第35話 見慣れないメンツ
駆け足で階段を降りていく。
いや、幽霊とか信じてはないけど、急激に今すぐ帰りたくなったんだよな。ほんとほんと。
一気に自分の教室に向かう。さっさと鞄を取って帰ってしまおう。これは家帰ってからも風呂場とかで怖くなるやつだ。今日は鏡見れないな。いや、幽霊なんていないんだけどね。
今日は寄り道せずにまっすぐ帰ってすぐ寝ようと思いながら教室のドアを開けると、見慣れた顔ぶれだが見慣れないメンツが見えた。
「何してんの?」
俺の言葉に、三人──涼夏、知己、智がこちらを見た。何だか珍しいメンバーである。
「あ、彰。用事は終わったの?」
「まあ一応? それより何してんの」
「別に何でもないわ」
俺が来たことにより会話が打ち切られたのか、涼夏が席から立つ。あれ、俺が来たから会話打ち切った? 俺お邪魔無視だったか?
いや、けど今はそんなこと気にしてる場合ではなかった。俺は間抜けづらでこっちを見ている知己と智に手招きをする。
「知己と智、ちょっと来てくれ」
「なんかあったの?」
「さっき話してたことについてだよ。じゃ、涼夏またな」
「……ええ、また来週」
なぜか不満げな顔で教室を出ていく涼夏。何だか最近の彼女はよくわからない。
そんな俺たちを不審に思ったのか、智は椅子を戻しながら。
「喧嘩でもしてんのか?」
と聞いてきた。知己も「ちょっと変だよね」と同調する。
しかし、喧嘩と言われてもなあ。
「何もしてないぞ。マジで」
「そうなんだ……」
「てか、あの三人で何してたんだ?」
「ま、二宮さんからの相談を受けてたんだよ」
「お前らが?」
「おう、お前より信頼されてるからな」
「どんな相談なんだよ。どうやったらそんなキモい顔で生き続けられるんですかとかか?」
「一生付き纏ってくるキモいストーカーの対処の仕方だよ」
「「ガハハ!!」」
普通に傷ついたけど?
見ると智も傷ついてそうだった。ならよかった。よくはない。
「ほんとちょっとした相談だよ。別に何でもないって」
知己の言葉に、それ以上何も言えなくなってしまう。
気になるが、首を突っ込みすぎるとちょっと気持ち悪がられてしまうかもしれない。俺は加減というものを覚えたのだ。
「それより、話って何なの?」
「ああ、それな。さっき言ってた夜の校内探索、やめといた方がよさそうだぞ」
「二人だから別にするつもりもなかったが……なんでだ?」
「特に理由はないし幽霊なんかこの世に存在はしないが、まあやめといた方がいいな。俺はやめとく。誓って幽霊なんてこの世にはいないけどな」
「ビビりすぎだろ」
ビビってないが?
ちょっと警戒しているだけだが?
「なんかあったの? さっきの用事はそれ絡みのこと?」
「まあそうとも言えるな」
「何があってそんなビビってるんだよ」
ビビって(以下略)
「実はさ、今屋上に行ったんだが、それらしき物体を見ちゃったんだよ」
「え、前生徒会長の幽霊?」
「本人は幽霊じゃないって言ってたけど」
「幽霊が幽霊でーすって言うわけないだろ」
「じゃあ幽霊は人間でーすって言うのか?」
「言うだろ」
「誰が決めたんだよ」
「俺」
くだらないことを言う智の尻を蹴っ飛ばす。
知己はどうやら半信半疑のようで、胡散臭そうな瞳をこちらに向けていた。
「本当にいたの? 僕たちを驚かせようとしてるだけじゃない?」
「アホか、そんなしょうもないこと俺がすると思うか?」
「するだろ」
「するでしょ」
「するわ」
するわ。
いや、自分で認めてどうするんだ。
「いや、いつもはするけど、今回は本当なんだって。マジマジ、マジ寄りのマジ。行くのはやめといた方がいいって」
「しかしまあ、実際行くとしても、期末が終わってからだな」
「だね。夏休みに入る前にしてみたいよね。夜の学校なんてドキドキするな」
やばい、こいつら俺の忠告全く聞いてないぞ。ていうか俺はさっき断っただろ。
「おい、俺は行かんぞ。ていうか生徒会の手伝いしてるから行けん」
「生徒会役員っていつまでやるの?」
「まさか卒業までってことはないだろ」
「それはないだろうけど……とりあえずしばらくは続きそうなんだよ」
「めんどくさいね」
ため息をつく知己。はっきり言うやつである。
「まあ、新しい生徒会役員を見つける旅してるから、見つかったら終わりなんかな?」
「しょうがないから俺がなってやろうか?」
「責任感が強くて、放課後時間があって、作業がある程度できて、二足歩行で、きちんと会話ができる人だったら誰でもいいらしいぞ」
「俺にぴったりじゃん」
「放課後時間があるくらいしか当てはまらないだろ」
「二足歩行も当てはまってるだろ」
「今日は二足歩行か、珍しいな」
「ときどき立って歩くレッサーパンダじゃねえんだぞ」
「智が動物園にいても人気でなさそう」
軽いノリで結構残酷なことを言う知己。見ると智は普通に傷ついてそうだった。ざまあみろ。
閑話休題。
「まあ、肝試しなんかよりもまずは期末だな。あれを乗り越えなければ何もできないし」
「だよなあ……あー勉強したくねえ」
勉強はしたくないがそんなことも言ってられない。別にここは進学校というわけではないが、俺の学力からすればじゅうぶんにレベルが高い高校ではあるのだ。勉強しないと普通についていけない。それは智もそうなのだろう(知己は案外勉強ができるタイプなのだ。羨ましい)。
「今日はどっか寄って帰るか?」
「今勉強しなきゃって言ったばっかだろ。まっすぐ帰るわ」
「あ、そうだ、彰」
鞄を持って教室を後にしようとしたが、ドアを出る前に知己に呼び止められた。
「なに?」
「まあ多分言う必要はないんだけど……二宮さんと仲良くしなよ」
「さっきから喧嘩だのなんだの、どしたん?」
「いやまあ、一応ね? もしかしたらお互いの考えてることや気持ちが通じてないこともあるかもしれないし」
知己は一体何の話をしているのだろうか。俺と凉夏の気持ちが通じてない?
幼馴染とはいえ別々の人間なので、それはまあ凉夏が考えていること全てを俺がきちんと理解しているわけではないが、ある程度は気持ちというか考えは通じ合っているとは思っているんだけどな。
もしかしたら凉夏はそう思っていないのかもしれない。
「まあ、よくわからんけどそうしとくわ」
「うん、じゃあまた来週。期末終わったら学校に忍び込もうね」
「やらんゆーてるのに」
教室のドアを開けて廊下に出る。すると、ドアのすぐ横に涼夏が立っていた。
「うおっ」
「なんでそんな驚いてるのよ」
「いや、出てすぐ人がいたら驚くだろ」
「……帰りましょ」
「お、おう」
なんだかすごく気恥ずかしい。知己や智に見られると悶えてしまいそうなのですぐにドアを閉める。
二人並んで廊下を歩いていく。誰もいない廊下はどこか退廃的だった。
あれ、もしかして俺を待っててくれたのか?
涼夏にそう尋ねてみたいが、違うと言われた時の虚しさのことを考慮して何も言わないことにした。
「そういえば、さっき教室の中から話してる声が聞こえたんだけど」
「そんな声でかかった?」
「うん、結構。ごめんなさい、盗み聞きをするつもりはなかったんだけど……」
「いや、いいだろ。別に大した話もしてなかったし」
穏やかな空気が俺たちの間に流れていた。こんな時間がずっと続けばいいのに。
ふと、涼夏が立ち止まって俺を見た。
「それで、学校に忍び込むってなんの話?」
「…………」
それからの帰り道は、ひたすらに俺が極悪人二人に巻き込まれそうになっている被害者であり、またそのとんでもなく非道な計画をどのように止めるのかを説明するための説明の時間に割かなければならなかった。
穏やかな時間は続かないもんだね。
【悲報】10年間ツンデレだと思っていた幼馴染に本当に嫌われていた じゅそ@島流しの民 @nagasima-tami
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