05

 クリスマス・イブ。予約していたケーキを受け取って、しっかり保冷剤を入れてもらい、電車に乗った。

 リュックの奥には、プレゼントを仕込んであった。マフラーだ。きっと兄の方が寝るのが早いだろうから、サンタごっこができるだろう。

 兄の部屋に着くと、既にスマートスピーカーからは音楽が流れていた。


「おっ、やっぱり雰囲気出るなぁ」

「やんなぁ。ツリーはさすがに小さいやつしか置けんかったわ」


 ツリーの色は白で、銀色のシンプルな飾りがつけられていた。兄の部屋によく合っていた。


「よっしゃ! ユズ、食べよか!」


 ジュースで乾杯して、ローテーブルに広げられたご馳走に次々とかじりついていった。


「ハルくん、沢山買ってきたなぁ。ケーキまで入るか?」

「だって、どれも美味しそうやってんもん……」


 ローストチキンにローストビーフに生ハムにポテト。実家でもここまでのものは出なかった。


「ユズ、今年はプレゼントあんねん」

「えっ……僕に?」


 兄も用意していたとは予想外だった。


「気に入らんかもしれへんけど」

「あのさぁ……僕も実は持ってきてた」

「マジで?」


 サンタ作戦は失敗だが、交換会の方が楽しいのでよしとする。僕たちは同時に包みを開けた。


「プッ……ハルくん、かぶったな」

「ほんまやな」


 兄もマフラーをくれた。しかも、似たようなベージュにチェックの柄。早速巻いてみた。


「お揃いみたいやな、ユズ」

「まあええか」


 本当に小さい頃は、サイズ違いの同じ服装をさせられていたっけ。そんなことも思い出した。

 満腹に近かったが、ケーキも食べた。兄も僕もソファに身体をだらりと預け、腹をさすった。


「僕、しばらくケーキ要らんわ……」

「俺も……」


 一番小さなものだったとはいえ、さすがにホールを二人で分けるのはキツかった。音楽はしっとりしたバラードになり、雪でも降ってきそうな雰囲気になった。兄は言った。


「ユズと過ごせてよかった。落ち着く」

「ならよかった」

「ユズって……俺のこと好きやねんな?」


 僕は少し悩んだが、ハッキリ告げておくことにした。


「うん……好きやで。でも、ハルくんの好きとは違うと思う。僕の好きは……それ以上やから」


 兄は僕の瞳を真っ直ぐに見てきた。


「ユズ、どういうこと……?」

「僕も……上手いこと言われへん。ただ、彼女できたって聞いた時は嫌やった。僕だけのハルくんでおってほしかった。そういう気持ち」


 目線をお互い反らさないまま、長い時間が過ぎた。曲は終わってしまい、静けさだけがその場を満たした。兄が口を開いた。


「俺の好きは……どういう好きなんか、まだわからへんけど。ユズのことは大事にしたい。一緒におってほしい」

「うん……ありがとう」


 僕はきゅっと兄の手を握った。兄はぴくんと肩を震わせた。そして、言ってみた。


「なあ、ハルくん。今夜は一緒に寝てもええ?」

「えっ……あかんよ、兄弟でそんなん」

「あ……添い寝すんの嫌やったらええよ。ベッド狭いもんな」

「あっ、そういうこと? ごめん勘違いした。それならええよ」


 兄が何を勘違いしたのかよくわからなかったが、追及はやめておいた。一緒のベッドで過ごしていいと言ってくれたからだ。

 そして、シャワーを浴び終わった後、僕は兄の腕の中にすっぽりと入った。体温も鼓動も伝わってきて、深い安心感に包まれた。


「ハルくん……好き」

「俺もユズが好き」


 僕たちの好きは、一体何なのか、わからないままだ。でも、きっとそれでいい。境界線なんて、しっかり引かなくても。生き物同士が触れ合う心地よさがあれば、名前なんてつけなくてもいい。


「ユズ。来年も一緒にクリスマス祝おうや」

「せやな。再来年は?」

「その次も、そのまた次も、ずっと一緒」


 兄が腕の力を強くした。僕は兄の胸に耳をつけ、とくんとくんという尊い音を聞きながら、ゆっくりと眠りに落ちた。

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境界線 惣山沙樹 @saki-souyama

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