⑳緋髪の少女
レイラは、
父の顔は生涯一度も見たことがない。
名前も、母は
しかしその男は赤鬼の中でもかなり高位の身分であるらしく、彼女は
ただし、周囲はいつもレイラとその母親を
極力眼をあわそうとはせず、仕事以外の時は近づこうともしない。
幼い少女はそれを寂しく思い、自分の髪が銀色であったならと、どうにもならない
レイラは母親の血をより濃く継いでいたため、髪の色さえ同じであれば、他の青鬼と見わけがつかないほどであった。
彼女の暮らす集落には、レイラ以外に
そして、彼女のささやかな願いは、数年前母親が
権威ある父親の影を気にして親子を遠ざけていた奴隷たちであったが、母親の
レイラは他の
赤鬼の血を引いている分、細身のわりに女性らしからぬ力と
やむをえず深夜に食糧庫を
そんな終わりの見えないどん底に
奴隷の誰かが、食糧庫荒らしの犯人としてレイラの名を上に報告したらしく、処罰を受けることになったのだ。
本来ならば、奴隷の食糧事情ごときに上官が重い腰をあげることなどない。
しかし彼女の前に現れたのは、
男はレイラに、
彼女の容姿と、したたかな身体能力が使えると判断されたのである。
レイラに選択の余地はなかった。
しかしこの話は彼女にとって、
もはや故郷の集落に愛着も未練もなく、ここから出て行けるのならばなんだって構わないとさえ言い切るほどに、彼女は
もうひとつ、思いもかけないことがあった。
本国の研究機関から、
彼女は、長年の夢であった
はじめて脱色液を使った日、レイラは何度も鏡を
嬉しかった。
身も心も生まれ変わったような気分であった。
その薬の背景に、身の毛もよだつどろどろとした
――彼女は
夢を叶えた
レイラはその背中に、一生消えることのない
そして海賊の
レイラは青鬼のことが嫌いだった。
自分を
だから、彼らをだますことなんて容易な任務だと
しかし、捕らえられた青鬼たちはレイラを自分たちと同じ
その時になってようやく、レイラは自分の
彼女は、透きとおるような白銀の髪が欲しかったのではない。
本当は、誰かの
青鬼のようになりたかったのではなく、彼らに自分を受け入れてもらいたかったのだ。
失った母の代わりに、
彼らを裏切れば、自分はもう二度と、誰とも
――もはやレイラに残された道はひとつしかない。
赤鬼に逆らうなど、この上ない恐怖である。
命令を
しかし
彼女はその日、種族というしがらみと
そして時を同じくして、ひとりの男と一匹のネズミが、彼女の背中を後押しするように
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