第22章 心変わり

 次の日の昼休みの事。 大急ぎで大盛りカレーをやっつけて、学校の食堂から 紀矢(のりや)が出てきました。

 「ああ 食った、食ったー❗️ 秤高(びんこう 天秤高校の事)のカレーは、やっぱ最高だなあ」

 なーんて、まあるいお腹を揺すりながら向かっているのは、自分の1bの教室ではなく、正門のそばの銀杏の木の所。

 「おうい 石井くーん、待たせちゃってごめん、ごめん❗️」

 大銀杏に寄りかかって 食堂の建物の方を眺めていると、まもなくノッポの少年と 小柄な少年が こちらへ駆けてくるのが見えました。 このあいだの男子会で 紀矢と一緒に盛り上がった、a組の山川君と c組の伊藤君です。

 「でえじょぶ、でえじょぶ❗️ おいらも 来たばかりだからよ」 そう笑顔で二人に向かって 大きく右手を振る紀矢。


 実は、男子会当日 自分が抜けた後の詳しい様子が知りたくて、二人に 昼食後 ここにきてくれるよう、頼んでいたのです。


 「昼飯 食ったべえなのに、走らせちまって悪かったな。 そんで ちょっと聞きてえんだけどよ、おいら カラオケ 途中で帰っちまっただろ? あの後食った物にあたって 徹(とおる)が倒れたって聞いたけど、そん時のあいつの様子、詳しく教えちゃくれねえかな?」

 二人が到着するなり、紀矢は早速 話を切り出しました。

 「あの後は 俺と伊藤君で デュオを歌って、平田君にマイクを回そうとしたら、『ごめん、先に スピカ君に歌っててもらえないかな。 すぐ戻ってくるから』って、急にいなくなっちゃってさ。 冷たい飲み物を飲んで おトイレが近くなったのかと思ったから、最初は 気にしてなかったんだけどさ、スピカ君の歌が終わっても なかなか戻ってこなかったんだよな」

 山川君が答えると、続いて 隣の伊藤君が

 「そうなんだよ。 平田君は 真面目だから みんなに黙って帰っちゃわないと思うし、何かあったんじゃないかなって心配になったから、僕が お手洗いに行きながら探しに行ったら、途中のロビーに、彼が倒れて 動けなくなってたんだよ」

 「そうだったのか。 じゃあ 徹は、おまえさんたちと一緒だった時には 具合が悪そうではなかったわけか。 ・・・あ、それで ちなみになんだけど、あいつが席を外す直前に 何を食ってたか、覚えてねえかな?」

 さらに詳しい徹の様子を 尋ねる紀矢。

「うーん、たしか平田君は、俺と同じ 柿の種と ジャンボチョコドーナツをデリバリーしてもらって、うまそうに食ってた」

 「そうそう。 あんな細い体なのに でかいドーナツ 三つも食べて、すげえなって思ったよ」

 山川君も、伊藤君も、とても親切に 聞き取りに協力してくれました。 そこで紀矢は、二人に 一番気になっていたあの事について 尋ねてみました。

 「そうか。 同じ物を食った山川君が でえじょうぶだったって事は、柿の種にも ドーナツにも異常は無かったって事だよな。 なあ、その他に 何か別のおやつを 食ってなかったか? 例えば、スピカ君からもらったキャンディーとかよ」


 「えっ、キャンディーだって⁉️」 

山川君たちの声が ぴったりハモりました。


 その時です。

 ピッピー❗️

 どこかで、甲高いホイスルの音が聞こえました。 山川くんと 伊藤くんは、ぴくっと驚いて 顔を見合わせました。

 紀矢には、急に二人の表情が 険しくなったように感じられました。


 「何それ、キャンディーって?」と、山川君。

 「ほら、だからよ、スピカ君が いつもみんなにあげてる のど飴だよ」

 そう紀矢が説明すると、二人は 再び顔を見合わせて、何かをひそひそ。

 「スピカ君は、のど飴なんか 学校に持ってきてないよ。 お菓子を持ち込まない事って、校則で決まってるじゃんか」

 山川君が(この人、何言ってるのさ?)という目で、紀矢に言いました。 こんな冷たい目の彼を見たのは、初めて。

 「そののど飴って、たぶんスピカ君が 歌で盛り上げてくれたお礼に、石井君に 特別にくれたんだよ。 それは そうと、石井君、平田君が心配なのは うちらも同じだけど、カラオケの日の話は、あまりしない方がいいと思うよ」

 いつもは 滅多に厳しい事を言わない 伊藤君も、突然態度が冷たくなりました。

 「ちょっと、ちょっと何だよ? カラオケの話は するなってさ。 今まで さんざ話してくれてたじゃねえかよ」 そう紀矢が食い下がると、

 「わりいな。 あの時 キャンディーをもらえなかったのを 僻んでるんじゃなくて、うちら 担任とか、お巡りさんとか、保健所とか、いろいろな大人から 何度もカラオケの日の様子を訊かれてさ、もうウンザリなんだよな」

 山川君が答えると、伊藤君が

 「ねえ石井君、もうそうやって 警察で原因を調べてくれてるんだから、余計な事に首を突っ込んで 邪魔しない方がいいよ。 特に、スピカ君にキャンディーもらった どうのこうのってのも、黙ってる方がいい。 うちらも忘れたから、いいね?」

 そう言って、自分の口に 人差し指を当てて、「シイーッ❗️」のジェスチャーをしました。

 「ああ、わかったよ。 これからは、もうこの話はしねえ。 最後にこれだけ教えてくれ。 徹が食ったのは、最初に乾杯したコーラと、柿の種と、ジャンボドーナツだけだったんだよな?」

 そこが一番肝心な所。 どうしても 確かめずにはいられません。

 でも こちらの問いかけが きちんと終わらないうちに、

 「やべえ、もうすぐ五時間目だ」

 「うちのクラス、次 体育だ。 じゃあね」

 山川君たちは、逃げるように 校舎の方へと 駆けていってしまいました。

 「ちぇっ、なんだよ。 キャンディーもらったのも言うなって、どうしてだよ? スピカのやつ、男子会メンバー意外にも 人前で いっぺえ配ってんじゃねえかよ」

 とぼとぼ校舎に向かって歩き出した 紀矢。 ふと、正面玄関の真上の時計塔に 目をやると、あらら? 昼休み、まだ20分も残っています。

 (くっそー、あいつら逃げやがったな。 もしかして もしかすっと、スピカに 例のキャンディーの事、口止めされてんのか?)

謎は、深まるばかり。

 もともと勉強よりも 食べ物の事の方が大事な紀矢だけど、その日の午後の授業は、全く耳に入りませんでした。

 〜つづく〜


 「ファンキー・ビケット」次回のお話は?

 加藤先生 こと アンタレスです。

 それにしても1aの山川君と、1cの伊藤君のあの態度は、何なのだろう? 私には、何かを企んでいるスピカに 加勢しているように思えてならぬ。


 ところで、その頃から バタンキュラーの動きが 再び活発になり始めた。 我が校の生徒の中にも、被害者が⁉️


 第23章 乙女のピンチ

 君たちは、これから日本を そして世界をかき乱す嵐の前兆の 貴重な目撃者となる‼️

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