極悪奴隷商に転生した管理職のおっさんは最強奴隷商隊をマネジメントする
ゆる弥
この商隊は最強だね
そこは煌びやかな繁華街。
「なんで私がクビなんだ! あのチームのマネジメントは私しかできるわけがない!」
千鳥足でなんとか歩いているが地面が近くに見える。
今日はムシャクシャした。こんなに腹が立ったことはない。
私があのチームにいなければ機能しないぞ!
「くそっ!」
もう歩く力はなかった。地面へそのままうつ伏せに倒れる。
目の前が暗くなった。
◇◆◇
次に目を開けるとそこは見知らぬ草原。
「ん? どこだ? ここは?」
なにやら腰が痛い。さすりながら周りを確認すると、馬と武装した人が倒れている。
その後ろには繋がれている荷台が見えた。
恐る恐る確認すると五つの鉄格子の箱に人が鎖で繋がれているではないか。
「なっ! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですかって、あなたがこうしたんでしょう!? 極悪商人がぁ!」
そういうのはボロボロの服を着た際どいところしか隠れていない美女が。
「えっ!? どういう状況だ!?」
「もしかして、記憶がないの?」
目を覚ます前に泥酔していた記憶はある。だが、この体は違う人の体だ。おっさんであることに変わりはないが。
これは流行の異世界何とかか?
だとすれば、この人たちは恐らく奴隷。
私がこうしたのだとしたら、私は奴隷商ということになる。
「この首輪を外してちょうだい!」
その美女が懇願してきた。私は別にかまわないが、どうやって外すのか。
よく見てみると鍵穴がないし、何かの文様が浮かんでいる。
馬車の後ろはコの字のように箱が置かれていて、右には先ほどから話している美女が。
その向かいの左側には少し細いが若い青年。まだまだこれからなんでもできそうだ。
その奥には筋肉隆々の獣のような男。耳が上についていて、模様的に虎とかヒョウとかそういう感じだ。
その向かいには小柄な女性。耳が尖っていて独特の形をしている。
そして、一番奥が暗がりの中でもわかる赤い目。黒い髪に角が生えているようだ。
「今の私は記憶がないんです。あの、私は皆さんを開放したいと考えています」
「本当に!?」
他の人たちは黙ってジッとこちらの様子をうかがっている。
「ですが、その首輪は私も外し方がわかりません。それを外すには情報を集める必要があります。そこでなんですが、一緒に商隊として情報をあつめませんか? 首輪以外は外します」
「ワタクシはそれでいいわ!」
その女性はそういうが、他の方はどうか。
「ボクもいいよ」
「オレも協力しよう」
「仕方ないのぉ。ワレも手伝うか」
青年も、トラに似た人も、耳が特徴的な人も協力してくれるようだ。
ほっと胸をなでおろすが、一番奥のヤバそうな人は口を開かない。
「解放してから殺そうっていう算段じゃねぇよなぁ? この首輪は死ねと言われれば死ぬんだぞ?」
口を開かないと思ったら、私を疑っていたようだ。
「そんなこといいません。どうですか? やりません? あなたがキーマンだ。この中で一番雰囲気が熟練のそれだ。あなたがいれば私たちは生きていける」
「……ふっ……はぁぁはっはっはっ! 本当に何もしらねぇんだな! いいだろう。魔族でも最強と名高い俺様が協力してやるよ。いいかぁ? 俺様の考えは絶対だ! いいな!?」
「それはいけないですね」
私は即座に否定した。
「なっ!? なぜだ!? 一番強い俺の──」
「──チームっていうのは、それぞれ助け合って困難に立ち向かっていくんです。一人では無理です」
これまでの経験でわかることもあるのだ。
「だが! こやつらより!」
「こやつらなんて言ってはいけませんよ? 仲間ですから。私は……ジュウベエです。あなたは?」
「俺様は……サドンだ。王族だぞ!?」
「そうですか。よろしくお願いします。あまり威圧的だとパワハラですよ?」
「あぁ!? パワ?」
これでなんとかみんなの協力を得られそうでよかった。
自分の荷物らしきものを漁ると鍵がみつかった。
その鍵で一人一人の鎖を取り外していく。手が赤くなったり足が赤くなっている。
外し終えると荷台から降りてくる五人。
「私はジュウベエです。宜しくお願いします」
「ワタクシはローナですわ」
「ボクはアオイ」
「オレはタイガだ」
「俺様はもういいだろう!? ……サドンだ」
みんなの視線を受けてちゃんともう一度自己紹介をしている。
「これからはその首輪を外すために協力して情報を集めましょう!」
一斉に頷く中、サドンが怪訝な顔をしている。
「だがよぉ、情報を集めるって言ったってどうやって集めるんだ?」
「なんか、情報屋みたいなところないですかね?」
その質問にはタイガが手を挙げた。
「それなら、冒険者になれば情報を集められると思うぞ!」
「へぇ。冒険者……ですか。えっ? ワタシ登録するんですか?」
ちびっ子が手を挙げている。
「おぬしらは馬鹿か? 商人ギルドに行けばよかろう?」
「そこにいけば、何かわかるんですか?」
「それはわからん」
思わず力が抜けてしまった。
「まぁ、行ってみればいいじゃろう」
行けばわかるとのことで、近くの街へと歩を進めた。
◇◆◇
「ドグズ様じゃありませんか! どうなさいました?」
商人ギルドに来ると急に手をすりながらギルド職員がやってきた。
「あぁ、すみませんが、この奴隷の首輪を外したいんですが?」
「なんと! それは危険で御座いますよ!? 命をとられかねません!」
「まぁ。大丈夫でしょう。それで、外し方は?」
外すなというが、私はねばってきいてみた。
すると、首輪を恐る恐る見ると目を見張った。
「どうですか? わかりますか?」
「これは、さすがドグズ様! 私達では解析できない魔法で縛ってらっしゃる」
そんなに難しい物なのか……。
「このような危険な奴隷の首輪をなぜに外したいんですか?」
「い、いやぁ。ただどうするんだったか忘れてしまってな。聞いてみただけだ」
「そうですか。思い出されない方がいいでしょうな。このような恐ろしい犯罪奴隷達を野に放ってはなりませんよ!」
この人達が何かの罪を犯しているというのか。
そうは思えないが。これ以上はここにいるとまずいか。
「して、ドグズ様、護衛は──」
「──あぁ! 用事を思い出した。ではな!」
このドグズとやらは何者かに襲われたのかもしれない。
人格が死んで私の意識が下りてきたのか。
「こりゃ、自分のねぐらを探すしかないんじゃないのかのぉ?」
ちびっ子がのんきにそういう。
ドグズの本拠地を探すにはどうしたらいいのか。
商隊として各街を回って聞き込みをするしかない。
気の遠くなるような旅が始まろうとしていた。
極悪奴隷商に転生した管理職のおっさんは最強奴隷商隊をマネジメントする ゆる弥 @yuruya
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