四
サトウが落選した選挙から数か月後のある日。
いつものように季節の便りが届いた。お互い地元にいるにも関わらず、大学時代からの文通はいまだ途切れることなく続いていた。メールや電話は全くしないのだから、私たちには手紙というツールが肌に合っていたのだろう。私は仕事、サトウは選挙前後でどうにも時間が取れず、高校卒業以来、ちゃんと話すこともまだなかった。
演説を聞きに言ってはいたから、そこで話せば良かったのだろうが。それはサトウの妨げになるような気がしたのだ。
手紙はこれまでの通り時候の挨拶から始まり、選挙に出たこと。準備が大変であったこと。政治は自分の肌に合わないことを学んだといった感想の後、次のようなことが綴られていた。
曰く。
選挙で賛同した一人がサトウを代表にした、とある団体を立ち上げたということであった。
その団体は宗教団体とは異なるが“世の中を問う”、“世の中の正しさについて”を考える団体らしい。
あまり表立って何かをするタイプではなかったサトウの学生時代を見ていた私としては、珍しいというのが知らせを見た一番の感想であった。
反して。選挙演説でも語った、サトウが昔から追い求めている“正しさ”をこの先もずっと求め続けるのであれば、こういう団体の存在も手段としてありなのだろうとも。
手紙の続きにはこうあった。
「スズキが今住んでいる地域には関わりがないとは思うが、万が一団体の勧誘が誰かからあろうと絶対に入会を断ってほしい」と。何度も念を押すように書かれていた。いつも届いていた手紙の文章では一度も見たことない、全く異なる、目の前にいたら鬼気迫っていたような文がらしくなく、久々にサトウの人間らしい部分に触れた気がした。
選挙で見たサトウはどうにも作られたようなものに見えて、見るのが辛かったのを悟られたような。私がサトウの感情に触れるのが好きであることを知っているような。そんな文章に、私は口元が緩んだのを実感していた。
そのうちにサトウの団体本部から離れたこの場所でも加入者が出てきたのだろう。街中で団体のチラシが配られ、道の途中で数回勧誘をけることになった。団体には興味があったのでチラシを受け取りはしたが、手紙で念を押されたように勧誘だけは何度受けても断り続けた。
あの一文の意図が。拒否の真意がはっきりとは分からないまま、季節の便りが二回届いて、更に半年が過ぎた。
直近で届いた手紙にはこうあった。
「そろそろ長い間抱え続けていた問いに答えを出そうと思う」
相変わらずメールも電話もすることはなく、顔も合わせることはない中で届いた手紙だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます