第5話 配下への能力壌土~準備期間
さて、どのようにして情報を集めるか。
この街の住人は飢えているし、少し満たしてやれば口を開いてくれるかもしれない。
建物の窓からこちらを見ていた女性に声を掛けてみる。
「そこの人、俺達は旅をしてやって来たんだが、話を聞いて貰えるか?」
「いいよ。
時間だけはいくらでもあるからね」
その女性はそう言って、俺達二人を建物の中へと招き入れてくれた。
建物の中は椅子やテーブルもあるし、調理場の様な場所も見える。
もしかして、ここは家なのか?
楽園都市だと、ちゃんと家を建てられる区画があって管理されていたから、この道端に建てられている雑多な建物が住居だとは思わなかった。
「この街の状況について教えてもらえるか?」
「ああ、旅の人って言ってたわね。
見た通りよ。
戦争に負けて、ありとあらゆるものを奪われたわ」
「そうか……。
沢山持っているわけでは無いが、このキノコを貰ってくれ。
そのまま食べても大丈夫なキノコだ。
もう少し話を聞かせてもらえるか?」
「あら、ありがとう。
なんでも聞いて頂戴」
了承を得たので色々と質問を投げかけると、この女性から色々と話を聞く事が出来た。
この国アガルスは、ダイカリンと言う国に戦争を仕掛けられ蹂躙された。
ダイカリンと言う国はかなり碌でもない国らしく、敗戦国であるアガルス領地内で戦争の終わった今も好き勝手暴れ回っているらしい。
街中でそいつ等と出くわすと面倒だし、あまり長くはいられないな……。
女性に生活で使える鍋などを譲ってくれそうな人物の情報を聞き、礼を言ってその人物の元へと向かった。
女性の案内通りに進むと、目的の人物はすぐ見つかった。
大量のキノコを見せると喜んで交換に応じてくれる。
交換したのは大きな鍋と器にコップ、スプーンなどだ。
魔法や能力を使う訳にはいかないから、それらを手に持ったまま街の外へと出る。
人目の無い場所まで来たので、エルフローレンとゲウォルドに連絡をいれると、すぐこちらに向かって来るそうだ。
しばらくすると荷車を引いて近づいて来る二人の姿があった。
「その荷車をどうしたのか聞きたい所だが、全員瀕死か?」
「早急に治療する必要のある子供達です」
子供達の姿は酷いものだった。
足の指なんかは皆千切れて、10本ある子供はいない。
それに、ガリガリにやつれているし、腕や足の無い子供もいる。
ここで話している暇はないか。
千里眼を使い、拠点とする場所を探す。
人里から離れていて、近くに川のある場所がいい。
丁度いい場所を見つけたので、子供達も含めて転移する。
人里から離れた土地だが、近くに森もあって気温も悪くなさそうだ。
早速エルフローレンに治療させてやりたいが、一つ確認しておかなければならない事がある。
「エルフローレン、お前は毒や病気の治療は出来るのか?」
「無理やり再生を続け、悪いところを排除するやり方でならなんとかなると思います!」
「それだとその子供達の治療は出来ないな。
魔力の無いそいつらにとって魔法は猛毒だ。
だから、お前に新たな力を与える」
大神官の能力を使い、エルフローレンの能力を見る。
野戦回復術士? 普通の回復術士と違うのだろうか?
怪我などの回復に特化した能力みたいだけど……。
「成程、それじゃあ病気や中毒症状にも対応できる治癒術士の能力を与える。
そして、もう一つ相性の良さそうな巫女の能力もやろう」
「ありがとうございます」
「これから子供達の治療を許可するが、魔力中毒を治癒しの能力で治しながら、可能な限り力を抑えて治療しろ。
一気にやってしまうと、あっと言う間に魔力中毒で死ぬから気を付けてやれ」
「わかりました」
エルフローレンが子供達の治療に入った。
かなり集中しているし、時間も掛かりそうだ。
「生きて、生きて!」と声を掛けながら治療を行っている。
ゲウォルドとアインにも新しい能力を渡しておくとするか。
ゲウォルドの能力は……修羅?
戦いに特化した能力で武器の扱いにも長けているみたいだ。
それなら武器を生成出来る能力も良さそうだな。
「ゲウォルド、お前にも新たな能力を与える。
今の能力に似た名前の
「ん? 似た名前?
俺は狂戦士のはずだぜ?」
「それならクラスアップした時に変化したと言う事か。
もう一つ、魔法や飛び道具系の能力を渡そうと思うのだが、どんな能力がいい?」
「そんなもん石でも投げりゃいいんだよ。
それより、この
狭い場所でも戦える身体能力を高める能力にしてくれ」
「わかった。
それなら、修行僧の能力を与えてやる。
素手での格闘術が出来て、自身を回復させたりする事が出来る」
「ありがとよ!
これで更なる高みを目指せるぜ」
最後に、アインだな。
アインは元々大神官だったが、大神使になっている。
やはりクラスアップをすると変化しているみたいだ。
「俺にも新たな能力を下さるのですね。
それでしたら、元々俺は氷系の魔法が得意ですので、それにちなんだ能力をお願いします」
「わかった。
それじゃあ、氷魔術師の能力を与える。
もう一つはどうする?」
「そうですねぇ……もう一つ氷系の能力を頂けますか?」
「それでいいなら構わないぞ。
そうだな……氷葬魔術師ならあるが、これでいいか?」
「構いません」
さて、それぞれに能力も渡せた事だし、手の空いている俺とアインで食事の用意をする。
薪を広い集めて火を熾し、川から汲んで来た水を鍋に入れて、そこにキノコを大量投入する。
味付けなんか出来ないが、キノコには十分な味が着いているし不味くはないだろう。
エルフローレンの「生きて、生きて!」の声が大きくなったかと思えば「ごめんなさい」を連呼し始める。
様子を見ると、ほとんどの子供は回復出来た様子で、欠損していた部分も治っている。
エルフローレンは一人の子供を抱いて「ごめんなさい」と謝り続けている。
「息をしていないのか?」
「はい、ほんの少し前まではありがとうって言ってくれてたんですよ」
順調に回復はしていたけど、体力が尽きてしまったと言う事か。
元々瀕死だったし、エルフローレンが悪い訳ではない。
「その子は俺が埋葬する。
その後、皆で弔ってやろう」
「はい……」
少し離れた場所へと移動して、土魔法で穴を空け、遺体を火の魔法で骨だけにしてから土をかぶせた。
遺骨の状態にしたのは、こうしないと疫病の原因になったり水質汚染に繋がるからだ。
皆で祈りを捧げた後、全員でキノコ鍋を食べる様に指示を出した。
キノコ汁を啜っていると、エルフローレンが俺の前に跪いた。
「ん? どうした?」
「一人死んでしまったので、あの街からもう一人連れて来て貰っても宜しいでしょうか?
10人までなら救ってもいいんですよね?」
本当は断りたい所だが、一人でも多くの命を救いたいんだろうな。
俺も10人までなら助けていいと言ってしまったし、仕方がない連れて来てやるか。
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