⑲奇跡の種
白と灰と赤に
動ける者は無言で怪我人の治療にいそしみ、あるいは
なぐさめにもならないことではあるが、亡くなった者たちは皆、赤鬼の強烈な一撃によって絶命していた。
あまりにも圧倒的な暴力は、彼らに苦しむ間もあたえず命を奪い去ったのだ。
生き残っている者たちが比較的軽傷であるのも、その一撃をまぬがれたからに他ならない。
奴隷としての運命から解き放たれた青鬼たちは、この日はじめて〝勝利〟という輝かしい
その中にあってひとりだけ、他とは違う苦しみにさいなまれている者がいた。
自らの傷を適当に処置した
彼女は
しかし
「おい、どうした?」
そばへ寄って肩を揺らせば、その身体がぎょっとするほど熱を持っているのがわかった。
異変を感じ取り、何人かの青鬼たちも集まってきた。
彼らはレイラの様子を目にするや、ハッと痛ましげに息を飲んだ。
なにか心当たりがある様子である。
ひとりの女性が顔をこわばらせながら、そっとレイラのかたらわに
白く細い背中があらわになり、悲痛なざわめきが
「……なんてことだ」
雪のような
「
誰かが
それはここにいる青鬼たち全員が、一度は受け入れようとした奴隷の
この
なぜレイラがこの刺青を背負っているのかはわからないが、症状は深刻である。
――原因は明らかだった。
彼女は、捕らえられた青鬼たちを救うため、赤鬼の悲願である海図を奪い、あまつさえ計画を
本国への反抗の
青鬼たちは言葉を失った。
彼女の行動によって命を長らえたというのに、彼らには少女を救うすべがないのだ。
「あきらめてはなりませんぞ!」
トトが、祖父の手帳をめくって言いつのった。
「
まるで自分に言い聞かせるように、
「カルディアという植物があるのです。どんな古傷もたちどころに
夢のような話を、トトは必死で語った。
たとえその話が
そうとわかっていながら、トトはありえない夢にすがった。
もうこれ以上、勝利の果てに失われる犠牲など、見たくはなかったのだ。
優しいネズミの大粒の涙に、レイラはかすかに笑った。
なにもかもあきらめたような、
「
彼女は相変わらず嘘が下手だった。
それに、あきらめる必要などどこにもない。
白い幽霊のような五枚の
――なんの
ならばと、腰帯から光り輝く最後のひと粒を
「その植物ってのは、種でもいいのか?」
「ええ、むしろ種にこそもっとも多い効能が、そう、ちょうどそのような、タネ……、え?」
ぽかん、と誰もが口を開けて固まった。
あまりにも
「嘘……」
真っ先に否定へ走ったのは、救おうとした張本人であった。
彼女だけでなく、あまたの視線が紙面と実物とを
確かにあまりにも出来過ぎた展開であるが、あるものはあるのだ。
「とにかく食え」
効果のほどはすでに
彼こそ、その生き
これは
そして偶然、砦の地下にあったこの種を取り込み、今の肉体を得た。
そう考えればすべての
とはいえ、それが真実かどうかは定かではないし、青鬼の少女にも同じ効力が現れるとは限らない。
もしかするとヘドロののっぺらぼうになったり、突発的におかしな行動をとるようになるかもしれないが、どのみちこのままなにもしなければ彼女は死ぬのだ。
数秒、未知への
意を決して彼女は種を
青鬼たちは祈るような想いで、痛ましい
しばらくはなんの変化もあらわれなかった。
しかし段々と彼女の呼吸がゆるやかになり、腐りきった果実のようであった肌が健康的な色を取り戻していく。
奇跡だと、我が事のように涙を浮かべる者さえいた。
だがしかし、その声は急速にしぼんでいった。
レイラは
しかしそのかわりに、美しい
――少女は、
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