じつは試着室でイチャイチャしてました。

米太郎

演劇に使う衣装

 ※こちらの作品は、あきら目線で、お楽しみくださいませ。ヾ(*´˘`*)



 日曜日の昼下がり。

 兄貴と一緒に買い物するのも、定番になってきたんだ。

 家を出るときは、「兄妹仲良くねー」って、送り出されるから、そのままの流れで腕を組むのも定番。


 僕の方から、兄貴の腕を掴みにいく。

 兄貴の力強そうな腕。

 そこに絡みつくのが良いんだ。

 僕が腕を絡ませると、兄貴は毎回照れるんだよね。


 僕と腕を組むって、毎回やっているっていうのにさ。

 兄貴は、腕に力を入れちゃって。

 それで、頬を赤らめちゃって。

 そんなに固くならなくていいのに。


 けど、そんなところが可愛いなって思っちゃうんだ。

 兄貴の照れてる顔が見えるたびに、僕の心はギューーッて掴まれてる気がして。

 それで、僕もギューーッと兄貴の腕を強く抱き寄せるんだ。

 そうしたら、兄貴はもっと恥ずかしそうな顔をしてね。

 そんな顔を間近で見れるなんて、義妹いもうとの特権だよね。

 兄貴と出会えて、本当に良かったよ。



 出会った当初は、兄貴は僕のことを義弟おとうとだと思ってたのに。

 そうとは思えない変わりようだよね。

 僕のこと、女の子って意識してくれているっていうことの現れだよね。ふふ。



 今日の買い物は、演劇に使う衣装やら、小物を揃えるんだ。

 演劇部部長、西山和紗に買い物メモをもらったの。

 今度の劇は、変装の達人『怪人二十面相』っていうのが登場する劇。

 さすがに、今演劇部に持っている衣装でも足りないっていうことで、僕たちが買い物をして来いって。


 僕は、兄貴に腕を絡ませながら、兄貴のズボンのポケットに入っているメモを取り出す。

 カッコつけて、ちょっとタイトなズボン履いちゃってさ。

 メモ取りにくいな……。


 ごそごそ。


「お、おいおい、どこ触ろうとしてるんだよ」

「ポケット、ポケット! 兄貴のズボン、もうちょっと緩めにしようよ。取りにくいよ」


「ここ、晶に取らせるようのポケットじゃないから。俺が取るよ」

「やだやだ、僕が取るもん」


 絡ませた腕から延びる手。

 ズボンの狭いポケットで触れ合う手。


「なかなか取れないよ。もう動かないでよ!」

「いやいや、恥ずかしいから自分で取るよ!」


 傍から見ればイチャイチャしているようにも見える攻防は、数分続いた。



「ふぅ。まったく、何を照れてるんだか。僕の方が手が小さいんだから、僕に任せればいいのに」


 兄貴は、恥ずかしそうな顔をしながら、ズボンを整えてる。

 なんだか、僕の方が恥ずかしくなっちゃうよ。

 悪いことしてないのにさ。


 僕まで照れてるのがバレないように、すぐメモに目を落とす。


 取り出したメモには、色々と書いてある。

 次の演劇で使う衣装が、主な買い物。

 そこに、誰用の衣装かということも書かれている。



 今日の買い物は、主に僕の衣装なんだよね。

 今度の演劇でやる怪盗役は、僕に決まったんだ。

 僕が着るから、ちゃんと僕の寸法が合うようにって、他の人には任せられないからね。


 劇の中で、怪盗は色んな変装をするからって、その度に衣装を着替えるんだ。

 僕も、色々な姿に変身できるみたいな気がして、楽しみだな。


 相変わらず二人で、腕を組んで歩くけれども、兄貴はずっとズボンを気にしていた。



 ◇



 今日の目的地のお店が見えてきた。

 お店の前のショーウィンドウには、コスプレ衣装が並べられている。

 流行りのアニメのキャラクターのカッコいい和装だったり、アイドルの衣装なんかも飾られている。


 お店に入る前からウキウキするね。



 少し背の高い兄貴を見上げながら話しかける。


「やっと着いたね。駅から少し遠かったねー」

「あぁ、まさかこんな遠くまで腕を組んで来るとは思ってなかったよ」


「腕を組むのはデートの基本なわけだし。兄貴って、相変わらず照れ屋だなー」



 着いたところは、コスプレ衣装専門店。

 店に入ると、意外と広い内装をしており、ズラリと並んだ衣装が目に入る。

 ショーウィンドウにあったもの以外にも、アニメだとサブキャラ的なキャラクターの衣装なんかも並べられていたり、一般的なコスプレの衣装なんかも並んでいた。


 衣装の列の中から、店員さんらしき人が歩いてくる。

 可愛らしいフワフワのロリータ服姿の店員さん。

 たくさん並んでいるコスプレ衣装にも引けを取らない可愛さをしている。


 店員さんは、ニコッと笑って話しかけてきた。


「いらっしゃいませ! 本日はどういったものをお探しでしょうか?」


 声も可愛らしいアニメ声をしていた。

 少し小さめの身長で、僕と同じくらいの背丈。

 店員さん可愛いなって思いながら兄貴の顔を見てみると、兄貴は鼻の下を伸ばした顔をしていた。


「……兄貴って、こういう服が好みなの?」

「……あ、いや、そういう訳でもないけど」


 店員さんが、案内を進める。

「こちらが、少年漫画系のアニメキャラクターの衣装のコーナーで、あちらへ行くとアイドル系の制服、もう少し先に行くと、私が着ているようなロリータ服がございます」


 説明を聞いている間、なんだか兄貴がニヤけてそうな気がした。

 兄貴はやっぱり、ロリータ服みたいなのがいいのかな……。


 店員さんの説明を聞くと、兄貴は少し顔を整えて言ってくる。


「俺たちが探しているのはそうなのは、もう少し別のところかな?」

「……せっかく来たからさ、僕も、ちょっと店員さんみたいな服を着てみようかな」


「えっ? 晶、何を言ってるんだ? 俺たちは買い物を……」


 僕は、兄貴の言葉を遮って、店員さんに聞いてみる。


「お姉さんの服と同じもの、着させてください」

「そんな服は、メモには書いて無かったと思うんだけれども……?」


 後ろから邪魔してくる兄貴の声はにせず店員さんを見つめると、店員さんはニコッと笑って、案内してくれるようで、奥の方へと歩き出した。

 ‌僕も、兄貴の方にニコッと笑って伝える。


「まぁまぁ。ついでに着てみるのもいいじゃん。僕が可愛い服を着ているところ、兄貴も見たかったりするでしょ?」

「あ、いや、そんなことは……」


 少し戸惑っている様子の兄貴。

 ふふ。僕の魅力っていうのを、兄貴に見せつけてあげよう。


「じゃあ、兄貴。少し待っててね。店員さん、お願いします」


 兄貴をおいて、僕は店員さんと奥の方へと向かう。



 奥には、ロリータ服がたくさん並んでいた。

 ピンク色の可愛いものから、黒色をした所謂『ゴスロリ』っていう衣装も置いてあった。


 店員さんが僕と衣装とを見比べて、選んでくれていた。


「お客様には、こういう衣装も合うと思いますよ?」

「なるほどなるほど。じゃあ、それをお願いします!」


 そうやって選んだ服を持って、試着室へと向かう。



 ◇


 売り場面積と比べると、試着室は少なめだった。

 売り場面積を増やしたことの代償なのかもしれない。


 試着室の中を覗くと、中もそんなに広くはなっていなかった。


 その中に僕と店員さんが入る。

 初めて着るロリータファッション。

 一人で着れるわけもないので、店員さんに着させてもらった。


 背中のファスナーを締めながら店員さんが言ってくる。


「この衣装、可愛いんですけれども、一人で着たり脱いだりするのが大変で、慣れるまでは誰かと一緒がよろしいかと思います」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 ファスナーも締まり。

 鏡を向くと、別人になった僕がいた。


 なんだか、少しぶかぶかな気もするけど。

 こういう僕も、意外と可愛いかもしれない。


「お似合いですよ? 彼氏さんにも見てもらいましょうか?」

「え、いや、あれは僕の兄貴なんです……」


 彼氏彼女に見えたのかな。

 なんだか、それは嬉しいな……。


 試着室から出ていくと、すぐ近くに兄貴が歩いてきていた。

 僕は、兄貴に聞いてみる。


「兄貴、これどう?」

「あ、あぁ。可愛いな、それ」


 頬を赤らめる兄貴。

 やっぱり、こういう系が好きなのかもしれない。


「ありがとう。じゃあ、次のを試着しようかな」

「いやいや、晶。今日の目的を忘れちゃったのか? 衣装を選ばないとだろ?」


「あっ、そうだった。それをしないとだね」

「そうそう。少ないけれども、俺の衣装もメモに含まれているし、早く選んじゃわないと日が暮れちゃうぜ?」


 兄貴の言うことも一理ある。

 おつかいは、ちゃんとしなきゃだよなー……。

 僕が困った顔をしていると、店員さんが言ってきた。


「もしよろしければ、一部屋貸し出しますよ? 兄妹でしたら二人で入って、使ってもらって構わないです」


 衝撃の発言に、僕と兄貴は店員さんの方を振り向いた。

 兄貴が先に口を開く。


「え、いや、まぁ、兄妹ですけれども……」


 恥ずかしそうな顔をしながら、断りそうな兄貴。

 そんな兄貴に対して言う。


「けど、時間もないし、僕は全然かまわないよ。いっぱい衣装着たいし、一緒に入ろう!」

「えー……。いやそれは、ちょっと、なんか……」


 僕は、兄貴の腕を組んで、上目遣いで聞いてみる。


「僕のお願い、聞いてほしいな?」



 兄貴の目は、溺れかけの子供みたいに、バタバタと激しく泳いでいたけれど。

 しぶしぶ了承してくれた。


 そして、僕と兄貴は、メモに書いてあった衣装を見繕ってきて、一緒に試着室へと入ったのだった。




「あまり広くない試着室だけれども。お風呂一緒に入った仲じゃん。大丈夫、大丈夫」

「そ、それは言わない約束だろ……」


「ふふっ。今回の僕は、ちゃんとブラもしてるし、ショーツも履いてるし。いっつも家だと見えてるじゃん?」

「いや、まぁ。そういう時もあるけれども、それでもさぁ……」


「まずはさ、僕を脱がしてよ」

「えぇぇぇぇ!」


「この服さ、一人で脱ぎ着するのが難しいんだよね。背中のファスナーを取ってもらう感じで」

「……まじか」


 兄貴から、ゴクッと生唾を飲むような音が聞こえた気がした。

 僕のこと意識しちゃってるな。

 ふふ。嬉しいな。


 ファスナーを下すと、するするっと、ロリータ服が脱げて地面に落ちる。

 僕は兄貴の方を振り向いてお礼を言う。


「ありがとう。兄貴!」

「お、おう……」


 兄貴は、片手を使って目を塞いでいた。


「俺が目をつぶっている間に、次の服を早く着てくれ」

「もう、兄貴ってば。別に見てもいいのにー」


 しょうがないから、僕は新しい服を着てみる。

 次はチャイナドレス。


 太ももの上辺りまでスリットが入っていて、結構セクシーな衣装だった。

 上半身もピチピチとしていて、体のラインが強調される感じ。

 僕は、服を着たことを兄貴に伝える。


「兄貴。着てみたよ。目を開けて見てみてよ」


 ゆっくりと、目を塞いでいた手をどけて、僕の方を見てくる。


「えっとー。それは、結構刺激的な衣装だな……」

「どう、可愛い?」


「あ、あぁ。可愛いよ」

「やったー。じゃあこれは、決まりだね! 次々着ていこうー!」


 僕は、するするっとチャイナドレスを脱ぐ。

 地面に落ちるチャイナドレス。


 相変わらず兄貴は、目を手で覆い隠していた。


「あ、そうだ。兄貴も衣装着てみないとじゃない? 時間もあまりないしさ、兄貴も着替えちゃってよ」

「……い、いや。俺は、着なくても大丈夫だと思う」


 急に拒みだす兄貴。

 ここに来る途中は、ウキウキで衣装の話をしてたのに。

 僕に遠慮しちゃってるのかな?


「遠慮しなくていいのに。僕たち、兄妹でしょ?」

「そうだけど。そうじゃない気になっちゃうからダメ!」


 うーん。

 相変わらず、兄貴は強情だな。


「僕たち、もっと仲良くならないとだよ。脱がせてあげるから、待っててね」

「え、いや、それはちょっと。……って晶ーーー!」


 僕は、兄貴のシャツに手をかける。

 兄貴は、目を隠したままの姿勢のまま抵抗してくる。


「自分でやるから。そのくらい自分で、できるから!」

「そうなの?」


 目をつぶったまま、服を脱いでいく兄貴。

 そのあと、手探りで着替える衣装を探そうとしてるけど、僕が服を持っちゃってるんだよね。


「あれ? 晶? この辺に衣装なかったっけ?」

「えー、知らないよ? 目を開けて見てみなよー?」


「……いや、晶。お前まだ服着てないだろ」

「え、バレた?」


 下着姿で、試着室にいる二人。

 数分、同じやり取りをしながら、そのままの姿で過ごした。


 店員さんからの声かけで、静寂は幕を閉じた。


「二名様ー、そろそろ混んできましたので、試着室を空けて頂けると幸いですー」


 それを聞いた兄貴は、少し怒りながら言ってくる。


「晶、そろそろ時間がないから、服を返してくれ」

「わかったよ。ごめん」


 僕は、元々着ていた服を着た。

 兄貴にも、元々着ていた服を返してあげた。

 そして、試着室を出た。


 衣装の試着が上手くできなかったからか、すこしムスっとしていた兄貴。

 僕の方から、兄貴に提案をしてみた。


「お疲れ様だね。とりあえず、買っていって。合わなかったら別な衣装に変えてもらおうか」

「え、そんなことできるのか?」


「店員さんが、『混んでて申し訳ないです』って言って許可してくれたんだ」

「それなら、色々見繕って家で着てみるか」


「ふふ。今度は、誰にも邪魔されずに、二人でファッションショーができるね」


 兄貴の部屋で、二人きりで。

 いろんな服を着て、見せ合う。

 単純に、それだけでも楽しいもんね。


 そのあと、僕たちは店員さんと買い物メモを見ながら、服を選んで、家へと帰った。


 帰り道も、もちろん兄貴と腕を組みながら。



「兄貴、帰ったら家で衣装試着の二回戦だね! 可愛い僕をもっと見せてあげるからね!」



 ‌了

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じつは試着室でイチャイチャしてました。 米太郎 @tahoshi

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