ファック系勇者勇者

@Octpath

第1話 召喚!ファックマン!

召喚の魔、王城の魔法陣が光る。

魔法陣の中心に立つのは、この国、ファッキンガム王国の王女ロクナレアだ。

彼女は長い金髪を後ろでまとめ、切れ長の目をした美しい女性だ。

しかし今はその切れ長の目が見開かれており、唇もわなわな震えている。

「な、な」

そして非常に驚いているようだった。

無理もないだろう。

召喚されたのがあまりにも平凡な男だったのだから。

その男からは覇気を感じない。

英雄特有のオーラもない。

ロクナレアは幼いときに一度、召喚の現場に立ち会ったことがあった。

それはずっと昔の話だが、鮮明に記憶に残っている出来事だった。

だからそれを実際にこの目で見た時は舞い上がったものだった。

しかし今はどうだ? 目の前に立っている男は平凡そのもので、とても勇者のようには見えない。


「……」


ロクナレアは男を警戒した目で見つめる。。

男の方も、そんなロクナレアを訝しげに見つめていた。

そして二人の間で沈黙が流れる。

やがてその沈黙に耐えきれなくなったロクナレアが声を上げる。

「あ、あなた! 職業は!?」

「はい」


男は答えにくそうに自分の職業を口にする。


「……ファックマンです」


「は?」


「ファックマン」


男は二度言った。

この男の職業は『勇者』でも『騎士』でもなかった。

『ファックマン』だ。

あるかどうかすら怪しい職業だ。


ロクナレアは考える。


この男は何者なのだろうか?


『ファックマン』


聞いたことがない。

伝説の職業なのか。

いや、仮に伝説だとしても目の前の男は平凡すぎるではないか!


きっと見習い騎士にも負けるだろう。



ロクナレアは自分の目を疑っていた。


「えっと、ファックマン……さん?」


ロクナレアは男の名を呼んだ。

しかし男の表情は変わらない。

彼は無表情だった。


「……マツダです」


「え」


「……私の名は、マツダです」


男の名はマツダであるようだ。

ロクナレアは困った。

目の前の相手はどうみても凡人にしか思えない。

名前からして凡人だ。

勇者召喚の儀式で、何かの手違いで凡人を呼んでしまったとしか思えない。

ロクナレアは慎重に言葉を選んだ。


「マツダさん」


「はい」


「……あなたは私の召喚に応じてくれたのですね?」


「そうです」


「……では、あなたはこの世界を救えるのですよね?」


「はい、そのつもりです」


「本当ですか?」


「はい」


ロクナレアは確認するように質問を続ける。

しかしマツダの様子は変わらない。

いや、少し面倒くさそうにしている気もする。


(……この男を本当に勇者として扱っていいのだろうか?)


ロクナレアは目の前の平凡な男を見つめながら考える。


(ファックマンなんて聞いたこともない職業だ)


ロクナレアは頭を悩ませる。

そもそも勇者召喚の儀式が成功したかどうかも怪しいものだ。

ロクナレアの額に汗がにじむ。

勇者召喚の儀式には巨万の富が投じられている。

失敗は許されない。

しかし、儀式の都合上、彼女は一人だった。

今、この場に信頼のおける家臣はいない。


(……とにかくこの男と話してみてからだ)


ロクナレアは深呼吸した。

そして落ち着いて、冷静に目の前の男に対応することを心掛ける。


(まずはこの男に事情を説明するんだ)


そう決めて、ロクナレアは口を開いた。


「えっと、マツダさん」


「……はい」


「私はロクナレア・ファッキンガム。この国の王女です」


「存じ上げております」


「……そうですか」


ロクナレアは説明を続けることにした。


「私はこの国を……いえ、この世界を救いたくて勇者召喚の儀を行いました」


「……」


マツダは無表情でロクナレアを見つめている。

そんなマツダに構わず、彼女は続けた。


「……その結果、勇者様として、あなたを呼んでしまったようです」


「はい」


(反応が薄い!)


ロクナレアは戸惑っていた。

目の前のマツダという人物はあまりにも反応が乏しい。

彼女は不安になる。


(本当に大丈夫なのか?)


そんな思いが胸に浮かんでくる。

しかし、今更やめるわけにはいかない。


(この男は勇者召喚によって現れたのだ)


ロクナレアは考える。


(ならばやるしかないのだ!)


そして決意を新たにする。


(なんとしてもこの勇者と共に魔王を倒さなければならない!)


ロクナレアは意を決したように、目の前にいるマツダを見つめた。


「魔王討伐成功の暁には、勇者様にはすべてを捧げます」


「そうですか」


「ですから、勇者様! どうかこの国を、この世界をお救いください!」


「はい」


マツダは相変わらず無表情だ。

ロクナレアはそんな彼の態度を訝しげに思いながらも話を続ける。


(この男が本当に勇者なら、きっと応えてくれるはずだ)


ロクナレアはそう思った。


(その素質があるからこそ、異世界から呼ばれたのだから!)


そんなことを考えていると、突然大きな音がした。

パンッという音だ。

それは手拍子の音だった。

ロクナレアは驚いて、音がした方に顔を向けた。

音の主はマツダだった。

彼は無表情のまま、両手を合わせている。


(……拍手?)


ロクナレアはその意図を測りかねる。


(……なぜ今、手拍子をしたんだ?)


彼女は混乱した。

そんなロクナレアに構わず、マツダはリズムを刻みだす。

パンパンパンパンパン!


(これに意図が……?)


ロクナレアは、マツダの行動の意図がわからなかった。


(よくわからないけど、ここは素直に応えよう)


そう考えて、ロクナレアも拍手をする。


パンパンパンパン!


(なんだか変な気分だ)


拍手の共鳴がここになる。

すると、マツダは初めて表情を崩した。

驚いたように口を開け、にやりと顔を歪めた。


「合意完了」


「は?」


ロクナレアは疑問の声を上げる。

マツダはそれに構わず、服を脱いだ。

逞しいマツダのマツダシックスパック筋が露になる。


「あ、あなたは何を!?」


鉄面皮のロクナレアもこれには混乱を隠せない。

マツダは謎のポーズをしている。

見る者が見れば、それは三角筋をアピールするためのポーズだとわかる。


「アイ、アム、ファックマン!!」


マツダは掛け声とともに浮かび上がり、磔にされた人間のようなポーズを取った。

ロクナレアは目が点になる。


(一体、これはどういうこと!?)


「本当になんですか!?」


彼女は疑問をそのまま口にする。

しかしマツダは何も答えなかった。

やがて彼の肉体が輝きだした。


「融合の時だ」


「こ、これは……!」


ロクナレアは驚愕する。


(気持ちいい?!)


全身から快感が押し寄せる。

ロクナレアは快感に抗いきれず、地面に倒れてしまった。

息を荒く吐く。


そして不思議なことが起こった。


(え!?)


突然、目の前のマツダの体に変化が起きた。

マツダの体が大きくなってゆくのだ。


(ほ、本当になんなの!?)


目の前の光景にロクナレアは驚愕する。

彼女は今起こっていることが信じられなかった。


(これがファックマンの力なの?)


そんな考えが浮かぶ。

マツダの体はさらに膨張し、ついには城の天井を突き破るほどの大きさになった。


「わー!」


ロクナレアは驚愕のあまり声を出すことしかできない。

そんな彼女に構うことなく、巨大なマツダが王城の上空に現れた。


(あの大きさはまさしく魔王クラス!)


ロクナレアは驚愕に目を見開いた。


(これがファックマンの真の力なの?!)


彼女はそう思った。

しかし、その考えはすぐに否定された。

巨大なマツダが突然、大きな声を出したのだ。


「私はまだ、3つの変身形態を残している!!」


すると城の周りに集まっていた国民が騒ぎ出した。

「なんだ!?」「魔物か!」「城の上に何かいるぞ!」「大きいぞ!!」

そんな声があちこちから聞こえた。

ロクナレアもその一人だった。


(こ、これはいったいどういうことなの!?)


彼女は困惑する。

その困惑は混乱へと変わる。


「勇者様! これはどういうことですか!?」


そんな彼女の疑問に答えるかのように、マツダが口を開く。


「さあ、ファック遂行。やるか」


そう言うと、巨大なマツダはものすごい勢いで空を飛んでいった。

ロクナレアの城に空いた大穴からだ。


(な、なんだったんだ今のは……)


彼女は呆然としながら思った。

巨大なマツダの姿はもう見えない。

彼女はしばらくその場に立ち尽くした。

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