の名前が決まった。
しかも俺が名付けた時とは違い、子供達の反応がいい。
まず男6人が狩人の
子供達に能力も与えたし、明日からは近くの街や国の調査でもしてみるか。
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