六
サトウの事件から一週間経った頃。
私の元にサトウの名前で宅配便が届いた。
届いた小包の中には手紙が一通。わざわざ小包にしたのは日付指定をしたかったと、いつもの時候の挨拶から始まった手紙に綴られていた。
手紙はサトウの気持ちが様々記されていた。
長年自分の正しさについて考えてきたこと。それも私と出会う小学生の頃よりも以前から。
団体の代表を引き受けたのも、そもそも団体の立ち上げを許可したのも、人が集まればその中から誰かから答えを得られるかもしれない。その考えがあったこと。
答えの出なければもういいと思っていたこと…自分がおかしいのはずっと自覚していたから、もういいと思ってしまったと。
そしていつかの手紙へ絶対に団体の勧誘を断るよう、書いていた理由も記されていた。
私がサトウの在り方を決して否定しなかった。かつサトウに流されるでもなく。
サトウの問いに対して「何故だろうね」と返してはいたが、まるで興味がない回答ではなかったこと。これらの反応がそれまでのサトウの周りにはいなかった。あのクラス替えと高校卒業時のやり取りがなければ、サトウはもっと早くに何かをしようとしていたと。
私がサトウの周りにいなかった貴重な人間であったから、手紙のやり取りをずっと続けたし、団体には巻きこまれてほしくなかったと。
(余談だがメールと電話をしなかったのは、単にサトウの性格的に向かなかったらしい。)
巻きこまれて、もしも私が変わることがあれば、それこそサトウには耐えられなかったと。
「君は私の在り方を見て、私がどうなるかを見るのが昔から好きだったのを知っている。私がいなければ多分君の性質はずれることはないはず」
「自分からのこれまでの手紙と、この手紙はどうか捨ててほしい。見つかったら君は警察に連れていかれてしまう」
「そしてこれが私から君への最後の言葉」
「どうかこれからも息災で」
最後に私を気遣う一文で手紙は締められていた。
手紙をそっとファイルへ収納し、私は声を上げて笑った。
ああ。ばれていた。
そうだ。私はサトウが好きだった。
サトウの在り方を見るのが。その先がどうなるのかを見るのが好きだった。遅かれ早かれ、サトウは何かをするのではないかとあのクラス替えの時に見て、感じたその時から。
私はサトウを好きだったのだ。
特別言葉にしたことはなかったのに、サトウは私のこの癖に気づき、それでもずっと文通をしてくれて、団体の勧誘を止めるくらいの位置に置いてくれていたのか。
私の在り方も正しさの一つと、きっとサトウはそれくらいの気持ちでいたのだと思うと、声を出して笑うしかなかった。
そうして、ひとしきり笑ったあと。
携帯の電話帳から、高校同級生の番号を見つけて私は電話をかけた。
「あ、もしもし。久しぶり。そうそう、サトウのことは…うん…」
「ところでさ」
「サトウって、本当に狂ってたのかな」
電話の向こうの同級生へ、私はこう尋ねた。
理由はただ一つ。
最後の手紙でサトウが指摘した私の性質がゆえに。サトウの先をどうしても知りたくなってしまったがゆえに。私自身の興味を満たしたい、ただそれだけのために。あの事件みたいにならないように考えながら、私は同級生に問いかける。
サトウが諦めた問いの答えを見つけるのが、しばらく私の人生の目標となりそうだ。
答えが見えた時、私は一体どうなるのか。どうなってしまうのか。
いつかの未来を楽しみにしながら。
〈終〉
『カイトウ』 いちじょうこうや @gekkan_info
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