第7話 魔法少女?~諜報員

 朝日が昇る前に起床し、鍋に朝食用のキノコを大量に投入する。

 今日はアインの言っていたネスティと言う正義感の強い黒髪の女に会いに行く。

 早朝は修道女だけで集まり、聖堂で祈りを捧げたりしているらしい。


 俺に使えるか分からないが、変身する能力を使い、神官長に変身してみようと試してみる。

 んー……使えないな。


 「おはようございます、リウム様。

  何かお困りですか?」

 「アインか、おはよう。

  神官長に変身しようとしたんだが、魔法が発動しなかったんだ。

  やはり、条件を満たしていないと能力だけ持っていても使えないらしいな」


 「変身魔法ですか。

  条件とは、どのような事ですか?」

 「魔法少女と言う能力だ。

  俺様は男だから条件は満たせていない」


 「少し見せて下さい。

  なるほど、確かに変身魔法とありますね。

  それに、魔法少女化と言う能力もある様です。

  つまり、魔法少女に変身すれば、変身魔法が使えるかもしれませんね」

 「そう言う事か。

  試してみよう」


 魔法少女化するには、呪文を唱える必要があるらしい。

 ヘイロウ・ヘイロウ・ハウロウ・アミュラト・アミュラト・マスキートゥ・イエイ・マイ・リビドゥ。

 これ……口に出して言わないといけないのか。

 普通に嫌だが、二度と唱えないだろうし一度くらいいいか。

 呪文を口にすると、能力が発動し、魔法少女化出来たようだ。


 「妙な服を着ているし、魔法少女化出来たようだな。

  早速、変身魔法を使って神官長になってみるか」

 「少しお待ちください」


 「どうしたアイン?」

 「いえ、少々勿体ないと思いまして」


 「勿体ない?」

 「リウム様は今、とても可愛らしいお召し物来ておられます。

  少し少女らしい姿勢で立って頂けますか?

  口調も女の子らしく、そうですね、妹様の口調を真似て頂ければよいかと思います」


 俺様は女の子ではないので却下だ。

 そういう訳でとっとと変身魔法を使い、神官長に変身する。


 「ふむ、どうだね?

  アイン・グラビガ君。

  なかなか様になっているとは思わんかね?」

 「はぁ……ゲウォルドではないですが、その顔をみるとぶっ飛ばしたくなりますね」


 「つれないな。

  せっかく上手く変身出来たと言うのに」

 「いってらっしゃいませ」


 「せっかく上手く変身できたと言うのに?」

 「いってらっしゃいませ!」


 おいおい、本当にちょっと怒ってる感じがするぞ?

 よほど神官長が嫌いな様だな。

 これ以上機嫌を損ねてもいい事もないし、さっさと楽園都市へ転移するか。


 千里眼で確認し、楽園都市の聖堂近くまで転移する。

 周囲に人がいないのは確認済みだ。

 他に気になる点もない。


 聖堂内に入ると、修道女達が熱心に祈りを捧げている。

 アインの話しだと、ネスティは黒髪のショートヘアで小柄な女性……そんな感じの女が複数いるわけだが……。

 手っ取り早く誰かに連れて来て貰うか。

 一番後ろで祈っている修道女に小さな声で話しかける。


 「少し、いいかな?」

 「神官長様!? いかが為さいましたか?」


 「驚かせてすまない。

  実は、早急に確かめなければならない事が出来てしまってね。

  ネスティを呼んで来てもらえるかな?」

 「はい、畏まりました」


 修道女がスッと前の方へ行き、ネスティーを連れてきてくれた。

 

 「神官長、私に何か御用ですか?」

 「ああ、確かめたい事がある。

  着いて来なさい」


 聖堂を出て、千里眼で人のいない場所を確認し、その場所へとネスティーを連れて行く。

 神官長の事が嫌いなのか、道すがら一言もしゃべる事は無かった。

 よし、この辺りでいいか。


 「さて、確認したい事があるのだが、いいかな?」

 「はい」


 「私は神官長として相応しいと思うかね?」

 「お答え出来兼ねます」


 「ほっほっほ。

  実質的に答えを言っている様なものではないか。

  なら、誰なら神官長に相応しいと思う?」

 「ご存命であれば、アイン・グラビガ様だと思います」


 「成程な。

  しかし、彼は死んでしまっている。

  彼が生きている、などとは考えるべきではない」

 「アイン・グラビガ様は行方不明のはずでは?

  確かに、消息を絶ってから5年以上経っていますが、亡くなっておられるとは断定できません」


 「いやいや、彼を殺した本人がそう言ってるのだから彼はもう死んでいるのだよ」


 そう言った瞬間にネスティーは懐へ入り、両手に持った短剣で斬り掛かって来た。

 少し驚いたが、大した腕では無いのであっさりと彼女の両腕を掴み、無力化した。

 大神官の能力でネスティーの能力を見る。


 成程、ネスティーはランク2の暗殺者。

 ナイフや暗器を魔力を消費して生成出来る能力の他にも、気配を消したり、殺気を殺したり、一時的な身体能力の強化など出来るみたいだ。


 「なぜ、大神官のお前が私の攻撃を見切れる!?」

 「簡単な事だ。

  私が神官長ではないからだよ」


 俺は変身魔法を解除する。


 「姿が変わった!?

  でも、えっ? 女の子?

  その服装は何なんです?」


 ああ、変身魔法を解いても、魔法少女化は解けていないのか。

 魔法少女化は……変身した時の呪文を逆から唱えるのか。


 「ちょっと待て。

  リビドゥ・マイ・イエイ・マスキートゥ・アミュラト・アミュラト・ハウロウ・ヘイロウ・ヘイロウ。」

 「ちょっと、何を言ってるの!?」


 体が光った後、変身が解ける。

 

 「さっきみた少女の事は忘れろ。

  これが俺様の本来の姿だ」

 「あなたってもしかして行方不明になってるリウム・シカーサル君じゃない?」


 「よく分かったな。

  手間が省けた」

 「自分の事を俺様だなんていう人は殆どいませんし、行方不明者の事は調べていましたから」


 「成程、聞いた通り正義感の強い女だな」

 「それ、誰に聞いたんです?」


 「今から合わせてやる」


 ネスティーを連れて拠点へと転移する。

 ネスティーは一瞬で景色が変わった事と、目の前にアインが現れた事に戸惑いを隠せない様子だ。


 「これは……嘘? いや、夢……なんでしょうか?」

 「夢じゃない。 現実だ。

  ついでに言うと、ここは楽園都市の外だ。

  久しぶりだな、ネスティー」


 「アイン・グラビガ様!

  ご存命だったのですね!」

 「もう俺はそう言う立場にない。

  今はリウム様に仕える一人の男に過ぎない」


 「それでは、私は何故ここへ呼び出されたのでしょうか?」

 「お前もリウム様に仕えて欲しい。

  俺からはそれだけだ」


 俺はネスティーにこれまでの経緯や奈落の事を話した。

 そして、楽園都市からの情報が必要だと言う事も伝える。


 「つまり、今後行方不明者が出た場合、その都度報告すればいいんですね」

 「そうだ、他にも楽園都市の秘密を探ったりして欲しいが、無理はしなくていい」


 「わかりました」


 俺様に仕えると同意も得たので、配下にしてランク4の忍者の能力を与えた。

 そして、元の場所へと送り届ける。

 

 「危険な事に首を突っ込む必要は無い。

  もし、危機的な状況になったら呼びかけてくれ。

  すぐに転移して駆けつける」

 「はい、あの……」


 「どうした?」

 「また、あの場所に連れて行って貰えますか?」


 「ああ、アインに会いたいんだな」

 「そ、そういうわけでは……。

  でも、お願いしますね」


 走り去るネスティーの背を見送り、拠点へと帰還した。

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