㉑いざ西大陸へ
「ありがとうなぁ」
「……え?」
重々しい
老人は実の孫を
「
「それは、でも、
緊張したように
「ならば、我らは今日この時より、
「!」
そのあまりの
幼い頃から
「ええ」
レイラはようやく心から、
「それで、おめぇはまたなァにをしてやがるんだ」
つられて、いくつもの視線が甲板をせわしなく行き来する男へむけられる。
当然、少女の過去の話など、これっぽっちも聞いちゃいない。
「決まってるだろう、
「……は?」
「この船は島へ戻るんだろう? だが俺は戻りたくねぇ。時は金なりだ、このまま西大陸へ行く」
「行く、っておめぇ……」
突っ込みどころが多すぎて、なにから指摘すればいいのかわからない。
彼の言うとおり、船の進路は島へむかって逆走している。
当然だ、からくも海図を守ることはできたが、赤鬼の
この男がいくら
「なぁ
「あ? あァ、そうだな。ありが――」
「いや、礼はいらん。その代わりこの
「……は?」
要は自分だけ小船で西を目指すというのだ。
くれ、と頼みこんではいるが、彼の中ではすでに自分の物と決まったようで、
その荷物もすべて貿易船の備品なのだが……。もはや
どうせ島へ戻ればかわりはいくらでもあるのだ。
しかし、老人はこの船の航海士として、彼の
「おめぇは馬鹿か。たった今、ワシらがなんのために
「海図なら覚えたぞ」
あっけらかんと、
ぞんざいにあつかうな、と
覚えた……?
この
「ただ文字の意味がわからねぇ。
そう言って、
トトはいまだ事態をよく
「もちろん、
「よし、
「……もう好きにしやがれ」
やれやれ、と老人は疲れたように肩をすくめた。
若者の無茶な暴走についていくのは
そもそも彼らは鬼のしがらみとは一切関係のない部外者である。
ここから先は、島の住民だけで解決すべき問題であった。
「あと、そうだな、旅へ出るには財布もいるな」
にやり、とふくみのある笑みをたたえて、
「
「……え」
まさか自分も誘われるとは思っていなかった様子で、レイラは
すると、
他の青鬼たちも、彼女の旅立ちを見守るように、温かなまなざしをむけている。
彼らにはわかっていた。
はみだし者の彼女には、赤鬼でも青鬼でもない、あの二人のような仲間が必要なのだと。
レイラはしばし迷うように
彼女なりの決意表明のつもりだった。
「何度も言わせないで、四割よ!」
わざと
「いいや、さっき俺の大事な
「はぁ!?」
レイラはパッと口もとを押さえた。
まさかあの種が有料とは思わないではないか。
「言っただろう、タダで善意が売れるか」
「……ほんっと、アンタってサイテー」
そんなやりとりをどう勘違いしたのか、トトがころころと楽しげに笑った。
「おふたりは仲がよろしゅうございますなぁ」
「……ないわ」
「ねェな」
小さな帆が
目指すは
【第一幕・了】
――――――――――――――――
◆あとがき◆
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
凸凹三人組の冒険譚はひとまずこれで終幕です。
初めて連日投稿でしたが、こんなにたくさんの人に読んでもらえるとは思っていなかったので、本当に幸せな2ヵ月でした。
彼らの旅はまだまだ続きます。
またいつか西大陸編も書けたらいいな。
2024/04/01からは、新しい連載が始まります。
今作とはまったく雰囲気が違いますが、こちらもお付き合いいただければ幸いです。
――――――――――――――――
◆追記:次作のお知らせ
①「
4/1投稿スタート。毎夜20時更新予定。大樹に住むちいさな双子の物語です。はじめて児童文学に挑戦しました。昨年コミティア本の再掲です。のんびりとした童話の世界をどうぞお楽しみください。
②「
こちらは完全新作! 4月下旬~5月中に投稿開始予定です。
本格的な異世界転生×博物館モノです。ただ今準備中ですので、また詳細は後日告知します。がんばるぞー!
―
PHANTOM ROAD ー異獄忍奇譚ー 天川藍 @Amakawa_Ao
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