第4話 旅立ち~外の世界へ
クリク兄ちゃんが現れた。
しかし、何も言ってくれない。
それに、とても悲しそうな顔をしている……。
「クリク兄ちゃん……僕ね、すごく頑張ったんだよ?
それにね、王様になって本当の楽園都市を目指そうと思ったんだ。
どうして……何も言ってくれないの?」
「ごめんね、眠っている間、ずっとリウムを見守っていたんだよ。
だから……戸惑ってしまってるんだ」
「戸惑っている?
どうして?」
「三年前までは僕の後ろを雛鳥みたいについて来て、僕の真似をして遊んでいる可愛らしい男の子だったじゃないか。
才能があるのは分かっていたし、いずれ僕を見つけてくれるとも思っていたけど、さっきまでのリウムは別人のようだったからさ」
「だって、普通の王様になっても楽園都市は変えられないと思ったんだ。
悪い人が優しい王様の話しなんて聞かないでしょ?
それに、もうすぐ終わらせられると思うから!」
「終わらせられる?
その能力を使って楽園都市を力で捩じ伏せようと思っていたりする?」
「うん。 だって、この能力すごいよ?
今ならお父様にだって負けないよ」
「リウム、確かに強くなったかもしれないけど、楽園都市を相手にするには力不足だよ。
だから、約束して欲しい」
「約束?」
「一つ、外の世界に出て戦力になれる協力者を募る事。
二つ、潜伏して徹底的に敵の事を調べ上げ、本当に勝算があるのかを見極める事。
三つ、二年後に奈落へ落とされるであろうアルトちゃんを助けて、一緒に生活する事」
「それって守らなきゃ駄目な事なの?」
「ああ、この約束を守れないようなら楽園都市と戦っても負けてしまうだけだ。
僕との約束、守ってくれるかな?」
「クリク兄ちゃんがそう言うなら、約束は守るよ」
「ありがとう。
それじゃあ、僕はもう行くね」
死霊術が解け、クリク兄ちゃんは行ってしまった。
僕は、どうか安らかにと祈りを捧げた。
クリク兄ちゃんの亡骸を回収して、能力を奪う。
能力はランク6のキノコ大明神。
思い描いたキノコを無限に生成出来る能力。
アイン達はこのキノコで三年間食い繋いでいたのか。
やっぱりクリク兄ちゃんは凄い。
僕もみんなの期待に応えるとしよう。
来た道を引き返そうとして、部屋になっている所を抜けると、すぐ側で皆待っていた。
「おい、まさか聞き耳を立てていたのか?」
「いえ、決してその様な事はございません」
「クリクさんとお話をされていた事は分かりますが、ここからは何を言っているのかまでは聞き取れませんでした」
「なあ、よく分からねえんだけど、王様になるのにどうして別人みたいに振る舞う必要があるんだ?」
「ゲウォルドさん!?」
やっぱり聞き耳を立てていたのか。
まあ、内容自体は別に聞かれても構わない。
聞いていなかったと言うのなら、突き止める必要もないだろう。
「ゲウォルド、別人みたいに振る舞っているわけじゃないんだ。
生半可な気持ちで王になると言っているわけではないと言うだけ。
気にするな。
それじゃあ、これから外に出ようと思う。
皆、準備はいいか?」
三人共問題なさそうなので、外に出る為の能力を使う。
空間魔術士の能力を使い、四人を囲む。
魔眼の一つ、千里眼を使い、外の景色を見通し、都合の良さそうな場所に空間魔術師の能力で転移する場所を確保。
転移術士の能力でその場所へと転移した。
千里眼を使った時に見えていたけど、凄い景色だ。
楽園都市でも草は見た事はあるが、こんな地面を覆う程の草は見た事が無い。
エルフローレンもゲウォルドも一面広がる草ではしゃいでいる様子だった。
俺もはしゃぎたい気持ちはあるが、まずは奈落で眠っていた亡骸達をここで弔ってやろう。
土の魔法を使い地面に大きな穴を空け、そこへ奈落で回収した亡骸達を並べ、土をかぶせて埋葬し、皆で祈りを捧げた。
「楽園都市の外の世界について知識がある奴はいるか?」
三人共首を傾げ、分からないとジェスチャーする。
当然だ。
俺も全く知らないし、楽園都市での暮らしに外の情報など必要なかった。
「楽園都市と戦うには、外の戦力も必要だとクリク兄ちゃんが教えてくれた。
情報を集めなければならない。
その為、近くの街で情報収集するつもりだ。
外の人間は一部の者を除いて魔法すら使えないと聞いた事がある。
大事になると面倒だから能力や魔法は使わないようにしろ」
拠点は楽園都市から遠い方が都合がいい。
千里眼を使い、かなり遠くの景色まで見通すと、いくつか街が見える。
一番遠い街の中を覗いてみると、酷い街だな……皆げっそりとやせ細っているし、食料らしきものを奪い合っている。
道の端には死体が積み上がっていているし、身を潜めている女の人や子供も多い。
楽園都市の外の世界はこんなにも困窮しているのか。
他の街も覗いてみた所、さっきの街付近はどこも同じで困窮した生活をしている。
しかし、離れた街は比較的真面な生活を送っている様だった。
つまり、あの辺りで戦争でも起こって、国が負けたとか?
そう言った場所なら色々と動きやすいだろうし、情報を集めるのには悪くないか。
「よし、今から街の近くまで転移する。
そこから先で能力は絶対に使うな。
それと、かなり荒んだ街だ。
襲われるかもしれないから覚悟しておけ」
三人から同意を得たので街の近くへと転移する。
これは……腐臭と焼け焦げた様な匂いが鼻につく。
この空気に当てられて三人共気を引き締めてくれた様だ。
俺達は歩いて街の中へと入っていく。
「リウム様……」
「どうした、エルフローレン。
気分が悪くなったか?」
「怪我人も病人も沢山います。
どうか、御慈悲を」
助ける為に能力を使いたいと言う事だろうけど、それは無理な話だ。
能力は使えないし、対応するにしても応急処置を施すくらいだ。
そんな行動をすれば次々に相手をしなければならなくなってしまうかもしれない。
「俺とアインが情報収集をしている間、条件付きで10人まで助けていい。
その条件は、全てを捨てて俺達と共に来る者だ。
俺様の許可なく能力は使うな。
合流して人のいない場所まで行けば能力を使う事を許そう」
「10人……ですか……。
分りました」
エルフローレンは足早に街の中へと走って行った。
「ゲウォルド、エルフローレンを頼む」
「わかった。
俺は能力なしでも強いが、襲われたらぶっとばして構わねえのか?」
「身を守る為なら構わない」
「オーケーボス。
それじゃ行って来るわ」
残ったアインと共に、俺達は情報収集の為、街の中へと入っていった。
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