第8話 森の狸と狐の魔獣

 拠点に戻ると、朝食のキノコ鍋が出来上がっていたので美味しく頂いた。

 エルフローレンに子供達を見てもらい、ゲウォルドにはその護衛を頼んだ。


 「護衛だな、了解ボス。

  ところで、ボス達はこの後何をするんだ?」

 「アインと一緒にこの拠点周辺の調査だ」


 「調査? そんなもんお得意の千里眼とかでパパっとすりゃいいんじゃねーのか?」

 「もちろん、千里眼で周囲は確認済みだ。

  だが、見ただけでは分からない危険もある。

  毒を持った虫や植物なんかがそうだな。

  あとはモンスター退治だな」


 「モンスター退治?」

 「まあ、モンスターだけじゃない。

  この辺りには人が住んでいないだろ?

  人間の脅威なんて知らないんだ」


 「成程な、そのうち興味本位で近づいてくる奴が出て来るって事か」

 「ああ、だから俺達に手を出せばどうなるのかって言う事を理解させる必要がある」


 「面白そうだな。

  俺が着いて行ったら駄目なのか?」

 「別に構わないぞ。

  アイン、ゲウォルドの代わりにエルフローレンとガキ共の護衛を頼めるか?」

 「ええ、俺は別に構いませんよ」


 そう言う訳でまずは森の方へ行く。

 色々な能力の鑑定能力を使って植物や見かけた虫なんかも調べ、森の深くへと足を踏み入れる。

 今のところ毒のある植物が少し見つかったくらいか。

 薬になる植物もいくつかあったし、覚えておこう。


 後は小動物が沢山いる。

 それを狩る肉食動物も確認出来ている。

 

 「ゲウォルド、今から魔法でマークを付けるから、そいつ等を追い回して傷を負わせろ」

 「オーケーボス、仕留めない方がいいんだよな?」


 「ああ、その方が都合が良い。

  でも、最悪殺してしまっても問題はないぞ」


 動物達を追い回しながら更に森の奥へと進むと、血の匂いに引き寄せられたのか、一匹の大きな魔獣が現れた。

 姿は狼に似ているが、角が生えている。


 詳しく知る為に、ゲウォルドに戦って貰いながら鑑定を試みる。

 鑑定しても同一の魔獣が見当たらないし、どうやら新種の魔獣らしい。

 ゲウォルドが金砕棒かなさいぼうで一撃入れると逃げ出してしまった。


 「なあ、もっと強そうな奴はいないのか?」

 「どうだろうな?

  一応、強そうな魔獣の方へと向かっているんだ」


 「魔獣かぁ、さっきの奴も魔獣なんだろ?

  それだとあんまり期待出来そうにねぇな」

 「今向かっている先にいるのはさっきの奴の10倍くらい大きいぞ」


 「10倍? 30メートル以上あるって事か?

  流石にそれは盛り過ぎだろ」


 ゲウォルドは俺が冗談を言ったと思ったのかガッハッハと大きな笑い声をあげている。

 構わずその魔獣の方へと向かっていると、草一本生えていない大きな広場にでる。

 そして、巨大な洞穴が地面に掘られている。

 ここがその魔獣の住処だ。


 「この穴の奥にさっき言った魔獣がいる。

  魔法でちょっかいをかけるから戦闘準備をしておいてくれ」

 「いつでもいいぜ、今度の奴は俺を楽しませてくれるといいんだけどな!」


 魔法で穴の奥を爆発させる。

 魔獣が動いたので俺も警戒して身構える。

 ゆっくりと大きな狸の魔獣が洞窟から身を乗り出してきた。


 「人間か、珍しい」

 「言葉を話せるのか?」


 「話せる、魔法を使ってだがな」

 「そうか、俺達はこの近くに住んでいる。

  襲われない様にする為にこの辺りの動物や魔獣に攻撃をして回っているんだが、お前にその必要はあるのか?」


 「我は人間など襲わない。

  我を見つけているのなら、もう一匹も見つけているのか?」

 「ああ、狐っぽい魔獣の事か?」


 「そうだ、あいつは人間を襲うぞ」

 「そうか、ならそっちを当たってみる」


 「ああ、生きていればまた来るがいい」


 生きていればって言うのは、狐の魔獣に殺されなければって意味だろうな。

 それ程好戦的な相手ならゲウォルドも満足してくれるだろう。

 狐の魔獣は湖の近くにある大きな岩の上で丸くなって寝ている。

 少し遠いので転移を使った。


 俺達が居ても構わず寝ている。

 だが、耳をこっちに向けて警戒している。

 舐めた態度を取られているので、ゲウォルドに攻撃命令を下す。


 ゲウォルドが突っ込み、金砕棒かなさいぼうで殴りかかると、狐の姿が消え寝床にしていた大岩が砕けた。

 

 「わらわの寝床が……」

 「お前もしゃべれるのか。

  まあいい、俺様達に危害を加えればその寝床の様になる。

  俺達はそれを伝えに来たんだ」


 狐の魔獣はこちらを睨み、魔法で攻撃を仕掛けて来た。

 青い炎の玉が飛んで来る。

 速度はそれ程でもないが、永遠と追尾してくる。


 ゲウォルドは玉を叩き落しながら狐の魔獣を追い回している。

 攻撃が当たったと思った瞬間に魔獣は姿を消して別の場所へと現れる。

 転移を使えるのか。


 それならその転移を封じさせてもらう。

 この辺り一帯を空間術士の能力で包み込み、結界術士の能力で脱出と転移を禁じた。

 まだ転移が使えると思っている魔獣は思いっきりゲウォルドの一撃を喰らった。


 「痛すぎイイイイイイ! 止めてええええ! 滅びるぅううぅう!」


 そう言ってその場を走り去った狐の魔獣は俺様の結界に阻まれ、隅の方でいくつもあるしっぽを丸めて小さくなっていた。

 小さくなってと言っても、さっきの狸よりも少し小さいくらいなので20メートルくらいはあるのででかい。


 「おいおい、なんの為にそんなでかいんだよ。

  もっと俺と遊ぼうぜ」


 ゲウォルドが無警戒に近づくと、狐の魔獣が不意を突いて巨大な青い炎を口から吐き出した。

 ゲウォルドは真面に喰らいながらも金砕棒かなさいぼうを振りかぶり、もう一撃叩き込む。

 しかし、その一撃は魔獣の尻尾で受け止められてしまう。


 「ほう、あれを喰らって人の形を保てるとはな。

  それに、人の身にそぐわぬ怪力。

  ぬしらは何者じゃ?」

 「話し合いをしている暇はないぞ」

 

 ゲウォルドは魔獣の尻尾を掴んで走り出し、グルグルと振り回して地面に叩きつける。

 そして、魔獣の顔目掛けて金砕棒かなさいぼうを投げつけ、すぐに新しい金砕棒かなさいぼうを生成しまた投げるを繰り返す。

 すごく楽しそうだな、魔獣の方は尻尾で弾き返しているが明らかに痛そうにしていて、だんだん下がって躱す様になっていた。


 「お主ら……この仕打ちは、一体わらわが何をしたと言うのじゃ!」


 俺様の事をゲウォルドの主人だと認識しているのか、狐の魔獣は俺の方を見てそう言った。

 まだ余裕があるみたいだ。


 俺は天撃魔法による雷光を纏い「うおおおお!」と雄叫びを上げた。

 特に何もするつもりはない。

 俺に注意を向けた魔獣の顔にゲウォルドが飛びついてしまっただけだ。


 魔獣は顔を振り、ゲウォルドを振り落とそうとするが、しっかりと顔の毛を掴んだゲウォルドは振り落とされず、そのまま金砕棒かなさいぼうを出して殴り始めた。

 

 暴れるかと思ったが、魔獣は近くにある湖にゲウォルドごと顔を突っ込む。

 湖が魔獣の血で赤く染まっていく中、魔獣は顔をつけたまま微動だにしない。

 しばらくすると息継ぎの為にゲウォルドが湖から出て来た。

 魔獣は即座にゲウォルドから距離を取る。

 

 「もう、ええじゃろ?」


 魔獣の言葉は虚しく、ゲウォルドは嬉々として魔獣の方へと駆け始める。

 魔獣はゲウォルドから背を向けて走り出し、結界内をグルグルと追いかけっこを始めた。


 結界はそれ程広くもないし、圧倒的に魔獣の方が足は速いが、だんだん近道をして追い詰めるゲウォルドの方が有利だ。

 徐々に追い詰められた魔獣は人間の姿に化けて、俺の後ろに隠れてしまった。


 「本当に……もう、ええじゃろ!」


 不敵な笑みを浮かべ、火傷だらけのゲウォルドが俺の前で、後ろの魔獣を捕まえようとしている。

 息を切らした魔獣が俺の肩を掴んで、巧みにゲウォルドが回って来れない様にガードしている。

 しかし、ゲウォルドは俺の肩を掴んでいる魔獣の腕を掴んだ。

 その瞬間「嫌じゃああ!」と悲鳴を上げ、ゲウォルドに引っ張られていく。


 「嫌いになりそう! 嫌いになりそうじゃ!」

 「はあ? 嫌いになりそうってなんだよ?

  お前、人を襲う魔獣だろ?」


 「嫌いになりそう! 嫌いになりそう! 嫌いになりそう!」


 効果があるのか分からないが、ゲウォルドは掴んでいた魔獣の腕を離してしまった。

 

 

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