夢見た銀河は赤黒く

レイノルズ

第1話  地面で割れる

深夜の歪なネオン街に、雨は降る。

僕は黒い傘を握りしめ、情報チームから指定された場所まで歩いてた。


足取りはあまり軽くはない。

今回のターゲットが未成年であることを気の毒に思ったからだ。

僕と同い年である。


今回の仕事は違法薬物ー天使の血を使用した青年の処罰だ。


天使の血は最近、若者を中心に流行っている液体状の薬物ドラッグだ。

摂取した人物は形容のしがたい多幸感を味わうことができるらしい。


しかし、その代償は実に大きい。

摂取した人の体の組成を大きく変化させ、異形の存在へと至らしめるのだ。


原料、だれが作り始めたのか、だれが売りだしているのか、現段階では情報が少なすぎてまったくわかっていない。


組織はこの異形の存在を『悪魔』と呼称し、撲滅を目標に活動をしている。


そんな組織に所属する僕も、今まで何人かの人物をこの手で処罰している。


全員が悲惨な結末だ。

そう、例外なんてない。


赤黒い血潮が途切れるあの瞬間、彼らは何を思ったのだろうか。


僕は足を止める。

これといって、深い意味はないが。


雨の激しさが一段と強くなる。

あちらこちらに捨てられたエナジードリンクや酒、煙草、使い捨てのリキットにも無条件に等しく雨は降り募る。

紫のネオンは水たまりに反射して、より一層あたりを照らす。


もし環境が違えば、このターゲットの青年も普通に暮らしていたのかもしれない。

道を踏み外すことなど、しなかっただろうに。


傘を傾け、頭上の暗雲を見上げる。

光なんかはこれっぽっちもなく、ただ雨がザーザーと降るのみである。


「金で買える幸せ、か。」


そう、ぽつりとつぶやく。


服が濡れていくのを感じつつも、僕はじっと、上をじっと見る。

そのせいか、まばゆすぎる紫のネオンが僕の目を一瞬、ぼやけさせた。


くだらない。

いままでの気持ちを一蹴する。


もし町の雰囲気が人の心を鏡のように映し出すとすれば、この町の住人は人間ではないだろう。サル以下である。


金、暴力、享楽。

この三つの言葉で町の説明は事足りるのだ。


この町は、腐っている。

人の心も、町の雰囲気も、根本的に。


快楽の奴隷に成り下がる奴らが僕は一番、嫌いだ。


サルに情けをかける必要などないのだ。無意味だ。

同じ動物のくくりに入ろうと、その感情を分かち合うことはないのだから。


ふっと息を整え、僕は歩き出す。

足取りは先ほどよりもほんのりと軽くなる。


すべては平穏のため、コードネーム「葬儀屋」の名のもとに。

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