楽園都市の追放者、支配者能力で俺様の楽園を築く。
ジャガドン
第1話 楽園都市追放~奈落落ち~
「なんだその雑な剣技は!」
「うるせえ! 俺様は
今にもその首に俺の剣を突き立てるぞ!」
「全く……。
お前は伯爵家の長男だぞ?
言葉遣いもなんだ?
「そんな些細な事なんてどうでもいい!
俺様は誰よりも強くなって、王になるんだ!」
そして、恨めしそうな眼で睨みつけてくる。
「不敬……極まりない!」
眼にも止まらぬ速さで親父の握る剣が顔の前へと差し出された。
微動だに出来ない。
それに、物言わぬ親父の瞳が冷たく光って見えた。
「ククク、不敬?
兄ちゃんは……クリク兄ちゃんは何処へ行ったんだよ?」
「知らんな。
彼は貴族では無かった。
能力に恵まれなかったのだろう、だから試験で行方不明となった。
それだけだ」
親父の言っている試験。
楽園都市パラディースでは12歳の誕生日を迎えると能力に目覚める。
それを、神官長が見定め、能力に準じた試験を受けさせる。
能力は様々で、親父はランク4の聖騎士、母さんはランク4の天撃術士の能力を有している。
ランクは遺伝するらしく、両親のランクが高ければ、高いランクの能力を持った子が生まれやすい。
一般的には、ランク3の能力を持った子が生まれる可能性は一万人に一人くらいの確率らしい。
「能力? 能力がどうしたよ! 親父ぃ!」
俺はありったけの魔力を込めて親父に叩き込んだ!
威力は劣るが母さん譲りの天撃魔法。
光の速度で親父に雷が降り注ぐ。
当然だが、俺の天撃魔法なんかでは親父に真面なダメージは与えられない。
しかし、防御はする。
俺はその隙に剣を突き立て、身体ごと親父に突っ込んだ。
全身に衝撃が走った。
俺の攻撃は受け流され、その後、親父にズタボロにされた。
くそっ!
致命傷でもないのに……動けねえ。
それでも俺は立ち上がろうと足掻き、膝を立てて胸を持ち上げた。
明日は俺の12歳の誕生日。
能力が無くても俺はこれだけやれる。
クリク兄ちゃんはもっと強かった。
カスみたいな魔法適正の奴だって無事にクリア出来る試験で、クリク兄ちゃんがクリア出来ずに行方不明になんてなるわけがねえ!
「親父……俺の明日の試験……楽しみにしておくんだな」
魔力も尽きた俺はそれだけ言って、その場で意識を失った。
◇
「……お兄様……お兄様?」
「起こしてくれたのか。
おはよう、アルト」
ベッドで目覚めた俺は窓の外を見た。
明るいな。
ふあーっと大口を開けて欠伸をすると、妹のアルトが俺の体を「ちゃんと目覚めて下さい、もう朝ですよ?」と言って激しく揺すった。
朝?
朝って事は……試験の日じゃねえか!
丸一日寝てたのか!?
親父……加減ってものを知らねえのか……。
急いでベッドから飛び起き、支度をする。
家を飛び出すと、母さんが俺を呼び止める。
「そんなに慌てないで。
朝食くらいちゃんと食べて行きなさい」
「いらないよ。
俺は早く試験を受けたいんだ」
「そう言うと思ったわ。
それじゃあ、これを持って行って」
そう言って母さんはお弁当と、焼き立てのパンを持たせてくれた。
俺は「ありがとう」と礼を言って、パンを頬張りながら神官長の元へ向かった。
「やっとこの時が来たぜ!」
見慣れた神殿を前にして俺は息巻いていた。
そりゃそうだ。
ここには何かがある。
三年前、クリク兄ちゃんが行方を眩ませた何かが。
ここは楽園都市パラディース。
世界中ありとあらゆる資源や物資が献上される世界一恵まれた都市だ。
些細な犯罪すら聞いた事の無いそんな街で、たまに行方不明者が出る。
手掛かりなんて何も無い。
でも、クリク兄ちゃんが消えたこの神殿の試験が怪しいと俺は思う。
神殿の中へ入ると、すでに同い年の奴等が何人か神官長によって能力を告げられ、試験へと案内されていた。
すぐに俺の番が回って来たので、神官長の前へ立つ。
元々疑いを掛けているせいか、
「名前を言いなさい」
「クリク・フンケイだ」
神官長は
動揺などは見られない……。
「嘘を吐くにしても、その様な穢れた名前を口にするとは……。
本当の名前は何かね?」
「穢れた名前ってなんだよ?」
「それ以上無駄な言葉を禁ずる。
次はないぞ、名前を言いなさい」
「リウム・シカーサルだ」
「シカーサル……成程、君はあの伯爵の息子か。
君の能力は……なるほどなるほど。
そこの兵士について行きなさい。
その先で君は試験と洗礼を受ける。
武器と荷物は置いて来なさい」
俺の能力を見たとたん上機嫌になったな。
それに、武器はおいて行けと……きな臭くなって来たな。
逆らって試験を取り止めになるのも嫌だし、大人しく神官長の言う通りにする。
兵士に案内され、神殿の裏口から外へ出る。
高い壁に囲まれた一本道を兵士と共に進むと、道が二手に分かれている。
兵士は比較的なだらかな方へと俺を案内した。
「なあ、あんた、三年前にここで試験を受けたクリク・フンケイを知っているか?」
「もう試験は始まっている。
黙ってついて来るんだ」
余計な事は言わないか。
他に選択肢も無いし、ひたすら長い道を黙ってついて行くと、開けた場所へと辿り着いた。
中央には泥を塗り固めて作った様な怪しい大穴がぽっかりと開いている。
強力な魔力の流れも感じるし、ここにクリク兄ちゃんが落とされて消えたのだろうか?
「ここで何をする?
大穴から魔物でも出て来るのか?」
「試練はこの穴の先だ。
君の無事を祈り、私はここで待っている。
飛び込びなさい」
穴の先が見えない。
光が届かない程深い穴に飛び込めと?
それに、神官長から能力を告げられてもいない。
当たりを引けた様で何よりだ。
俺は兵士から剣を奪い、即座に足の腱を斬った。
そして、首根っこを掴んで穴の方へと持って行く。
「何をする! 離せ!」
「ここから落ちたら俺様でも無事に済みそうにないんでな。
今からお前を穴に落として安全かどうか確かめてやる」
「ふざけるな!
私を穴に落とせば試験に合格出来ないぞ!」
「どっちにしろ出来ない気がするし構わないぞ」
俺が兵士を突き落そうとした瞬間、誰かが背後に立ち、声を掛けて来た。
「そこまでだ」
「ははっクリク兄ちゃんはこの穴に落とされたのか?
親父いいいい!」
俺は怒りを露にした。
証拠何てないが、確信が持てたからだ。
俺は兵士を手放し、剣を構え、親父と対峙する。
「もう私は貴様の父親ではない。
我が一族に無能力者はいらない。
問答は無用。
潔く、奈落の糧となれ!」
親父が斬りかかってきたが、間一髪でそれを躱す事が出来た。
「手心でも加えたのか?
一撃で俺をやれなかった事を後悔しろ!」
俺は魔力を放出し、高々と剣を天に掲げる。
そして、全身に雷を浴び、雷光を宿した。
「適正の無いお前にその技は扱い切れん。
死ぬぞ?」
「もう親父じゃないあんたを倒すんだ。
無理くらいするさ」
雷により全身を強化した俺は電光石火の如く親父に斬り掛かった。
親父の言った通り、この技を操る事は出来ない。
だが、ただ突っ込むだけなら出来る。
突っ込む度に切り傷が増えるが、それは親父も同じだった。
違うのは実力。
やっぱり親父は強い。
先に体力が尽きたのは俺の方だった。
「さて、これから貴様を奈落に落とす。
言い残す事はあるか?」
「優しいじゃねえか。
止めを刺さなくていいのか?」
「くだらん。
貴様は無能力者だ。
奈落の底で野垂れ死ぬのが世の常だ」
「そうかよ。
だったら言い残す言葉はこうだ。
首を洗って待っていろ!
俺は必ず首を取りに来る!」
親父は俺が兵士にした様に、掴んでいた俺を手放した。
どんな表情だよ……。
親父の眼差しは優しかった。
そして、悲しい様な顔にも見えたし、笑みを浮かべている様にも見えた。
なんであんたがここに居たんだろうなぁ……。
そんな事を考えながら俺は奈落の底へと落ちて行った。
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