サトウの事件から一週間経った頃。

 私の元にサトウの名前で宅配便が届いた。

 届いた小包の中には手紙が一通。わざわざ小包にしたのは日付指定をしたかったと、いつもの時候の挨拶から始まった手紙に綴られていた。

 手紙はサトウの気持ちが様々記されていた。

 

 長年自分の正しさについて考えてきたこと。それも私と出会う小学生の頃よりも以前から。

 団体の代表を引き受けたのも、そもそも団体の立ち上げを許可したのも、人が集まればその中から誰かから答えを得られるかもしれない。その考えがあったこと。

 答えの出なければもういいと思っていたこと…自分がおかしいのはずっと自覚していたから、もういいと思ってしまったと。

 そしていつかの手紙へ絶対に団体の勧誘を断るよう、書いていた理由も記されていた。

 

 私がサトウの在り方を決して否定しなかった。かつサトウに流されるでもなく。

 サトウの問いに対して「何故だろうね」と返してはいたが、まるで興味がない回答ではなかったこと。これらの反応がそれまでのサトウの周りにはいなかった。あのクラス替えと高校卒業時のやり取りがなければ、サトウはもっと早くに何かをしようとしていたと。

 私がサトウの周りにいなかった貴重な人間であったから、手紙のやり取りをずっと続けたし、団体には巻きこまれてほしくなかったと。

(余談だがメールと電話をしなかったのは、単にサトウの性格的に向かなかったらしい。)

 巻きこまれて、もしも私が変わることがあれば、それこそサトウには耐えられなかったと。

 

 「君は私の在り方を見て、私がどうなるかを見るのが昔から好きだったのを知っている。私がいなければ多分君の性質はずれることはないはず」

 「自分からのこれまでの手紙と、この手紙はどうか捨ててほしい。見つかったら君は警察に連れていかれてしまう」

 「そしてこれが私から君への最後の言葉」

 「どうかこれからも息災で」

 最後に私を気遣う一文で手紙は締められていた。

 手紙をそっとファイルへ収納し、私は声を上げて笑った。

 

 ああ。ばれていた。

 そうだ。私はサトウが好きだった。

 サトウの在り方を見るのが。その先がどうなるのかを見るのが好きだった。遅かれ早かれ、サトウは何かをするのではないかとあのクラス替えの時に見て、感じたその時から。

 私はサトウを好きだったのだ。

 

 特別言葉にしたことはなかったのに、サトウは私のこの癖に気づき、それでもずっと文通をしてくれて、団体の勧誘を止めるくらいの位置に置いてくれていたのか。

 私の在り方も正しさの一つと、きっとサトウはそれくらいの気持ちでいたのだと思うと、声を出して笑うしかなかった。

 そうして、ひとしきり笑ったあと。

 携帯の電話帳から、高校同級生の番号を見つけて私は電話をかけた。

 「あ、もしもし。久しぶり。そうそう、サトウのことは…うん…」

 「ところでさ」

 「サトウって、本当に狂ってたのかな」

 

 電話の向こうの同級生へ、私はこう尋ねた。

 理由はただ一つ。

 最後の手紙でサトウが指摘した私の性質がゆえに。サトウの先をどうしても知りたくなってしまったがゆえに。私自身の興味を満たしたい、ただそれだけのために。あの事件みたいにならないように考えながら、私は同級生に問いかける。

 サトウが諦めた問いの答えを見つけるのが、しばらく私の人生の目標となりそうだ。

 

 答えが見えた時、私は一体どうなるのか。どうなってしまうのか。

 いつかの未来を楽しみにしながら。

                                   〈終〉

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『カイトウ』 いちじょうこうや @gekkan_info

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