五
問いの回答を出す、とあった手紙から数日後。気候も穏やかな晴れた日の昼下がりであった。
その団体本部にて、サトウは幹部を中心に人を集めて問うた。
「あなた方がずっとここの代表に据えている私は、本当に正しいのでしょうか」
「私が正しいのであれば、その保証はあなた方ができるのでしょうか」
「私は私自身の正しさをこれまでずっと問うて、いまだに問うて問うて。問うて。何の保証もできないのに」
「仮にあなた方が私の正しさを保証してくれるのであれば、そのあなた方の正しさは一体何が。誰が。何を理由に保証してくれるのでしょうか」
「まだ正しさを見つけられていない私のような人間を代表として、ついてきている、あなた方が保証できるのでしょうか」
「私の中に正しさを見出したからこそ、あなた方は異論なく異議なく、迷いなく、ついてきたのでしょう?」
「私の正しさとは。一体何なのでしょうか」
言葉を浴びせるように。畳みかけるように。団体本部に集めた人間へ問い質したらしい。
元々サトウの選挙演説で酔心したような人々であること。人々を問い詰めるように。それなのに天気や世間話をするような明るさで。延々と同じ言葉を、問いを繰り返されたことに精神が耐えられなくなった人たちが出たらしい。
信じていた物事を根底から崩され、自分の考えを否定されたような。サトウを盲信していた人ほど詰められるようなその問いに耐え切れず、俗に言う“狂った”状態になってしまったのだろう。
本部施設のものを使用して設備を破壊、中にいた他の人間を殺害。そんな錯乱した状態の人間でも信じていた代表へ手を出すことはできなかったらしい。
まさに混乱としか表せないその状態を見て、サトウは服毒して自死をした。
残された正気の人々は物陰などに隠れ警察を待ち、耐え切れなかった人々の一部は自死を。一部は駆け付けた警察により確保された。この事件のニュースを見た私は先日届いた手紙の一文の意味に気がついた。
そして悟った。
サトウの自死は、団体の人々へ投げても問いに対する答えが。望むような答えが得られなかったことに対しての諦めと、絶望と悲しみだったと。
報道番組にてサトウは狂っていて、その狂気が団体に広がった果ての事件とする意見が多数であった。確かにサトウは狂っていたと言われても仕方がないだろう。
自分一人の中で押さえていれば“変わり者”であったのに、第三者に害が及んでしまえばそれが狂気とされてしまうのは当然である。
それだけのことをした。
おそらくサトウが誰も傷つけず、あの性質を何らかの形で活かしていれば、生まれ持った好奇心と探求心に引きずられすぎなければ、いまでもあの団体は人畜無害のものとして続いて、今でも代表のままであっただろう。世間から少し変わった団体、その代表をする変わり者とされただけだったろう。
自身の行動原理でもあったどうしようもないあの性質が第三者を巻き込み、害してしまった瞬間にサトウは狂った人間、狂人となってしまった。
サトウは狂っていたのかもしれない。
何かに取り憑かれたように“正しさ”を求め続けたために。
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