第14話 古の戦艦 ロヒカールメ
カティラヴァオマはポツポツと話し始める。
「いままで勇者が召喚されたのは6人。いずれもこの世界が危機的状況ゆえに、召喚されたという話は聞きましたかな?」
「ああ、セティヤから聞いたさ」
「今回の危機を除けば、5代目の勇者のときが最も危うかった。この世界にあった六つの大陸のなかで、5つが魔王軍との死闘で破壊されたからです」
セティヤは自分たちがいるこの大陸を、ティアーズ大陸と呼んでいたことを思い出す。異世界もので大陸がひとつしかないのは定番なので、大して気にしていなかったが。
――まさか破壊されていたとは。
予想外の言葉だが、それだけ激しい戦いだったのだろう。
「5代目の勇者――ノイマンは船の操舵士だった。彼の武器は全長150メートルの巨大な空を飛ぶ船、ロヒカールメ」
「巨大な船、ねえ。未来的でカッコいい戦艦なのか?」
「ロヒカールメは直線で構成された船でしたね。我々には思い浮かばないデザインです。いまでも思い出します。ノイマンの素晴らしい操艦と指揮に振り回されながら、皆で世界を救ったことを」
カティラヴァオマの目には懐かしさがあった。もう届かない、二度と届くことは叶わない輝かしい過去。手を伸ばしても手に入らない。
「おっと失礼。懐かしくて、過去に思いを馳せていました」
「いい思い出だったんだな」
「いま思えばですな。我々エルフと違い、誰も彼も先に旅立ってしまう。悲しいものですな」
隣にいたキビセルカも目を伏せる。
「さて、話を戻しましょう。この空飛ぶ艦ですが、いまも存在しています。上空を漂っているのです。この艦を手に入れれば、デマルカシオンに勝つことも出来るでしょう」
「だったら――」
「ロヒカールメを管理していたのはドラーケス王国でした。この大陸でどの種族よりも空を飛ぶことに長けていた竜人達。ドラーケス王族にはノイマンの血が混じっているのです。勇者達が扱った武器は、その子孫が使うことが出来ます」
ドラーケス王国、その言葉は聞き覚えがある。
たしかフィウーネ王国とともに、滅ぼされた国だったはずだ。
「そのノイマンってのは、艦の外には出られなかったのか?」
「察しがいいですね。あなたたちエルデの方たちは、この世界の魔素には耐えられない。いずれ体は慣れますが、慣れるまでは身を守るものが必要です。彼にとって、それはあの戦艦でした」
「つまり、戦艦がパワードスーツみたいなものってことか」
「身を守る防護服といえるでしょうな」
「なるほど」
拡大解釈だが、勇者の装備はこの世界の魔素から身を守るものであればいい。
「話を戻す。あんたの口ぶりだと、ドラーケスの王族の生き残りがいるんだよな?」
「はい。ただ、問題は彼のいる場所でしょうか」
カティラヴァオマは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。
「ラグサ王国ですか?」
「さすがは姫。情報は手に入れていましたか。我々は東部諸国の難民から情報を得たのですが、フィウーネ王国の情報網は優秀ですね」
セティヤは首を振るう。
「簡単な推測です。東部諸国はほぼ壊滅状態なのに、ただひとつ持ち堪えている国がある。それがラグサ王国です。あそこにはドラーケス王国の第3王子、リーヴァ・スヴァンス殿下が軍事指導のために訪問していたと記憶しています
ドラーケス王国でも最も優秀な将軍と言われた彼ならば、あの国を守り切れても不思議ではありません」
「たったひとりの絶対防衛戦線、そう彼は呼ばれています」
——たったひとりの絶対防衛戦線、か。凄い二つ名だ。
元の世界でその名を聞いたら厨二病と笑ったかもしれない。
この世界でその名の意味は容易に予想が付く。
「ラグサ王国の正規軍はほぼ壊滅状態とのことです。従えてきたリーヴァ殿下の部下もほぼ戦死し、戦えるものは全て戦線に投入しなければいけないとか。それでも国を守り切れているとのは、彼の卓越した戦闘能力俊樹能力があればこそです。
孤軍奮闘。獅子奮迅。一騎当千。そんな言葉が似合う人物なのですよ」
「そいつは凄いな。仲間に加われば心強い」
「彼の懸念が晴れれば、あなたたちに付いてきてくれるかもしれませんね」
「ラグサ国の国民全てを救出することか?」
「救援要請は届いています。しかしラグサ王国はデマルカシオンに包囲されています。包囲網を突破し、救援に向かわせるほどの余裕は我々にはありません」
「わざわざこの話をしてきたのは、俺たちに救援に向かえってことか」
「察しが良くて助かります」
カティラヴァオマはふっと笑う。
「これからあなた方は、この大陸中を移動することになるでしょう。転移魔法は森林同盟六州のなかでしか使えません。地上や海での移動は時間が掛かります。どこにでもサッと移動出来る手段は必要かと思います」
「そうだな」
デマルカシオンはこの大陸の全土を攻撃しているのだ。
地竜シェイプは永続的な戦争の継続を行うと言っているから、そろそろ攻撃の手は緩めるかもしれない。だが、現段階で数多の国が滅ぼされている。殲滅戦争の段階に移行しているのか、あるいはさらに国家を減らすつもりなのか?
いずれにしても、忙しくなるのは間違いない。
エルデの剣士 勇者召喚の代償 アンギットゥ @angitwu
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