それゆけモフモフ軍団!〜落ちこぼれ付与術師は魔法を使えず捨てられましたが、実は聖獣に使えてしかもかなり強力でした〜
茶部義晴
それゆけモフモフ軍団!
「まだ魔法一つもできないのか」
「ごめんなさい」
お父さんが冷たく言う。
執務室に呼び出された僕は【マイヤー=クラウディウス】、神から付与術師の職業を与えられた12歳の男だ。
だけどなぜか付与術1つ使えない、それを定期的にこうやって咎められているのだ。
濃い木を基調とし、前には作業をする大きな机、その上にはペンや資料などが綺麗に配置されている。
そのシンプルな部屋はとても静かで固唾を飲むとお父さんにも聞こえてしまいそうだ。
「もういい、お前には期待しとらん、出ていって良いぞ」
「はい」
怒るだけ怒って冷たく追い出される。
これは僕を焦らすためにしているものだろうか。
何度同じことをされても慣れることはなく泣きそうになる。
♢
「お乗りください」
ある日の夜、僕はお父さんに車に呼ぶ。
黒い何人も乗れる長く大きな車だ。
いつも僕のことを無視する執事がドアを開けてくれる。
「あ、ありがとう」
車に入るが隣には誰もいない。
広い車だから広く使いたいのだろうか、一緒に乗ったお父さんは前の方に乗ったみたいだ。
「出してくれ」
「はい、かしこまりました」
運転士がエンジンをかけ、車が発進する。
静かな夜の街を静かに進んでいく。
会話はもちろんない、どこに行くのだろうか、楽しいところだったらいいな。
好きではないけれどお父さんと一緒に出かけることができるのが少し嬉しい。
やがて外は山道に差し掛かる。
整備されていない砂の道でガタガタと揺れる。
車の明かり以外には光はなく不気味だ。
曲がりながら坂道を登っていく、少し気分が悪くなるが吐くわけにもいかないので我慢した。
どれくらい経っただろうか、車がようやく停まる。
「出ろ」
「はい」
でると前には崖のあるところ、後ろには木々が立ち並んで風に揺れて音を奏でている。
「うわぁ、綺麗です!」
月と多くの星が夜空を淡く照らしている。
町で見る空よりも澄んでいてとても綺麗だ。
お父さんはこれを僕に見せに連れてきてくれたんだ。
「もっと前に出て見るがいい」
お父さんに言われ、崖に気をつけながら前に進む。
遠くの地上には明かりの塊が見える、僕達の町なのかな?
これもすごく綺麗だ。
「いい眺めか?」
「はい、とても!」
後ろから聞くお父さんにうなづき答える。
「そうか、それは良かった。ではさよならだ」
「――え?」
何が起こったのだろう、体が押し出されて崖から落ちていく。
「お父さ!」
上を見るけれど崖の上には誰も見えない。
下から突き上げる風、臓器が浮き上がる感覚が気持ち悪い。
ぐんぐんと下の森が近づいていく。
怖い、どうなるのだろうか、恐怖で歯を食いしばって目を閉じる。
そしてドサッドサッと僕の体は何度かに分けられて叩きつけられた。
「痛い……痛いよ、お母さん……」
なんとか目を開けるがお母さんがいるはずもなく、闇が支配する。
手には土の感触、闇の中にぼんやりとあるのは木々だけ。
口の中は血の味がする、全身が痛くてほとんど動かせない。
サワサワと草を掻き分ける音がする。
お父さんが助けに来てくれたのかな?
だけど、視界に入るのは人間ではなかった。
オオカミ? いや、オオカミに似ているけど違う。
それよりも大きく、闇の中だというのに全身の毛が白く輝いている――聖獣、本で見たそれと似ている。
聖獣が近づいて顔を近づける。
食べられてしまう、危険を感じ緊張で体が硬直して目を固く閉じる。
鼻で僕の匂いを確かめられているのか? 食べれるのか確認しているんだ。
すぐに牙で噛み切られると思ったが、次に得た感触は舌のものだった。
ペロペロと頬を舐められる、傷があるのか少し染みるけれど少しすると痛くなくなった。
そして次の瞬間、腹部に圧迫感がきて体が宙に浮く。
服を噛んで持ち上げられたのだ。
そして僕の体はこの聖獣に運ばれたのだった。
♢
「みんな待ってくれよ!」
子供オオカミの聖獣を追いかけて遊んでやる。
16歳になった僕はあの日聖獣の住処に運ばれて助けられた。
そしてそのままこの村のような所で暮らしている。
あの山のどこにこんなところがあるのかはわからないけれど、結構な広さが開かれてあり30匹程のオオカミ型聖獣がが住んでいる。
そんな僕の仕事といえば子供聖獣の遊び相手、言葉が通じるわけではないので与えられた仕事じゃない。
もっと小さかったこの子達が懐いてくれたから自然とこあちなっている。
僕の食べ物は大人聖獣が取りに行ってくれる。
火が使えないので木の実と草が僕の主食である。
最初は同じ生肉をだされたが食べた翌日死にそうになったので色々試行錯誤してくれた。
家と呼べるものがなく野晒しであるがそれにも慣れ、概ね楽しんで暮らせている。
おそらく体力と丈夫さはこの生活でだいぶ上がったのではないだろうか。
「よし、捕まえたぞ! エリー」
逃げていた子供聖獣をなんとか捕まえた。
こうなったらやるお決まりの事がある。
それは『モフモフ』する事だ。
聖獣の柔らかくふわふわの感触の毛はとても気持ち良く、顔を埋めてモフる。
神秘的な何かで守られているのか汚れもつかず、白い輝きがいつも眩しい。
モフモフしていると他の子たちも逃げるのをやめて寄ってくる。
「仕方ないなぁ」
俺は全員を平等にモフってやる。
この子たちもモフられるのが好きなのだ。
最初は違いが分からなかったけれど、しばらくすると見分けが付くようになった。
人間と同じでよく見ると全然違うのだ。
本当の名前はわからないけれど、やっぱり僕が不便なので勝手に名前も付けさせてもらった。
最初に捕まえたのが【エリー】、寄ってきた4匹はそれぞれ女の子の【アリス】、【マリア】、男の子の【リオン】、【ルード】。
みんな性格も違うけれどとても可愛らしい子達だ。
「よしよし、もうやめてくれ」
モフられるのに満足したねかみんなで俺を舐めてくる。
葉っぱ一枚しか身につけていない俺の体はあっという間に唾液まみれになってしまった。
そういえば、この唾液にも特別な能力ちからがある。
それは傷を癒す能力で、僕があの日助かったのもこの能力のおかげだ。
『ワオォーーン!』
いきなり大人聖獣の雄叫びが聞こえてくる。
それを皮切りに他の大人達の雄叫びが次々にこだましていく。
「どうしたの?」
俺のところにいる子供達も毛を逆立てて身震いをし始め、警戒している様子。
一体どうなっているんだ?
こんなことは初めてだ、きっと良くない何かがある。
「あれは――オーク」
みんなと声のする方へ駆け寄ると魔物の姿が見えた。
豚の鼻をもつ顔に2メートル程大きな体で肌はピンク、お腹のでた二足歩行の魔物が何体も近づいてきている――【オーク】が攻めてきたんだ。
最前線にいた大人聖獣がまっさきに飛びかかるがオークの手荷物棍棒で跳ね返されてしまう。
それに怯まず次々と向かっていき、本格的に戦闘となるが劣勢で次々と棍棒で跳ね除けられる。
このままではだめだ、俺の周りのこの子達も怯えてしまっているように見える。
みんなに助けてもらった命だ、僕も行かないでどうする!
「ヤァーー!――グフッ!?」
叫びながら突撃するけど拳は届かず、リーチに勝る棍棒に返り討ちにされ腰に重い衝撃が走る。
息が一瞬できなかったが骨は大丈夫だったみたいだ、なんとか呼吸を整えて立ち上がる。
だけどどうしよう、このままじゃみんなやられてしまう。
何か、何か考えるんだ……。
頭を高速で働かせるとある事がよぎる――付与術、一度も使えなかった僕の職業魔法だ。
使えるはずない、でもやってみないとみんなやられてしまう。
僕は戦うみんなの方に手を向け唱える。
「《強化》!」
光の粒子がみんなに降り注いでいく――発動した!? やった! 発動したんだ。
その光は聖獣達を包み込み、形を変えていく。
「ん?」
何か様子が変だ。
なぜか光の中にいる聖獣の姿が人型に変わっていく。
光が解けると出てきたのはオオカミの耳と尻尾のついた人間、しかも僕とは違い服まで着ている。
困惑しているのは向こうも同じようで自身の体をキョロキョロと見て、手で感触を確かめている。
「これはお主の仕業か!?」
「わかりません!」
老人の姿になった聖獣が僕を見て大きな声で聞くが、わからないものはわからないと言うしかない。
体を強化するだけのこの魔法に擬人化能力はあるはずがないのだから。
よく見ると聖獣の年齢や性別によって人になった姿が違うようだ、年長者はやはり年がいき男は男、女は女の姿になっている。
「ふむ、仕方ない、みんなこのまま頑張るぞ!」
「はい! 長老様!」
ああ、長老様なんだ、どうりで皆の中心にいつもいるわけだ。
普通に人間の言葉も話しているのが不思議だけど知らない事が知れた。
そして、人型になった聖獣がオークに再び立ち向かう。
――勝負が一瞬の内についた。
まさかの結果に僕も、オークを倒した皆も驚いている。
全員が一撃で苦戦していたオークを吹き飛ばしたのだ。
「お主、何をしたんだ?」
「本当にわからなくて、強化という付与魔法なんですが」
長老がこっちにきて再び聞かれるがやはり正直に言うしかない。
「ふむ……まあよい。何はともあれ危機は去った、感謝する」
「ありがとうございます」
よくわからないけど結果的にみんなの役に立てたことが嬉しい、思わず笑みを浮かべてしまう。
「なんだか力が沸いてくるわ」
「うん、これはなんでも狩れそうだ!」
他の人型になった聖獣達も近づいてきて喜び合う。
「ん?」
子供達が僕の足元に集まり何か訴えるように鳴く。
「この子達もその魔法をかけてほしいと言っておる」
「わかりました! ――《強化》」
魔法をかけるとやっぱり同じように子供達も尻尾と耳のついた人間の子供の姿に変わっていく。
「わぁ! お兄ちゃんと同じだ!」
「同じ! 同じ!」
「お兄ちゃん!」
みんなが笑顔で喜び僕に抱きついてくる。
いきなりでびっくりしてそのまま倒されてしまい、そのまままた舌で舐められる。
何か道徳的に良くないような気もするけど……まあ良いか、僕はみんなの耳や尻尾をモフってあげた。
「して、お主……」
「何でしょう?」
「わしらはどうやって元に戻ればいいのじゃ?」
あっ……。
僕は髭を撫でて考えている長老にこう答えるしか出来なかった。
「……わかりません」
♢
やがて僕はこの聖獣達と国をつくり、魔物と人間に並ぶ第3の勢力となっていくのだけど――それは別のお話である。
⭐︎表紙⭐︎
https://kakuyomu.jp/users/tyabu/news/16818023212908714052
⭐︎以下あとがきです。⭐︎
【作者からのお願い】
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また連載作品
【異世界転生先の職業はチート盗賊!?~レベルMAXのスキル《盗む》がとんでもない!~】
もどうか読んでいただけると嬉しいです
よろしくお願いします!
それゆけモフモフ軍団!〜落ちこぼれ付与術師は魔法を使えず捨てられましたが、実は聖獣に使えてしかもかなり強力でした〜 茶部義晴 @tyabu
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