追伸 -Aurora-
みなさんどうもこんにちは、山田太郎です。
何がどうなったか説明しようと思う。
あの後入院しました。
あの後真っ先に医務室に運ばれたのち、偉い状態だったらしく、そのまんま救急病院に運ばれて、そしてスムーズに入院に移行することになった。
びっくりする事実なのだが、どうやら身体はいくらでも再生するものの、『その怪我やらなんやらに伴う疲労感』———即ち内的ダメージは完全に無視できないらしく、俺の身体は内側がボロボロだったらしい!
そのため何かしら大きな怪我をしているわけでもないが、とりあえずしっかり身体を休ませないといけない、とのことだ。点滴も不可欠。
なので今のコーデは白っぽい緑色の患者衣だ。はだけないか不安だ。
そしてお部屋は真っ白い病室。隣の爺さんのイビキがうるさいのがバッドポイント。
さてさてそんな中基本大人しくしてろという生活を一ヶ月続けるというので、割とショックではあるわけだ。
勉学面でもそうだし。
組織に関してもそうだ。
俺は学校に着いていけるのか⁈そして、組織は俺がいなくて大丈夫なのか⁈
割と心配です。
まぁそんなこと思いながら、今週の漫画雑誌とかをパラパラとめくっていたわけだ。暇すぎて。
するとそんな中でコツコツと、聞き覚えのある足音を聞く。
まずいまずい!本を急いでベッドの下に隠し、そして何やら思い詰めた顔をして窓を眺めておく!
「———や、龍宮寺」
病室のドアを丁寧に開いて現れたのは、砕けた笑顔を見せる紗奈だった。
ブラウスにジーンズ。少し女の子っぽくなってる!いやまぁどっちでもいいけどね!
「———紗奈」
「大丈夫ー?」
「心配はいらない。すぐに戻して、また奴らを狩るだけだ」
「まーたそればっかり!ちょっとは自分のことも大事にしなよ」
「この程度で壊れなければ、愛着も湧くんだがな」
「自分を百均のものみたいに言わない!」
いいツッコミ!
成長している……!
「というか、お前こそどうなんだ、そんな治ったみたいにはしゃいで」
「えー?なんか結構軽い傷だったみたいで、一日寝たら治ったよ」
あれで⁈
こいつ化け物なんじゃないの?
スペードも大変だ。
「どうだ、組織は」
「んー、まぁぼちぼちかな。まぁ前に比べたら、吸血獣は少なくなってるから、新人たちの育成に当てられてるよ」
「それはよかった」
「効率的でしょ?私が決めたんだ!」
「そうか、お前もようやくわかってくれたか」
「へへ」
照れて笑う。
そんなことで照れるんじゃないよ!
「スペードは、どうしている」
「あぁ———ちょっとした個室に入れられてるよ、色んなこと吐かされてるみたいだよ」
「———そうか———」
あの人も可哀想だ。
今度お歳暮でも持って行くか。
「長官と一緒に呑んだりして」
「飲むの⁈」
「……うん?そうだよ」
まずいまずい!またしても山田太郎が出てきてしまった!
てかそんなことしてんのか?それ捕虜か⁈てかお歳暮みたいなこと既にしてるな、いらないだろう。洋菓子とかにしとくか。
「まぁ、それもいい」
「あれれ?龍宮寺サンは、もっと殴って吐かせるとかするもんかと思ってましたけど」
「———たまにはいいじゃないか、そんなことも」
「あー!ニコニコ笑った!」
「———あぁ、そうかもな」
「———素直になったね」
「少し楽になった。これからは、気楽に復讐するつもりだ」
「気楽に?」
「あぁ、お前らがいるからな」
「ふふ、人を馬鹿みたいに言って」
「間違ったことは言っていないが」
「またそういうこと言って!」
「ハハ」
龍宮寺、少し笑う。
成長したなお前———ちゃんとお茶目だ!
「———それじゃ、またね」
「あぁ、また」
そのまま彼女はすたこら去っていった。
———夜まで居残るのかと思った!
◉
(ふふ———元気そうだったな)
鈴代紗奈はかなり上機嫌だった。
ここが病院でなければ、口笛を吹きながらスキップをかましていたのだろう。
(にしても相変わらずスカしてる)
少し彼女は苦い顔をした。
(でも———ね。見てたからなぁ)
そして今度はうっとりする。表情が本当に豊かである。素の彼女は多分そうなのだろう。
(———本当、あぁしといてよかった!)
———一体彼女は、何をしていたのだろう?
事態は決戦の日の早朝に遡る。
彼女は、何やら綺麗な部屋で目覚めた。彼女は片付けが苦手なのだ。
おそらく、どこかのホテルの一室だと彼女はわかった。
しかし、何故かベッドから起きた目の前には、見たことのある男がなぜだか椅子に座っていた!
「き、貴様!」
「よぉ、鈴代紗奈。傷は癒えたか?」
「傷……はっ!」
彼女は瞬間全てを思い出した。
仇と戦って、その後———意識がなかった。
そしてそこから目覚めると、その親玉が座っている———これはかなりの危機であろう。
しかし今、何故か心配され、しかもしっかりベッドに寝かされている。
そこにはある程度、話を聞かざるを得ない事情を伺うことができた。
「なんだ、何が目的だ」
「その口調はいいよ、普通に話せ」
「———なに、なんで知ってるの?」
「そこですぐ戻すあんたもあんただろ」
もはやどっちもどっち。
「そもそもなにこれ!なんで私を連れてきて寝かせてるの⁈」
「簡単な話だ。あんたには人質になってもらう」
「———ひ、人質」
「安心しな、人殺しになる気はねぇ———や、龍宮寺が来なかったとき、精々悲鳴を出す演技をしてもらうくらいかな」
「私定評あるよ」
「そこはなんでそうするのかをツッコミなよ」
ついに呆れられた。
驚くほどの状況の飲み込み具合。
「———なぁあんた、敵に捕らえられてんだぜ?もっと勘繰っていいと思うけど」
「え?だって———」
———その瞬間。
———紗奈は
「え⁈」
スペードも取り乱す———寝起き、しかもら怪我をあれだけしていたのに瞬時に武器を振るったこと———そして、その空間の切れ目は、彼にも全く理解ができなかったからだ。
紗奈は近くにあったコップを切り口に向かって投げると、それが粉々になっていくのを眺めていた。
スペードも目に焼き付ける羽目になる。
もし切られて、ここまで肉体を粉々にされては———復活も叶わないだろう。
生殺与奪は既に握られている!
それを瞬時に彼は理解した。
「私になにか危害を加えたら、こうするだけだから」
「———なんだ?お前、何が目的だ」
「安心して。簡単には殺さないから」
「いや、ねぇ待って!怖い!怖いよ!」
ついに椅子から転げ落ちるスペード。可哀想である。
「———龍宮寺の、何を知ってるの?」
「———ふーん、そうだったんだ」
どこか合点が言ったように、そう体を横に揺らす紗奈。
スペードに洗いざらい吐いてもらった。
「はーっ、はっ、はーっ……」
そして過呼吸気味のスペード。かわいそうである。
「———ショックじゃ、ないのか」
しかし心配気味に声をかけるスペード。割と人がいいのではないか?
「それも、ないわけじゃないよ———」
少し悲しい顔をする紗奈。
「これまで信じてた人が、全く別の理由で戦って、しかもたくさんの女の子と通じてる。それはやっぱり悲しいよ」
「そう、か———」
スペードはどこかため息をつく。そりゃそうだ。彼のせいで死にかけているのだから。
「でもね、それより嬉しいんだ!」
途端に明るい顔になる紗奈。
そしてもはや理解できないスペード。
「私にだけ嘘ついてるってさ、それ私だけ特別ってことじゃない?」
紗奈の目をしっかり観察する。
(———本心か———いや、ガチ?)
どうやら嘘偽りのない感情のようだった。
「やっぱり、私は龍宮寺、いや山田、いや太郎にとって、特別なんだ!あはは!」
(こいつ、一気にステップアップしやがった!)
なんかすごくはしゃぎ始める紗奈。
(———正直こいつは山田から何かしてもらうだけで喜ぶが———なるほど、特別扱いととるわけか———だいぶ強かだな?)
しかしここでスペードは何かを思い出す。
(そっか、山田あいつ———)
(———人間の中だと唯一、下の名前でずっと呼んでるんだよな———)
確かに、それは山田にとって特別扱いかもしれない。
しかしそれはそれとして、ベッドで朝からギシギシ跳ねないで欲しかった。
「話は終わりか?ならここで大人しくしててもらうぞ」
「———誰が、指図していいって言った?」
一瞬で殺気を纏う紗奈。スイッチの切り替わりが速すぎる!
「い、いえ何も」
「安心して安心して!私あとひとつしか頼まないから!」
「あとひとつ⁈」
「———太郎と戦うんでしょ、だったら私も連れてってよ」
「えぇ⁈」
流石に呆れるスペード!しかしそれを勘付かれたら死だ!
「———どういうオーダーでしょうか」
「私を傷だらけにして、戦いの場でゴミみたいに捨てるの」
「ワァ⁈」
かなり激しめのオーダーだった。
「な、なんでそんなこと」
「太郎に私のこと、しっかり考えて欲しくて」
そういうことする場じゃないんですけど、と言いたかったが死にそうなので言わなかった。
「だから、今から痛めつけて!!!」
そう大の字に寝っ転がる紗奈。
「それは無理だ」
「殺すよ」
「早いって!」
「———なに、言い訳するの?」
「いや、特殊メイクにするよ」
「え〜」
「えーじゃない」
「まぁここは免じてあげよう」
「そう……」
もはやついていけなくなっていた。
ということで。あのとき転がっていた紗奈は。
しっかりと———山田の目的も聞いていたのだ。
(しっかり応えてあげなくちゃ!だって、私が一番、なんだもん)
そう思いながら、彼女は病院を出た途端口笛を吹いてスキップしながら帰っていった。
◉
再び漫画雑誌を取り出して読む。
するとなんか料理漫画が載っていた。一人暮らしの女性が飲むための飯を作る漫画だ。
こういうのやたら多くない?私嫌いなのよね。
しかし暇なので読む!割と絵が上手いぞ!
「何見てるの?」
「あぁ、なんか料理の……へぇ?」
側には気づいたらヒメがいた。
「なんだお前驚かすなよ!」
「単純に気になっただけじゃん」
「まぁ、いやそれはそうなんだけど」
「でも———うん、勉強熱心で感心する」
勉強なのか?独身女性の部屋の汚さとか?
「———言ったもんね、一生ご飯作ってくれるって」
「あぁ、まぁそりゃ」
頼まれればいくらでも作ってやろう。
「でもさ———あの家で大丈夫かな?」
なんだ?
そんなガチの中華が食べたいのか?中華はかなりの火力がいるからな。
「そんな満足できないのか?」
「そ、そりゃそうだよ!」
なんか恥ずかしがるヒメ。安心してくれ。よく食べることを恥じるのではない。
「別にいくらでも用意するけど」
「そ、そうなの?」
パッと明るくなった。なんやねん。
「ね、ずっと一緒って、言ったよね!」
食事の際?まぁそうでしょうよ。
「あぁ、もちろん」
「———拒否権は、ないからね」
「え?あぁはい」
飯作るだけなのに、何故こんなにも圧迫なんだろう。
そんな人の飯が嫌か?俺嫌!
「それじゃあね」
———逃げるように、またパッと消えた。
相変わらずだ!
まぁいいや!
◉
「———ふふふ。馬鹿みたい。こんな簡単に」
ヒメは屋上に一人立っていた———件の廃ビルの。
「———でも———私以外に、いない気がするもんな」
———すると、彼女の姿はぐにゃぐにゃと変わっていく。毎回服はどうしているのだろう。
———そして、そこにいたのは、剃り込みとピアスの目立つ、軽そうな青年だった。
「———あれだけヒントはあげてるし、それに能力が同じなんだけどな———」
———澄川千尋———及びヒメは———そうどこか悪戯っぽく、しかしどこか悔しそうに、一人でこぼした。
「もうバラしちゃおっかな———二人でちゃんと住み始める日の夜とか、かな」
手帳に何やら予定を書き込んでいくヒメ。
わりかし几帳面。
◉
ついに漫画雑誌も全部読み終えてしまった!
ということで仕方なく庵野さんに借りた『若きウェルテルの悩み』を読むことにする。
暗い!話が暗い!何これ!
まぁいいや!
「面白いですか?」
そんな中気づいたら庵野さんがいた。
同じような登場はしないほうがいいと思う。
「———まぁまぁですかね。でも暗いですよ」
「文学とはそういうものです」
「はぁ……」
「にしても———やたらと女の匂いがしますね」
「女言わないでくださいよ!」
うるさい人たちに絡まれる!
「別にただモテるコウモリ野郎だな、としか思いませんけど」
「訂正みたいに悪口言わないで?」
なんかこの人あれ以来当たりが強くなったような気がする———まぁその方が気楽だからいいんだけど。
「でも、あんなこと言ったら、仕方ないですね」
そう庵野さんは上を見る。
なんか汗をかいているように見える。
「そんな暑いですか?」
「私は大人なので———しっかりとハンカチを持っていますのでご安心を」
そういって何かを取り出す。
———預金通帳だった。
「待って!待ってください!」
「へ?」
今まさに通帳で汗を拭こうとしていた。
相当錯乱している。
「なんかおかしいですよ⁈」
「いや、私は大人なので……」
「持ちネタなのそれ⁈」
「まぁいいです!私がしっかり、目的までリードしてあげますから!それまでしっかり『待て』をしておいてくださいね!」
なんか焦りながらまた消えた。
推しの強い年上———最高だ!!!
———全員集合、というやつなのか?
まぁ、あと一人はどうやっても会えないんだけど。
切ない!
しかし物語の終わりとはこういうものなのだ!庵野さんも言っていた!
「入っていいですかー?」
すると何やら声がする。おそらく声のイントネーションから看護師さんだ。
———あいつに似ている。
「はーい」
「お邪魔しま〜す」
———そこにいたのは。
———ナース服を着た、ルルシアだった。
「———ルルシア⁈」
「えぇ。お久しぶりです」
「よくわかったな———いや、そうか」
「ええ。私は全てがわかります。まぁ最初は家に行ったんですけど」
「———もう、会えないかと思ってたよ」
「しばらく出るとしか言ってませんよ」
確かにそうだ。
いや、じゃあなんだあの雰囲気は?
俺が間違ってたのか?
「でもそれはそれとしてなんでナース服?」
「ヒロインっぽいことしてなかったので……」
「お前ヒロインなの⁈」
みんなはどう思う⁈
俺は判断できない!!!
◉
ここで考えてみよう。
ルルシアは本来ならば、あの場にいるべき存在である。そして、彼のサポートというわけでもないが、何かしらベラベラ喋っておくべきだったのだろう。
しかし———彼女はそうしなかった。
なぜなら———彼女はその時あるワケがあった。
「あッ、ぐあぁぁぁぁぁぁ、ああッ……」
とあるビジネスホテルの一室のベッドにて。
彼女は———頭を抑えて、もがき苦しんでいた。
———理由は簡単である。
———彼女は嘘をついていた。
———能力を使い、その答えを他人に伝えるとどうなるか。
やってくるのは偏頭痛などではなく、頭が割れるほどの、下手すれば意識に関わるほどの頭痛。
それを彼女は、ずっと誤魔化し続けていた。
———それは、誰にも能力を言わないという縛りでもあり———そして山田に余計な心配をさせないためでもある。
「がっ……はぁ……はぁ……」
なんとか収まったようだったが、何やら彼女は鼠径部を気にしているようだった。
「———ほんとよかった、ホテルに来といて」
———その部分は、水たまりができていた。
「———これで、よかったはず」
———彼女の役目は、あくまでずっと傍観することである。
物事に必要以上には関わらない。事実、彼女が関わった人物は今日まで紗奈以外にいなかった。
だが———彼女はそうしてしまった。
それゆえに———罰を受けた。
何故だろうか?
それは———初めて、自分から何かをしようと思ったからかもしれない。
本来の運命とは違う形に、世界が曲がっていくのを、自分の手でやってみようと思ったのだ。
———龍宮寺のままでいるよりかは、山田太郎でいる方が、自分は面白かったから。
「さーて、どんなことになってますかね———」
結果を楽しみにしながら、彼女は備え付けのシャワーに向かっていった。
◉
「———何してたの?」
「ネットカフェでオールしてましたね」
「何してんの⁈」
「試したことなかったので」
「……まぁ、そうか」
そういうことやっててもいいじゃないか!
単なる監視者だからな!たまには休んで欲しくもある!
———にしても。
「正直、お前がいないとどうしょうもなかったよ。ありがとな」
「いえいえ———単に山田さんが庵野さんにどうされるかが気になっただけですので」
「まーいいさ!終わり良ければ全て良しだ!」
「———確かに、そうですね」
一瞬なにやら影がついた気がする。
まぁいいや。
もっとちゃんと感謝を伝えよう。そうすれば晴れるかもしれない。
「———前も言ったけど。なんだかんだ言ってさ」
「はい」
「———お前が来てくれて、なんだかんだ良かったよ」
するとハッとした表情になって、そしてどこか顔を赤らめる。
そんな部分が残っていたのか⁈こいつに⁈
まぁいいや!
笑って終わろう!物語ってのはやっぱそうあるべきだ!
「———それは、良かったです」
———初めて見た、彼女の心からの笑み。
それは、まるでそこに花が咲いたかのように———全く見たことのない華やかさだった。
惚れないけどね?
「退院したら、寿司にでも行こう。回らない寿司だ」
「キングサーモンありますかね」
「相当珍しいなぁ、それ」
そんなこんなで読者の皆さん。
またいつか、お会いしましょう。
嘘かもしれないけどな!
フェイクリベンジャー山田 乱痴気ベッドマシン @aronia
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