第6話 楽園への第一歩

 転移する為に街の方を千里眼で覗くと、武装した集団が街へ向かっているのが見えた。

 あれが街の女性から聞いた好き勝手暴れているダイカリンの奴等か。

 馬に人の死体を引かせて遊んでいるみたいだ。

 街からはまだ遠いし、あいつ等を攫って情報を得るのも悪く無いな。

 早速ダイカリンの兵の元へと転移する。

 目の前に突然現れた俺様を見て少し驚いている様子、20人くらいいるが問題ないだろう。


 「お前、どこから現れた?」

 「俺様に質問するな。

  そうだな、とりあえず後ろの奴等はいらないな」


 魔法による攻撃をする。

 天撃魔法による落雷の魔法だ。

 兵達は魔力を持たない外の人間なので、あっけなく3人を残し絶命した。


 「ま……魔法……?

  あんたまさか、魔人なのか?」

 「質問をするなと言っただろう。

  そう言えば、面白そうな事をしていたな。

  馬に引かせている死体は生きているうちに引かせるものなのか?

  一人生きていれば十分だし、二人はおもちゃにしようと思っている。

  お前達の中で誰が一番有能か教えてもらえるか?」


 「頼む! 何でもするから見逃してくれ!」

 「お……俺はこいつ等とは関係ないんだ。

  あんたの言う通りにするから命だけは助けてくれ」

 「いや待ってくれ!

  この二人は嘘吐きだ!

  正直者の俺ならあんたの役に立てる!」


 どれを残しても同じか。

 二人を魔法で葬り、最初に口を聞いた奴だけを残した。

 ん? 馬に引かれたいた死体の一つが動いた様な気がする。

 近くへよって確かめると、呼吸をしている子供が一人いた。


 「生き長らえたいか?」

 「……き……たい」


 「お前、見た所手足もないみたいだが、本当に生きたいのか?

  俺なら苦しめずに葬る事もできるぞ?」

 「い……き、たい……です」


 「そうか」


 この少年と、生き残した兵と馬をつれて皆の待つ拠点へと転移した。

 

 「アインはこの兵士から必要な情報を聞いてくれ。

  死なない程度に甚振って構わない」

 「仰せのままに」


 兵士はアインが少し離れた場所まで連れて行った。

 魔法を見て魔人とか言っていたし、その辺りの事も聞いておきたいな。


 「エルフローレン、この少年を頼む」

 「わかりました。

  これは……酷いですね。

  このまま回復を施しても体力が尽きてしまいそうです」


 「俺も回復に協力する。

  治療を始めろ」


 エルフローレンが少年の治療を始める。

 俺は水の上位魔法で飲み水を少年の口へと運んだ。


 「水だ、ゆっくり飲んで喉の渇きを癒せ。

  そして、今からキノコを突っ込む。

  しゃぶるだけでもいいが、飲み込めそうなら飲み込め」


 はちみつの様に甘いキノコを生成して少年の口へと突っ込む。

 少年は俺様の言う通り、キノコの咀嚼を始めた。


 「リウム様、この子……魔力を持っているようです」

 「ならアガルスの貴族の可能性が高いな。

  元々魔力を持っているのなら、エルフローレンの回復も通りやすいだろう」


 エルフローレンが魔力を高めて回復を行うと、少年はみるみるうちに回復していった。

 エルフローレンが少年を抱きしめ「生きてくれてありがとう」と感謝の気持ちを述べる。


 何か食べさせようと思ったが、鍋の中は空か。

 そのまま食べても問題ないので、好きに食べろと言って少年にキノコを手渡した。

 さて、兵から何か情報は聞き取れただろうか?


 「何か有益な情報は手に入ったか?」

 「ええ、そこそこと言った所ですね」


 「わかった、聞かせてくれ」


 アインは外の世界の常識や生活習慣などから始まり、戦力になりそうな種族なども聞き出してくれていた。

 もうこの兵からは有益な情報は聞き出せそうにないので、魔法を使い止めを刺してやった。

 あと、やるべき事は楽園都市の情報収集か。


 「アイン、楽園都市の情報を集める為に諜報員が欲しい。

  知り合いでこっちに寝返りそうな奴に心当たりとかないか?」

 「俺の周りにいた人物ですと、丁度いいのが一人いますね。

  ネスティーと言う正義感の強い修道女です。

  神官長に対して不信感を募らせていたので真実を話せばこちらに寝返ってくれるでしょう」


 「そうか、それなら明日にでも楽園都市へ潜入して接触を試みよう」


 子供達の様子を見に、エルフローレンの元へと帰って来た。

 万全とまではいかないが、それなりに元気そうだ。

 

 「エルフローレン、新たな仕事だ。

  今から子供達に魔力を宿したキノコを食って貰う。

  こいつ等にとっては猛毒だから治療を行ってくれ」

 「わかりました」


 このキノコを毎日食べていたら、魔力を取り入れて魔法を使える様になるかもしれない。

 一週間で成果がなければ辞めるつもりだ。


 そろそろ日も暮れそうだし、男三人で雨風が凌げるだけの小屋を建てる。

 森から魔法で木を伐採し、ゲウォルドには木材を運んでもらう。

 土の魔法で基礎も作ったし、それなりにしっかりとした小屋を建てるつもりだ。


 建築する能力を持っているおかげで、スムーズに小屋を建てる事は出来たが、すっかり日が暮れてしまった。

 エルフローレンの治療も終わっている様子なので、子供達に魔法の初歩である小さな明かりを灯す魔法を使わせた。


 10人中3人は魔法を使う事に成功した。

 この分だと三日後には全員魔法が使える様になっていそうだ。


 「ガキ共、よく聞け。

  この場所に俺様の楽園を築く。

  そして、俺様は楽園の王だ。

  お前達は俺様の為に存在すると言っても過言ではない。

  しっかり食べて強くなれ、そして真面に魔法も使える様になったら俺様の配下に加えてやる。

  心しておけ」


 あまり子供達の反応は良く無いが、俺に助けられた貴族の少年だけは俺に忠誠を誓うと言ってくれた。

 初日だしこんなものでいいだろう。


 毛布も何もないので少し体が冷えるな。

 小屋の中いっぱいに羽毛の様に軽いキノコを敷き詰めて寝る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る