《第5章:トライワンズ》『第13節:剣楼』

「キセキさん、相手はあの「剣楼」です。一筋縄で行くとは考えられません。ですが、それでも、キセキさんならやってくれると信じてます! 観客席から応援してますね!」

「ああ、ありがとうユージーン」

 キセキとユージーンは入場口前で握手して別れた。入場口の扉を開くと、グラウンドまで真っ直ぐ通路が続いていた。その途中に立つ、全身白ずくめのとんがり帽子にローブを着た少女。

「(ん? あの人は……)」

「キセキ、と言ったかな」

「パラディンの……ヴゥアツァさん?」

「そうだ。はじめましてだね」

 ヴゥアツァはキセキを見て微笑んだ。


【物語あるある】凄い人との関わりが多い


「(開幕式で初めて見たときから思ってたけど、服だけでなく肌まで真っ白で、まるで生きていないみたいだ。そして見た目は可愛らしい少女だけど……明らかにただものじゃないオーラを感じる。「西の大魔女」の二つ名はダテじゃなさそう。でもどうしてそんな人が……)」

「ワレがキミの名を知っていて、さらにココにいるのが不思議かい?」

「!!」

「ディオーグに頼まれたんだ。キミのことを気にかけるようにと」

「ディオーグ先生に!?(ディオーグって呼び捨てにするの大物感ハンパねぇな)」

「……」

「……ど、どうかしました?」

 ヴゥアツァはキセキの顔をジッと見つめる。そしてクスッと笑い、口を開いた。

「確かにキミは、どこかディオーグに似ている」

「そ、そうですか……?」

「ああ。だから気をつけるといい。いつだって敵は我々の想像をいとも容易く超えてくる」

「……? 敵? 誰のことですか?」

「……さぁね。それよりもキミは目の前の試合に集中したまえ。応援してるよ」

「あ、ありがとうございます……」

「さて、ワレは行くよ。ディオーグに頼まれた「別件」があるのでね。また会おう、キセキ」

 そう言うとヴゥアツァは去っていった。

「(不思議な人だったな……何かよくわからないこと言ってたけど一体どういう……いや、今はそんなことより「ツインワンズ」だ。ここで必ず勝って、俺は……)」

 入場口を抜けて、光と歓声をワッと全身に浴びる。競技場は今日一番の熱気で満たされていた。理由はわかっている。ヴィゴーレのパラス「楼」の一人が出場するからだ。

 キセキはゆっくりと会場の中央へ歩を進める。そしてついに相対する。強大な恋敵と。

「……逃げずにやってきたな」

「あはは、逃げるわけないですよ。俺の、この世界で一番大切な人がかかってるんですから」

「その真っ直ぐな目……良い感じだ。やっぱり男たるものそうでなくちゃな」

 そう言ってグラディオは大きく息を吸い込み、観客席に向かって大声で叫んだ。

「アキたぁぁぁぁぁん!!! 俺が勝ったら結婚してねぇぇぇぇぇ!!!」

「!?」

 観客席でどよめきが起こる。キセキがグラディオの叫んだ方を見ると、そこには遠くから見ても分かるぐらい顔を真っ赤にしたアキュアが座っていた。

「(アキュア……!)」

「ヴィゴーレのパラス「楼」が一人、剣楼のグラディオ・エスパーダ! 参る!」

 ドンッ! 轟音が試合の開始を知らせる。キセキは七色の杖を、グラディオは白銀の短剣をそれぞれ構える。


【物語あるある】恋敵との決戦


「“剣術陣 武装”」

 グラディオが唱えると、銀色の魔法陣が彼の足元に浮かび上がる。

「“第1式 龍燐剣舞りゅうりんけんぶ”!」

 舞うようにグラディオが回ると、いくつもの斬撃がキセキに向かって放たれた!

「(まずはこれからだ!)呀翔斬・“乱”!!!」

 キセキが杖を振って空を幾度か斬ると、そこから斬撃が飛んで相手の攻撃を相殺した!

「!!」

「よし! 上手くいった!」

 そう言ってキセキは昨夜のことを思い出す。


 ユージーンとヘルデと「トライワンズ」初日を思いっきり楽しんだ後、キセキは一人ヴァイスハイトの中庭に来ていた。

「(明日のグラディオとの決闘……グゥジに稽古をつけてもらったのはいいけど、これだけじゃきっとまだ彼には敵わない……「剣楼」になるほどの男だ。色んな技や“魔術”を使いこなしてくるだろう。それらに対応出来る「新技」が必要になる)」

 キセキは七色の杖を構える。

「(……フレイドの“炎術陣”ד剣術陣”やイグナイトの“炎術陣”ד刃術陣”のような“概術陣”を見て思っていたことがある……アレ、俺の変幻魔力域でも同じことが出来ないか、と)」

 彼は杖に力を込める。

「(……ブルートの放った斬撃の嵐……認めたくはないけど、確かに強力だった。アレも俺の「呀翔斬」と、生きてきた軌跡を“魔術”化する“跡術陣”を掛け合わせれば再現出来ないか? 例えば……メイルの使った“殻術陣”とか)」

 キセキは杖を立て続けに大きく振った。

「呀翔斬!!!」

 杖から一度だけ斬撃が放たれた。

「(……そう上手くはいかないか……いや、イメージが足りないだけなんじゃないか? たくさん斬撃が飛ぶ様をもっと強くイメージして……そして、言葉は力。コレ専用の技名も必要だな。そうだな……ココはシンプルに、“甲殻乱撃”から取って……)」

 彼は杖の先に意識を集中させた。

「呀翔斬・“乱”!!!!!」

 キセキが杖を何度か振ると、振った回数だけ斬撃が放たれた!

「(やった! コレコレ! この感じ! この勢いで変幻魔力域ד跡術陣”で考えていけば……)」


【物語あるある】技と技と掛け合わせた技


「初見で俺の技を見切るとは。口だけじゃなかったんだな、キセキ」

「まぁね。コレでもいっぱい修行しましたから(ほぼ一夜漬けだけど)」

「だが一度見切っただけで勝った気になられちゃ困るぜ! “第2式”!」

「!!」

「“昇天竜斬しょうてんりゅうざん”!」

 高く縦に延びた斬撃がキセキを襲う!

「(峰啼脚ד光術陣”の“電光石火”で……)峰啼脚・“光”!!!」

 キセキは光のごとき速さでグラディオの斬撃を躱した!

「避けるか。それなら……“第3式 滅剣竜巻めっけんたつまき”!」

 グラディオの振った短剣から竜巻のような斬撃がいくつも生成され、ゴリゴリと地面を削りながらキセキに迫った!

「(逃げ道を無くすつもりか! だったら……迎え撃つまで!)」

 キセキは迫り来る斬撃の竜巻に向かって走り出した!

「(正面からぶっ飛ばす! 縁啼拳ד泉術陣”の“超間欠泉”で……)縁啼拳・“泉”!!!」

 突き出した拳の先で大爆発が起き、竜巻をかき消した!

「!!」

「“第4式”」

 かき消した先にグラディオが迫ってきていた!

「“剣磁砥魚けんじとぎょ”!」

 キセキはグラディオの短剣によって十字に切り裂かれた!

「ぐっ……! (竜巻に囲まれた中での俺の動きを「過敏触覚」で把握……竜巻を囮にして抜けた先で待ち構えていた……! やはり彼のパッシブ「過敏触覚」が厄介だ……だけど……!)」

 キセキはグラディオから距離を取る。

「ああ〜! キセキついにくらっちゃったよ! ヤバくない!?」

「まだ一撃受けただけだろ。終わったみたいに言うな」

 観客席で頭を抱えるスプリングにガストルが冷静に答えた。


【物語あるある】観客による実況


「そうだよスプリングちゃん。あの「剣楼」相手にキセキくんはよくやってるよ」

 ピサもガストルの言葉に賛同する。

「だけどやっぱりグラディオさんの方が何枚か上手ですね〜。キセキさん、もう既に息を切らし始めてます〜」

「!!」

 ピサの隣に座っていたグゥジがそう言った。

「あれ? ヴェネレイトの……「菓皇」のグゥジじゃん。キセキのこと知ってんの?」

「バ先に来てくれたんですよ〜。一昨日稽古もつけました〜。グラディオさんとは色々あったのでキセキさんには勝ってほしいんですよね〜」

 スプリングの問いにグゥジは返答する。

「色々……ね。キセキはもうそんな確執忘れてそうだけどな」

「ハイレン先生に無理矢理本戦へねじ込んでもらったんだってね。そこまでして出たい理由があったのかな?」

「私のせいです」

 ガストルとピサの話にスプリングの隣に座っていたアキュアが応えた。

「アキュアのせい?」

 ガストルとピサ、スプリングは試合開始前のグラディオの言葉を思い出す。

「「「(ああ〜、そういう……)」」」

 三人はキセキが必死になる理由を察した。

「キセキ……怪我大丈夫かな。これ以上傷つかないでほしい。危ないことしないでほしい。私のせいで……無茶しないでほしい」

「……アキュア。男ってのは好きなモノのためならいくらでも無茶できる生き物なんだ」

「……!」

 アキュアの言葉にガストルが返した。

「正確には……無茶を無茶と思わない。好きってだけで活力が湧いてきて、好きってだけで頑張れて、好きってだけで何でも出来る気がしてしまうんだ。そんな想いを……俺も……」

「……?」

「いや、何でもない。つまり何が言いたいかっつーと……その……」

「キセキくんのことを信じて見てろ……ってことだね」

 言葉に詰まったガストルをピサが助けた。

「そうそうそういうこと!」


【物語あるある】突然良い話するキャラ


「ガストルさん、たまには良いこと言うっすね」

「たまには余計だバカ!」

 スプリングの言葉にガストルは怒った。

「それにしてもキセキさん、一度攻撃を受けてから防戦一方ですね〜。どうしたんでしょ〜?」

「あいつのことだ。何か考えがあるはず。今に見てろ。あの生意気な「剣楼」を……」

「あ! 危ない!」

 キセキはグラディオの短剣と杖で鍔迫り合いになっていた。

「逃げてばっかだなぁ! キセキ! 怖気付いたか!?」

「くっ……(まだだ……まだもう少し……!)」

「“第5式 極メ”」

「!!」

「“剣樹地獄けんじゅじごく”!」

 地面から飛び出した複数の魔力の刃がキセキを攻撃した! それによって彼は吐血する。

「ぶはっ……! (いってぇ……! これ以上は危ないな……もう少し撒きたかったけど、仕方がない……やるか!)峰啼脚!!!」

 キセキは足元で爆発を起こし、グラディオから距離を取る。

「(そして……)縁啼拳!!!」

 キセキは地面に向かって拳を打ち付けた。それによって砂煙が広範囲に高く立ち昇り、視界を遮った。

「ここに来て目眩しか!? そういうの効かない感じなのは知ってるだろ!?」

 そう言ってグラディオは砂煙の中で自身のパッシブ「過敏触覚」を研ぎ澄ませる。すると右側から迫ってくる魔力を探知した。

「(わかりやすい動き……最初に俺の攻撃を見切った時は驚いたが、所詮はこんなものか……全力の攻撃で迎え撃つ! これでアキたんは俺のもんだ!)“第6式 極メ 剛刃剣魔ごうじんけんま”!」

 グラディオは向かってくる魔力に対して“魔術”を放った。

「!?」

 ドゴンッッッッッ!!! そこにキセキの姿は無かった。それどころか突如爆発が起き、グラディオは傷を負った。

「(いない……!? っていうか今の爆発は何だ!? 何が起きた……!? ……いや、落ち着け。落ち着いて「過敏触覚」を研ぎ澄ませ。今のが囮だったとして、そういくつも作れはしない。次こそは本物だ……!)」

 グラディオはまた「過敏触覚」で後ろから迫り来る魔力を感じ取った。

「(後ろ……!)」

 ドカンッッッッッ!!! グラディオが短剣を振るうと、その先で爆発が起きた。それによって彼は弾き飛ばされる。

「(また囮……!? おかしい……本人と見分けがつかないほど精度の高い囮をいくつも作れるなんて……しかも爆発するおまけ付き……とてもじゃないが、一年生に出来る技じゃない! でも分かってしまえばどうということはない。向かってくる魔力を遠距離で片っ端から斬り伏せればいい。そうすれば……)!!」

 グラディオは魔力を探知した。その数、二十以上。彼を取り囲むように魔力が迫り来る。

「(これはマズイ感じだな……)“第7式 極メ 奥義”」

 グラディオは剣を高く掲げる。

「“武甕槌たけみかづち”!!!」

 彼が唱えて短剣を振った瞬間、斬撃が四方八方に飛び、迫ってきていた魔力達にぶつかった。至る方向で爆発が起き、それにより砂煙は晴れていく。

「(凌ぎきった! まさか“剣術陣”の“奥義”まで使えるとは思わなかっただろう。さぁ、驚いた顔を俺に見せろ!)……!」

 砂煙が晴れても、そこには誰も居なかった。

「いない!? 一体どこ……」

穿啼昇せんていしょう!!!!!」

 直下の地面から飛び出してきたキセキの拳がグラディオの顎にクリーンヒットした。彼は空高く殴り飛ばされる。

「がっ……」

「よっしゃあ!!! どうだ!!!」

 弧を描いて地面に落ちたグラディオは動かない。


【物語あるある・再掲】主人公の発想で逆転する


「(頼む頼む頼むそのまま動かないでくれ……!)」

「……効いたよ。キセキ」

「!! (くそっ! まだ意識が……!)」

 グラディオはゆっくりと立ち上がる。

「だけどもう限界だろ? あんな大掛かりなことしたら、魔力は底を突きそうなはずだ。それは“奥義”を使った俺も同じ……だからこうしないか?」

 グラディオはキセキに向かって拳を突き出す。

「最後はこれ一本で勝負……ってのは」

「ははっ……いいね、乗った」

 二人は拳を構える。

「キセキィィィィィ!!!」

「グラディオォォォォォ!!!」

 キセキとグラディオの拳がぶつかり合う!


【物語あるある】男同士の殴り合い


「はははははっ! ついには殴り合いを始めたぞ!」

「男らしくていいじゃん! 熱い展開だ!」

 ガストルとスプリングが喜んだ。

「恋する男の子ってのは素晴らしいね」

「キセキさん、ここまでグラディオさんを追い詰めたのが凄いです〜」

 ピサとグゥジも二人を称えた。

「キセキ……!」

 打って変わってアキュアはハラハラしながら見守っていた。そのとき、グラディオの拳を受けてキセキがよろめいた。

「!!」

「うらぁっ!!!」

 追い討ちをかけるようにグラディオが拳を繰り出す。それを片手で受け止めるキセキ。

「……!」

「負けて、たまるかぁぁぁぁぁ!!!」

 掴んだ腕を引き、グラディオに拳をぶつける。グラディオも負けじと拳を返す。二人は何度も何度も何度も何度も何度も拳をぶつけ合う。

「うああああああああああ!!!!!」

 キセキとグラディオの拳が互いの顔にぶつかり合った!

「……」

 二人は同時に倒れる。静まり返る競技場。固唾を呑んで勝負の行き先を見守る観客。最後に立ち上がったのは……

「……! しょ、勝者……!」

 そこには、拳を高く掲げるグラディオが立っていた。

「グラディオ・エスパーダ!!!」


【物語あるある】主人公の敗北


 ワアアアアアアアア!!! 湧き上がる会場。口々に感想を叫ぶ声が聞こえる。それに構わずグラウンドへ飛び出した少女がいた。

「アキュア!?」

 スプリングは驚いて思わず叫んだ。真っ直ぐ走ってくるアキュアにグラディオは声をかける。

「アキたん! 俺、勝ったよ! 男と男の勝負に勝った! だから約束通りけっ……」

 アキュアは彼の傍を通り過ぎていく。

「……!」

「キセキ!!!」

 彼女は倒れて動かないキセキに駆け寄る。それを見てフッと笑うグラディオ。

「……完敗だよ。キセキ」


【物語あるある】試合に勝って勝負に負ける


 目を覚ますと、視線の先には見覚えのある天井があった。そして同時に嫌な予感がする。

「あ〜、コレは俺……またやっちゃったな?」

「キィィィィィセェェェェェキィィィィィ」

 起き上がると、そこには怒り心頭のハイレンが立っていた。

「うわぁ……」

「お前ぇぇぇぇぇ!!! 俺が「ツインワンズ」に出してやる代わりにした約束はどうした!!! 忘れてたとは言わせないぞ!!! あんっっっっっだけ言ったんだからな!? おい!!! 何とか言ってみろ!!! このケガフヤシキセキバカが!!!」

「(そんなニギハヤ〇コハクヌシみたいな……)いや、あの、ホントに、ホンッッッットにすみませんでした。反省してます。いつもいつもありがとうございます。仕事増やしてホントに申し訳ないです。でもその上でひとこと言わせてください」

「……は? 何だよ」

「パラス相手に怪我なしで戦うのは無理ですって!!!!!」

「はぁ〜!? 何開き直ってんだお前!!! 相手が誰だろうが元々そういう約束だろ!!! それを承知したのはお前!!!」

「その前提がおかしいんですって! ユージーンに聞きましたけど「ツインワンズ」を無傷で勝利したやつなんてそういないらしいじゃないですか! そもそもの約束が無理だったんですよ!」

「一回約束しといて後から無理とか言うな!!! そんな気概だから「剣楼」にも負けるんだろ!!! ……あ」

「……ああ……やっぱ俺、負けたんですね……気失ったからそんな気はしてましたけど……ああそっか……負けたのか……」

「……いや、えっと、その、今のは悪かった。すまん。それでもキセキはよくやったよ。あの「剣楼」をあそこまで追い詰めて……正直どっちが勝ってもおかしくなかった。お前は本当に凄いよ」

「……ありがとうございます」

 保健室は静寂に包まれた。その静寂を切り裂くように扉が開いた。

「キセキ!!!」

「アキュア!」

 戸を開けたのはアキュアだった。

「キセキぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 アキュアはキセキに抱きついた。

「良かった……! 無事目が覚めて……! なかなか起きないから心配した!」

「心配かけてごめん。俺どれぐらい寝てた?」

「半日ぐらい」

「半日!? ってことは「ツインワンズ」はもう……」

「終わったよ」

「マジか!!! 俺の後の試合全部見逃した!!! ……ちなみに誰が優勝したの?」

「バジェーナさんだよ」

「バジェーナ……? ああ、あの「鯨弟」とか言う……」

 キセキは頭の中で深い蒼色の髪を刈り上げたサングラスをかけた青年を思い浮かべていた。

「ってそれウチのパラスじゃん! すご! 戦ってるとこ見たかったなぁ……」

「新聞部が記録してあるはずだから、後でそれを見せてもらえばいいよ!」

「そうなんだ! それはありがたい! ……そうだ。アキュア。二人で行きたい場所があるんだ」

「行きたい場所?」

 キセキの言葉にアキュアが聞き返した。それを聞いてハイレンが嫌な顔をする。

「おい、マジでもうこれ以上は……」

「怪我しませんって!」


 満天の星の下、心地よい夜風が吹き、肌を優しく撫でる。ヴァイスハイトの周辺が一望でき、少し先には「ツインワンズ」が終了し静かになった競技場も見える。ここは常夜城の屋上。

「……誰もいないね」

「そうだね」

「ここ? 二人で来たかった場所って」

「そう! 素敵な場所って聞いてたから、是非アキュアと来たかったんだ」

「ふふふ、嬉しい」

 アキュアはキセキに向かって微笑む。

「そういえば試合の途中で砂煙を起こしたじゃない? あの後砂煙が晴れるまで何が起きてたの?」

「ああ、アレね」

 キセキは身振り手振りを交えながらアキュアに説明する。


【物語あるある】試合解説


「グラディオに勝つためには彼のパッシブ「過敏触覚」の攻略が不可欠だと思った。でもそれはアキュアも知ってる通り、アキュアのことを見なくてもパラスと見抜けるぐらい高い能力を持つ。だからそれを逆手に取った」

「逆手に?」

「うん。俺のパッシブ「変幻魔力域」は魔力を切り離すことも出来る(コレはドロシーのパッシブ「分割魔力域」の使い方を聞いて思い出した)。そして昨夜練習して切り離した先でも伸縮できるようにした。グラディオの技を躱しながら最大まで拡げた状態の魔力をグラウンドの至る所に配置しておいたんだ」

「途中防戦一方だったのは魔力を配置するため……!」

「そう。コレがバレないかは正直賭けだったけど、予想通りグラディオは俺本体の魔力に気を取られて気づかなかった。魔力は拡げて置いてあるから密度が薄くて気づきにくかっただろうしね。そしてある程度配置し終わったら砂煙を起こして目ではなく「過敏触覚」だけを使わせるように促した」

「そのために砂煙を……!」

「ああ。飲食店で食事してるときでさえ「過敏触覚」で周りを見てるあのグラディオだ。きっとそれだけを使ってくれると思ってた。そこに配置していた魔力を圧縮して密度を上げて飛ばすことで俺と誤認させる。俺はこの時点でもう地中に潜伏していたから、その近くに来るよう誘導しながらね。最後はそれを複数同時に飛ばして無理矢理大技を使わせる。大技を使って生まれる隙を狙って強力な一撃を食らわせたんだ(この作戦が立てられたのも全てグゥジのおかけだな)」

「全部計画通りだったってこと!? キセキ凄い!」

「そんなことないよ。あの一撃で完全に仕留めるつもりだったけどまだグラディオは余力を残してたし、拳での勝負を提案されなければ危なかったと思う(って言っても自分もまだ体力はともかく魔力には余裕があったように感じたな……あれだけ技を使ったのにどうしてだろう?)……ま、結局負けちゃったんだけどね……」

「勝ち負けは関係ないよ。私にとってはあの場で一番かっこよくて、輝いてて、ドキドキさせられたのはキセキだけだったよ」

「アキュア……」

 キセキは決意を固めるように拳を握る。

「アキュア、話したいことがあるんだ」

「なぁに?」

 彼は一度深呼吸して、ゆっくりと話し始める。

「……ずっと言いたかった。だけど言えなかった。俺はいつも事件に巻き込まれるから。俺のせいでアキュアまで危険に晒したくなかったから。でもグラディオがアキュアに結婚してほしいって言ってるのを見て感じた。ああ、嫌だなって。取られたくないなって。そして戦ってて思った。そうだ。俺がアキュアを護ればいいんだって」

「……!」

「俺のせいでアキュアが危険に晒されるのならその脅威から俺が護る。俺が関係なくてもアキュアが危ない目にあったら俺が救ける。俺はもう二度と負けない。たとえ世界を敵に回しても、俺だけはアキュアの味方でいる。そんな存在になりたいと思ったんだ。だから……」

 キセキは何故か涙が出そうになり、それを堪えながら言った。

「大好きだ、アキュア。一人の女の子として、大好き。俺の彼女になってほしい」

「!!」

 アキュアはハッと手で口を抑える。そしてその瞳にみるみる涙が溜まっていき、大粒の雫になって零れ落ちた。

「……私、良かったの。この想いがキセキと通じていなくても、一方的だったとしても、それで良かったの。良かった……はずなのに……」

 アキュアは涙を拭いながら話す。

「今はこんなにも嬉しい。死んじゃいそうなぐらい嬉しい。ありがとう、キセキ。こちらこそよろしくお願いします」

 涙ながらに答えるアキュアを見て、キセキもポロポロと涙が零れた。

「あははっ、何でキセキも泣いてるの」

「あはは、何でだろう。幸せすぎて、涙が止まらない」

「私もとっても幸せ。こんなに幸せでいいのかな」

「俺が絶対もっと幸せにする。毎日最高を更新させる。俺と付き合って良かったって感じてもらうために」

「私もキセキをもっと幸せにしたい。幸せにしてもらうだけじゃなくて、私がキセキを幸せにする」

 アキュアはキセキを抱き締めた。

「改めてよろしくね。キセキ」

 キセキはアキュアを抱き締め返す。

「こちらこそよろしく。アキュア」

 二人はしばらくの間そのままで過ごした。幸せな今この一瞬を噛み締めるように。


【物語あるある】主人公の告白

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キセキの魔術〜転生先は物語あるあるの世界!?〜 あるゔぁ @ALVA0720

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