第2話 能力覚醒~楽園都市の闇

 全身が破裂したような感覚と共に、キーンと耳鳴りが響く。

 宙に浮いている様な感覚で全身の感覚が無い。

 呼吸さえしているのか分からないが、俺は無様に叫びながら体を起こした。


 気が付くと俺は笑っていた。

 全身にほとばしる痛みに歓喜した。

 まだ俺は生きているぞ!

 痛みを感じ、ヘラヘラ笑いながら奈落の奥へと体を引きずっていく。


 意識を失えばたぶん死ぬ。

 痛みを失わないうちに、俺は必死に何かを掴もうと体を動かしていた。

 普通に考えればもう終わりなのだろう。

 だが、俺は諦めない。

 

 「生きている……? 生きているのですか!?」


 誰かが俺に駆け寄って来た。

 その誰かは俺を抱きしめる。

 かすれた声で俺は抵抗する。


 「やめ……ろ……」


 全身の痛みが失われていく。

 痛みを失えば俺は……ん?

 意識を失うと思ったが、逆にはっきりしてきたな。


 俺を抱きしめていたのは女の人だった。

 街で見かけた事は無いが、美人だな。

 ボロボロだが、来ている服はそれなりだし、ここへ落とされた貴族の娘か?

 回復能力を持っているみたいだし、それで助かったのだろう。


 「回復魔法が使えるんだな」

 「意識があるんですか!?

  すごい精神力ですね。

  回復魔法は使えますが、ここまでが限界な様です」


 俺を回復してくれた女はその場にへたりこんでしまった。

 瀕死だった俺を回復させたんだ。

 魔力が尽きたのだろう。


 「大丈夫か?」

 「ここでは能力を使えば使う程、力を奪い取られていくんです。

  私の事はおいて行ってくれて構いません。

  この先に居る男の人に会って下さい。

  そこに僅かな希望があります」


 女はぐったりしている。

 意識も朦朧としている様だ。

 恩人を見捨てるわけないだろう。

 俺は女を背負い奈落の奥へと向かった。 

 

 そこいらにちりばめられた光る石のお陰で前が見える。

 道はいびつで、広かったり狭かったりするけど一本道だ。

 しばらく進んだ先に女の言っていたであろう男の姿があった。


 白髪で痩せこけた爺さん。

 ここに僅かながら希望があるのか?


 「生存者か。

  しかし……エルフローレンはもう駄目そうだな。

  奈落に食われる寸前だ」

 「奈落に食われる?」


 「ここでは能力を使えば使う程その力を奪われる。

  それに、魔力の回復もほとんど出来ない。

  力の尽きた者は死を待つだけだ。

  まあ、能力さえ使わなければ生き長らえる方法ならある」

 「エルフローレン……この女を助けようとは思わないのか?」


 「君を助けるのに能力を馬鹿みたいに使ったのだろう。

  もう助からんよ」

 「この女は俺に、僅かな希望がここにあると言った。

  それはどういう事だ?」


 「俺の能力の事だろうな。

  大神官の能力だ。

  君の宿している能力を見たり、守りの加護を与えたり出来る。

  だが、使えても後三回が限界だろうな」

 「それって、神官長と同じ様な能力か?」


 「ああ、同じ能力だ。

  だが、あいつのはランク2で俺はランク4だ。

  まあ、そんな事より……君の能力を見るだけの価値があるのかが問題だな」

 「俺は無能力者と言われた。

  神官長と同じ能力なら見る価値はないな」


 「俺は違うが、ここに落ちて来る奴等はだいたい無能力者と言われた奴等だ。

  エルフローレンもだ」

 「それなら、俺にも能力があるって事なのか?」


 「ある。

  そして、確実にランク4以上の能力を持っているだろう。

  あの馬鹿はランク3までの能力しか分からないんだ。

  それ以上の人間は全員無能力者として扱われる」

 「なんでそんな奴が神官長をやってるんだ?」


 「あいつが大神官全員ここへ落としたからだよ。

  君、なんか能力の兆候とか感じたりしてない?」

 「無駄撃ちは避けたいって事だな。

  それなら問題ない。

  能力の兆候なんて分からないが、間違いなく俺様はお前達を導く能力を持っている!」


 「そんな自身満々で言われてもねぇ?」

 「俺様を信じろ!」


 「こっちにも事情ってもんがある。

  ホイホイ信じて能力使う訳にはいかないんだ。

  後一年だか二年だか待たなきゃならない」


 「どういう事だ?」

 「ここへ落ちて来た奴の遺言だ。

  三年後必ず俺達を助けてくれる奴が来るってな」


 「それって……クリク・フンケイと言う名前の人だったか?」

 「成程……もう三年経ってたのか。

  名前を聞かせてくれ」


 「リウム・シカーサルだ」

 「俺はアイン・グラビガだ。

  早速能力を見せて貰う」


 アインが俺の目を覗き込むと、目を見開き、片膝をついた。


 「本当に……こんな日が訪れるとは……。

  王よ! 御命じ下さい!

  我に着き従えと!」

 「それが俺様の能力なんだな。

  アイン・グラビガよ。

  俺様に仕えよ」


 俺とアインを囲む様にして契約の魔法陣が浮かび上がる。

 そして、アインとの確かな繋がりの様なものを感じた。


 「更に、主の権限により、クラスアップを試みて下さい」

 「クラスアップか……俺様の権限を行使する!

  アインよ、俺様の片腕に等しき力を得よ」


 アインの体が光ると、みるみるうちに若返っていく。


 「力がみなぎって来る。

  素晴らしき力をありがとうございます。

  今の手順をエルフローレンにもお願いします。

  それで、彼女も息を吹き返すでしょう」


 アインに言われた通り、同じ手順をエルフローレンに行った。


 「これは……奇跡です。

  王様だったんですね」

 「アイン、俺様は王なのか?」

 「リウム様の能力は久遠くおんの支配者。

  紛う事なき王の能力です。

  ですが、俺の能力ではランク5までしか計り知れません。

  リウム様はそれ以上の能力をお持ちです」


 久遠の支配者か。

 能力を使ったせいで、何が出来るのかは大体把握した。

 恐らく、ランクが一つ上がる事に、能力に応じた新たな能力が一つ使える様になる。

 だとすると、俺のランクは8か。

 とんでも無い事だ。

 目的を果たすには十分すぎる能力だ。

 何はともあれ、まずはここからの脱出だな。


 「ああ、久遠の支配者の能力は8ある。

  たぶんランクも8だ。

  しかし、このままではここを出る事も出来そうにないな。

  だが、俺様が導いてやる。

  他に生存者はいるのか?」

 「一人……います。

  少し粗暴な方ですが、お怒りにならないで下さいね」


 一人か……アインも遺言って言ってたし、クリク兄ちゃんはもういないんだな。

 

 「そいつは何処にいる?」

 「そいつってのは、俺の事かい?」


 通路の奥から現れたのは、上半身裸の筋肉質な男。

 下半身もボロボロの布切れを繋ぎ合わせてるだけのものだ。

 クリク兄ちゃんより少し年上に見える。


 「ゲウォルドだ。

  よろしくな、ヒョロガリ」

 「俺様はリウム。

  お前を導いてやるから俺に仕えろ」


 「ハハ、おもしれえな。

  俺は自分より弱い奴には従わねえ。

  掛かって来い、どっちが上か分からせてやる」

 

 こういう奴は分かり易くていいな。

 しかし、こいつ……たぶん戦闘系の能力持ちだろう。

 しかも、ランク4以上の。


 ランク4か。

 流石にこの歳で親父より強いって事はないだろう。

 よし、いけるな。


 武器がないので拳どおしでの殴り合い。

 雑に殴りかかって来るゲウォルドに対して、俺はカウンターを合わせていく。

 身体能力は遥かに上だが、毎日親父と戦っていた俺の方が技術は上だな。 

 このままなら問題なく俺の勝ちだ。

 しかし……だんだん俺の動きに慣れてきている?

 それに、身体能力自体が上がってきている様な気がする。


 「一対一で、こんなに甚振られたのは初めてだぜ。

  そんじゃ、そろそろ次の段階に入るぜ?

  ぶっ壊れんじゃねーぞおおお!」


 ゲウォルドは悲鳴にも似た狂った笑い声をあげ、その直後、親父並みの速度で突っ込んで来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る