三
顔を見せることになるかも、と綴られた手紙が届いてから数か月経ったと思う。
今度実施される地元の地方自治体首長選挙の候補者として、サトウの名前があった。
文通で大学時代もずっとやり取りをしてはいたものの、顔を見たのは実に高校の卒業式以来であった。卒業時よりも当然大人になった顔つきに、小学校の頃からずっと変わらない瞳がやけに印象的であった。
サトウの性格…中身にはあまり変わりないことは繰り返してきたやり取りからも分かってはいたが、選挙演説で核たる本質も全く変わっていないことを知った。
選挙演説でサトウはこう語った。
「今の政治は正しいと言えるのでしょうか」
この首長選挙は任期満期で行われたものではない。一部の地方議員などの不正に関して、首長が責任を取って辞任した後任を決めるための選挙。その選挙演説が解禁された、最初の演説の最初の言葉であった。
通り過ぎようとしていた人々のうち、数名の足が止まったのを私は見た。
憤りを感じて、しかし自分では動くわけではなく。そんな矛盾を抱えた人の心を掴むには十分すぎる演説の出だし。その後はよくある自分が当選した際の公約をサトウは語った。
「若輩者の私ではありますが、皆様と共に“正しい政治”を目指して参ります。どうか応援をよろしくお願いいたします」
サトウは他の候補者と比べてもかなり若い出馬であり、これまでの地盤などもなく、政策自体も弱かったのだろう。“正しい政治”を行うことはなく落選した。
しかしながらあの演説開口一番、迷いなく言い切ったサトウの言葉に賛同する人々も出てきたようであった。
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