第23章 乙女のピンチ

 「起立、例❗️」

 「さようなら」

 クラス委員の小林さんの号令で、帰りのホームルームが終わりました。


 「なんか今日は、ガチで疲れたぜ。 練習 サボりてえ」

 おじいちゃんのように ウウーと伸びをして、教室の後ろのロッカーに向かう紀矢(のりや)。

 「ねえ 紀矢君、私 これからひろみちゃんと 水瓶座寺(みずがめざでら)に行くんだけど、一緒に行かない?」

 ロッカーから マイピッコロを取り出してると、後ろから彩野(あやの)が 声をかけてきました。

 「わりいな、彩(あや)。 ほんとは おいらだって行きてえんだけどよ、今日から毎日 吹奏楽の本格練習が始まるんだよ。 おいらの分まで、徹(とおる)の事 お願いしてきてくれ」 彩野に向き直り、丁寧に頭を下げる 紀矢。

 「うん、わかった。 そうだ、あと一ヶ月で文化祭だもんね。 大丈夫、しっかりあなたの分もお願いしてくるから、ブラバン 頑張ってね。 じゃあね」

 彩野は、キラキラスマイルを 紀矢の所に残して、仲良しのひろみと 1bの教室を後にしました。

 不思議。 さっきまでのかったるさは どこへやら。 紀矢は、おへその奥からもりもりと 力が湧いてくるのを感じました。

 まるで、ファンキー・ブーメランで変身した時のように。

 「さあて、こんな所で ぐずぐずしちゃあいらんねえ❗️ 一発ぶっ放してくるか」

 紀矢は、胸を叩いて気合いを入れると、楽器を手に 小走りで音楽室に向かいました。


 防音の分厚い扉を開けると、早くも何人かの吹奏楽部メンバーが来ていました。 めいめいに 担当の楽器の調整をしています。 音楽室の後ろの方では、1cの伊藤君が 大きなチューバを試し吹きしています。


 「オッス、お疲れさん❗️」

 ニコニコしながら、紀矢は 伊藤君にハイタッチ。

 ところが、いつもなら「石井君 どうも、お疲れ様❗️ よろしく」と 笑顔でハイタッチを返してくれるのに、なぜか忙しそうに 楽器をいじっていて、こちらに見向きもしません。

 「ちぇっ、なんだよ。 挨拶くらいしてくれたって、すぐ終わるじゃねえかよ」

 紀矢は、がっくりと肩を落として、教室の前の方、フルートと ピッコロのメンバーが練習している席へと向かいました。


 ピッコロをケースから取り出して 音を鳴らしていると、少しずつ少しずつ 胸の中の霧が晴れていくような気持ちがしました。

 母ちゃんのカレーライスと、妖精のような彩野の笑顔、そして この小さな横笛は、紀矢の大切な元気の源なのです。


 さて、その頃 彩野と ひろみは、隣町との境近くにある水瓶座寺に向かって歩いていました。

 「ここのおうちのもみじ、だんだん葉っぱが色づいてきたねえ」

 なーんて 道端の農家の広ーいお庭を指差したりして、てくてく 通りを行く女の子たち。


 総合ふれあいセンターの角を右に曲がって、お寺まで数十歩の所にある コンビニの手前で、二人の足が ピタリと止まりました。 黒いヘルメットに 同じ色の羽のあるグレーのコスチュームの男たちが 三人、突然店から飛び出してきたからです。

 「うそ❗️ バタンキュラー‼️」 思わず声が漏れた 彩野。

 すると、一番背の高いバタンキュラーが 驚いて振り返り、

 「てめえら、見てたな⁉️」

 ハスキーボイスで そう言うなり、短剣を 彩野たちの方へと向けてきました。

 「待って❗️ 何も見てません」

 震えながら、蚊の鳴くような声で訴える 彩野。

 「嘘つけ❗️ さっきから そこで、中の様子を 見ていたんだろ」

 男は 短剣を振り上げ、女の子たちに切りかかろうとしました。

 「やめてよ、まじで 何も見てないんだってば❗️」

 ひろみが、咄嗟に彩野の手をとって 一緒にしゃがみ込み、バタンキュラーを見上げて 必死に訴えました。

 「うっせえ、問答無用だ、喰らえ❗️」


 (あ・・・切られる❗️) 女の子たちが 縮こまり、固ーく目を瞑った その時。

 「くっそー、邪魔すんな❗️ 離せ‼️」

 苛立ったバタンキュラーの声。

 彩野と ひろみが 恐る恐る目を開けると、すらりと背の高いビケットが、二人を切り捨てようとしていた男を 羽交い締めにして、取り押さえていました。

 「最近おとなしくなったと思ってたが、ぜんぜん更生してなかったようだな」 男を ぎゅーっと押さえつけたまま、ビケットが低い声で 静かに言いました。

 「うっせえな。 いつもいつも邪魔ばっかしてきやがって。 このお礼は、あとでまとめて返してやるからな」 ビケットを 真っ直ぐに睨みつけながら、同じく低い声で言い返す バタンキュラー。

 「お返しなんかよりも、女子たちを逃がしてあげる方が 先じゃないのか?」 ビケットも 男の緑色の目を 真っ直ぐに見て、たしなめました。


 彩野たちを襲おうとした男の 子分と思われる二人のバタンキュラーが、コンビニの駐車スペースの出口の所に突っ立って、心配そうにこちらを眺めています。 ブーメランを拾ったあの夜、初めてバタンキュラーと鉢合わせた時は、あんなに乱暴に チームビケットに襲いかかってきたくせに、今日は様子が違います。


 でも女の子たちは そんな変化に気づくどころではありません。 ビケットのお説教で このノッポの男が腹を立てて、暴れ出したらどうしよう? それがもう怖くて、怖くて、震えながら バタンキュラーと ビケットのやりとりを見ているのが 精一杯でした。


 それから少しの間 睨み合いが続いて、

 「しょうがねえ。 今日は これくらいにしてやるぜ。 次こそは、たっぷり礼をさせてもらうから。 知らんぷりは させねえからな」

 ノッポの男は観念したのか、負け惜しみを口にしました。

 ビケットは 静かに頷いて、男から手を離しました。

 「やい、なんで助けに来なかったんだ。 そんなビビりで、アンバランの国が収められると 思ってるのか、ばかやろう❗️ この後、アジトに戻って 反省会だ‼️」

 男は、ハスキーボイスで 子分どもに怒りをぶつけると、さっさと皆で お寺と反対の方へと 去っていきました。


 「二人とも大丈夫だったかな?」

 優しく笑いかけた ビケットの深緑の目と、女の子たちの黒い瞳とが、ピッタリ合いました。

 「はい。 どうもありがとうございました」

 立ち上がって、彩野は 丁寧にお辞儀をしました。 それから、

 「ほら、ひろみちゃん」

 ぼうっと ビケットの顔を見ているひろみを、ちょんちょん 突っつきました。

 ひろみは、不思議そうに黙ったまま 助けてくれたビケットを 顔に穴が開くほど眺めていましたが、突然 はっとして、

 「徹(とおる)、ねえ 助けに来てくれたの⁉️」

 目を輝かせて、白い手袋を嵌めた ビケットの右手を、ぎゅーっと両手で掴みました。

 〜つづく〜

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友誼(ゆうぎ)戦隊 ファンキー・ビケット ⭐白い羽の戦士たちと 黒い羽のヤンキー王子⭐ 城ヶ崎桃香(じょうがさき ももか) @4885eltsac-pinpon

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