第3話 久遠の支配者~探し求めていた人

 咄嗟に回避行動に移り、苦笑いを浮かべる。

 ほんの少し前、親父が俺の攻撃を同じように回避していた。

 それに……。

 ゲウォルドは実戦経験が浅い。

 ただ突っ込む事しか出来なかった俺を見ているみたいだ。

 それなら、親父がやったように、カウンターをいれてやる!


 集中力を高め、出来る限り最小限の動きで突っ込んで来るゲウォルドに攻撃を合わせた。

 互いに攻撃を貰ってはいるが、俺の拳の方が深く入っている。

 普通なら最後に立っているのは俺様だろう。

 しかし、ここに来て、肉体そのものの差が顕著に表れ始めた。

 ゲウォルドの強靭な肉体が俺から勝利を遠ざける。


 焦るな。

 戦況的にはまだ俺様が有利なはずだ。

 ここは奈落。

 能力を使えば使う程、その能力は奈落に奪われていく。

 不本意だが、短期決戦では無く、長期戦に持ち込ませて貰う。

 防御を固め、回避行動を優先し、雑な攻撃が来たらカウンターを取る。

 しばらくの間、俺様はそれだけに徹した。


 それから決着の着かない戦いが続き、頭に血が上ったゲウォルドが吠える。


 「さっきからチクチクとヨォー!

  もうぶっ飛ばす! ぜってーにぶっ飛ばす!」


 ゲウォルドが力を溜めると、体が一回り大きくなった。

 人とは思えない声で雄叫びをあげ、今にも飛び掛かって来そうだ。

 決着をつけるつもりだな。

 能力を維持するのもそろそろ限界なのだろう。


 距離をとって回避に専念すれば確実に勝てる。

 だが、そうはしない。

 何故なら俺様は、こいつ等の王だからだ!

 天撃魔法による雷光を身に纏わせ、俺様も最後の勝負にでる!

 

 ゲウォルドが動いたのを感じた瞬間、俺も前に出た。

 スピードは圧倒的に俺の方が速いが、ぶつかった衝撃で俺もかなりのダメージを負っている!


 ここまで来たらあれしかない。

 そう、あれだ!

 背負っているもんのデカさで勝負は決まる!


 「俺様ワアアア! 負けていられないんだよおお!」


 もう技術とか経験とかそんなのは関係ない!

 捨て身覚悟の全身全霊の力を込めて、ゲウォルドに突っ込んだ!

 全身に衝撃が走り、ゲウォルドの体ごと壁へと突っ込んだ!


 あまりの衝撃で視界が真っ白だ。

 後ろへ下がり、荒く乱れた呼吸を整える。

 揺れて倒れそうになる体をなんとかバランスを取って、その場に立ち尽くす。


 キーンとした耳鳴りの音の奥から誰かが声を掛けて来る。

 何を言っているのか分からないが、すぐ側にいるのを感じる。

 勝負はついた様だ。

 俺は立っている。

 ゲウォルドは……。


 体が一気に楽になり、真っ白だった視界も元に戻った。

 エルフローレンが回復してくれた様だ。

 そして、俺が回復したのを確認したエルフローレンは、壁際で倒れているゲウォルドの方へと向かった。


 「ゲウォルド、意識はあるか?」

 「ああ……最高の気分だぜ。

  俺はあんたの下に着く……でも一つだけ、いいか?」


 「なんだ? 言ってみろ」

 「敬語とかってのは苦手なんだ。

  その変は多めにみてくれ」


 「わかった。

  ゲウォルド、俺の配下になってくれ」

 「ああ、よろしくな、リウム……様?」


 「無理に敬称を使わなくていいぞ?」

 「そうか、ならボスって呼ぶぞ?」


 「それで構わない」


 配下となったゲウォルドにもアインとエルフローレンと同様にクラスアップをさせる。

 

 「ボス……もう一度俺とやらねえか?

  力が溢れて……血がたぎってやがるんだ」


 ゲウォルドが恍惚とした笑みを浮かべて俺を誘っているが、流石にその誘いには乗れない。


 「悪いな、気持ちは分かるが他に優先すべき事がある。

 アイン、ここにいた者達の亡骸なきがらはどこだ?」

 「ご案内致します。 こちらへ」


 アインに案内され、奈落の奥へと向かう。

 向かった先は大きな広間になっていて、そこに無数の死体が積み重ねられていた。

 おぞましいその光景と、腐敗臭で吐き気を催したが、唾を飲み込んで耐える事が出来た。


 久遠の支配者の能力は8つある。

 1,配下に加える事。

 2,配下のクラスアップが出来る事。

 3,支配者に関する能力の向上と、消費する魔力などの軽減。

 4,他人から能力を奪える事、ただし、相手が拒否した場合は奪えない。

 5,奪った能力を配下に与える事。

 6,奪った能力を150%の力で使用できる。

 7,配下を召喚する。

 8,配下がどこに居ても、自由に意思疎通が出来る。


 ここにある亡骸なきがら達から能力を奪う。

 それが出来なければ、奈落からの脱出は不可能だ。


 「ここに眠る楽園都市の追放者達よ、俺様の糧となれ。

  お前達全員を、俺様の作る楽園へ連れて行ってやる」


 能力が発動し、次々に亡骸なきがら達の能力が俺へと流れ込んでいく。

 凄いな、これだけの能力があれば、例え戦争になったとしても楽園都市を落とせそうだ。


 最終的に、152人の能力を得た。

 しかも、ほとんどがクラス4の能力で、稀にクラス5の能力もある。

 クラス3の能力も一人混じっていた。


 俺は空間魔術師の能力と空想学士の能力を合わせて作った、俺様の思い描く世界だけに存在する部屋を作り、そこへ亡骸達を納めた。


 「亡骸はこれで全部か?」

 「最後に、俺達を生き長らえさせてくれた一人がこの先に眠っております」


 アインの言葉に従い、更に奥へ進む。

 突き当りには小さな部屋の様になった場所があり、その部屋の中には一人の亡骸が無数のキノコに埋もれて眠っていた。


 「ああ……すまない。

  少しみんな外して貰えるか?」

 「ご命令とあらば」


 アインが二人を連れて、来た道を引き返して行ってくれた。

 俺は死霊術士の能力を使い、亡骸に話しかける。


 「クリク……兄ちゃん、迎えに、来たよ」


 キノコに囲まれた亡骸から白いモヤが広がり、そのモヤはクリク兄ちゃんの生前の姿となって現れた。



 

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