第31話 存在の意味

 「ぼ…僕は…美鈴ちゃんや侑季ちゃんを護るために…」

玲は自分に言い聞かせるみたいに俯いて呟いている。


「み…美鈴ちゃんが他のひとを好きになったら…僕は…」



玲は伯祖父ちゃんが造った…人型AIだ。

と云う表現は好きじゃないけど…玲は人間じゃない…

俺たちのように喜怒哀楽も表現出来るが、これ程苦悶する表情を見せるのは珍しい。

いや…普段の交友関係での態度があっさりしているだけで、美鈴が絡めばコイツはいつだって尋常でないこともすんなりやってしまう様なヤツだった。



「それでも…美鈴ちゃんを護るのは変わらない…それが僕の存在理由だから」


伯祖父ちゃんも孫可愛さにおりのつもりで玲を付けたんだろうけど、コイツが思いのほかこれ程美鈴に執着するとは考えていなかっただろう。


なにせ玲には恋愛感情は付属していないのだから…


それだけに、玲がみせる美鈴に対する行動は興味深いものがある…


「お前、そんなに美鈴のことで問題が出るなら、いっそアイツには付箋でも貼っとけば?それなら他の項目と一致させなくてもいいだろ?」


玲のきょとんとした顔が俺に視線を移した。


「美鈴のことでお前を煩わせるのは申し訳ないからさ」

俺は軽い気持ちで玲に言った。


「美鈴ちゃんのことで煩わしいなんて思う訳ないよ!美鈴ちゃんも侑季ちゃんも僕にとっては最優先事項なんだから!」


最優先事項か…

それは伯祖父ちゃんがを最優先にするようプログラミングしたからだろ…

そんなものは何らかの事故でリセットされてしまうかもしれない…


所詮、玲の感情は造られたものだ…

その気になれば外部から削除する事も、他の媒体にコピーする事も出来る…


「別に変な意味で言ったんじゃない。他の項目と紐付けてERRORが出るなら、最初から美鈴単体で処理しろと言ってるだけだ」

玲は困惑気味に俺の顔を覗き込んでいる。コイツの美鈴に対する執着ぶりは多分伯祖父ちゃんにとっても想定外な筈。

何かきっかけがあるんだろうか…


「お前…もうすぐ繭替えの時期だろ?

その時…生殖ユニットも付加されるんだよな?」

「そうだよ。これでやっと侑季ちゃんたちの躰に近づくよ」

玲は漸く少し笑顔を見せた。


生殖ユニットの機能が更新されたからと云ってもロックがかかってる。

ロックを外す相手が美鈴とは限らない。

それに、生殖行為が出来るとしても気持ちはどうなんだ?

恋愛感情は生殖ユニットに付随するのか?


「美鈴はまだ子どもなんだよ…蒼香が大人しいから背伸びしてるようだけど、男と付き合うことがどんなことかなんてちゃんと判ってないんだ。俺の言ってる意味が判るよな?」

俺は念を押すような気持ちで玲を見据えた。

玲もいつになく真剣な表情をしている。


「お前の機能が更新されても美鈴と仲良くしてやってくれ」


「大丈夫だよ侑季ちゃん!美鈴ちゃんを護るのが僕の存在理由なんだ。たとえ機能が更新されても彼女を護るよ!」


玲は美鈴に関する演算が上手く処理できたのか満面の笑顔を見せた。




いや、そこは拘らなくていい……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしの彼は超AI ねこねこ暇潰商会 @driss

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ