【ショートストーリー】封じられた心―愛と祈りの狭間で―

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】封じられた心―愛と祈りの狭間で―

 ガニは、小さな村の教会で働く静かな修道士だった。彼は日々、祈りを捧げ、教会の維持管理に努めていた。


 ある日、教会に美しい女性、マリアが訪れた。彼女は都会から来たとだけ言った。彼女の存在はガニの心を揺さぶった。彼女の純真さと美しさに、ガニは次第に惹かれていった。


 しかし、修道士としての誓いが彼の心を縛り、彼は彼女への感情を抑え込んだ。しかし、マリアがガニを訪れる度に、彼の心はますます動揺した。


 ある日、マリアがガニに一つの話を持ちかけた。彼女は「私はもう都会で生活するつもりはない。ここで静かに暮らしたい。できれば、あなたと」と言った。彼女の言葉はガニの心を揺さぶり、彼は彼女に対する感情を抑えきれなくなった。


 しかし、彼は修道士としての誓いを守り、彼女に対する感情を封殺した。彼はマリアに対して、彼が修道士であることを理由に、彼女の提案を断った。


 その後ぷっつり、マリアはガニを訪れることはなくなった。ガニは彼女の姿を見ない日々に苦しみ、彼女を思う気持ちがさらに募った。


 ある夜、ガニの元に一通の手紙が届いた。それはマリアからの手紙だった。彼女は手紙の中で、「私はあなたのことを愛していた。でも、あなたは修道士としての誓いを守ることを選んだ。私はあなたの決断を尊重します。では、さようなら」とだけ書かれていた。


 ガニは手紙を読み、彼の心は痛みでいっぱいになった。彼は自分の選択を後悔し、マリアの気持ちに応えるべきだったと心底嘆いた。


 数年後、ガニはマリアが亡くなったという知らせを受けた。彼女は病気で亡くなったと聞かされ、彼の心は絶望で満たされた。


 その後、ガニはマリアの部屋で一つの箱を見つけた。箱の中にはマリアがガニに宛てて書いた手紙がたくさん入っていた。彼女はガニに対する愛情を綴った手紙を、彼に会えない日々に書き続けていたのだ。この沢山の手紙の中で、ガニに届いたものはたった一通だけだったのだ。


 そしてガニは今、2通目の手紙を手にした。


「親愛なるガニへ


 私が初めてあなたに出会った日、あなたの心の純粋さと誠実さに引き込まれました。あなたの日々の祈り、教会への献身、そして何よりもあなた自身への誓い。それら全てが、あなたを尊敬する理由でした。


 私の心の中で、あなたは静かな海のようでした。どんなに嵐が吹き荒れても、その中心はいつも静かで、安らぎを与えてくれました。私はその安らぎの中に身を委ね、自分自身を見つめ直すことができました。あなたに出逢う前の私は、まるで嵐の海に翻弄される小舟のようでした。それが今はどうでしょう。こんな静謐な平安に身を任せることができる時がくるなんて。


 でも、あなたと一緒にいるとき、私の心はいつも疼きます。それはあなたへの愛情からくるものです。私はあなたと一緒にいることで、自分がどれほどあなたを愛しているのかを理解しました。でも、その感情をどう扱えばいいのか、私には分かりませんでした。


 私はあなたと一緒に生活したいと思いました。でも、あなたは修道士としての誓いを選びました。私はその決断を尊重します。あなたの誓いには、あなた自身の信念と誇りが詰まっています。それを壊すことはできません。


 でも、私はあなたを愛しています。それは変わりません。私たちが一緒にいられないとしても、私の心の中では、あなたはいつも私のそばにいます。


さようなら、私の愛するガニへ。


マリアより」


 ガニは震える手で手紙を封筒にしまうと、そこに跪き、マリアのためにひたすら祈り続けた。


(了)

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