第18話-オバケの本業
俺は密かにニヤリと笑う。オバケの本業を見せてやろう。脅すのは得意だ。
「お前、いい加減にしないと喰うぞ?」
「は?……何言って……ッ」
俺の姿はザワリと真っ黒な狼の魔獣に変貌する。男より幾分か大きく、毛並みは闇に溶けて真っ赤な目でギョロリと男を見る。男はビクリと硬直し、口をパクパクとさせ、俺を指差し恐怖に目を見開いている。
「ひ……ば……ばけものッ」
恐怖に震え上がる男に唸り声を上げながら一歩近づき、ガパッと口を開けてやった。
『グワァ』
「ヒッひぃいぃい!!!」
男は怯えきって後ろにひっくり返ったかと思うと、そのまま後退り、勢いよく走り去っていく。
そんな男を見えなくなるまで見送ると、軽く溜息を吐いてまた人の姿に戻り、家に入って玄関の鍵を閉める。
脱衣所に戻ると、また小さな黒い影のオバケに戻った。
『終わったよミコ……――』
カパッと洗濯槽を開けてやると、美琴が口元を手で覆い嗚咽を飲み込みながら泣いていた。
俺は目を見開く。
……ああ、やっぱり殺せばよかった。
影の姿じゃ、笑いかける事しかできない。俺はニコリと笑い中を覗き込む。
『ミコ、もう大大夫だぞ。アイツ居なくなった。』
「……ほ、ほんと?」
『うん。』
「あ、ありがとう。こんな何処まで来るなんて……っ濯ちゃんは大大夫?怪我ない??」
『俺にどうこう出来るのはカミサマくらいだから心配しなくていいよ。』
「うふふ。そうね。オバケだもんね。」
言葉のままの意味なのだか、オバケで通した方が都合が良いのでそのままコクコクと頷いた。
『あ――、そうだな。ウンウン。』
美琴は涙を拭い洗濯槽の中で立ち上がるので、俺は慌てて静止する。
『あぁぁ。危ないから、出してやるからそのままジッとしてろ!』
俺はまた念力を使い美琴をゆっくり持ち上げると、フワリと床に降ろしてやった。
俺は、少し不安気に美琴を見た。あの男から隠れるためにここに住んだのなら、また引っ越してしまうのだろうか。
引越すなら、俺は連れて行って貰えないかもしれない。前の持ち主だった匠は、引っ越すからと俺を売ったから。
もうあんな孤独は嫌だ。
半ば願望のような問い掛けだ。らしく無く不安になっている自分に戸惑うが、聞かずにはいられなかった。
『ミコは、……ここで暮らすんだよな?』
美琴はきょとんとして俺を見つめて、不安げな俺を見て何か察したのか、赤く腫れた瞳を細めてにこりと微笑む。
「大大夫、何処にも行かないわ。それに、何処かへ引越すにしても濯ちゃんも一緒よ。」
『……ならいい。』
思っている事が筒抜けで恥ずかし気に目を逸らて、ボソリと言う。
すると影の姿で触れられない俺の頭を撫でるように動く美琴の手を見て、嬉しくて目を細めた。
「ふふ。濯ちゃん、私の呼び方が変わったね。」
『嫌だったか?』
「いいえ、嬉しいわ。ありがとう。」
まだ美琴の事、何も知らないけれど、これから知っていこう。彼女を守るために。
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魔王と勇者を喰らった最強ミミックは余生をOL♡の洗濯機として過ごしたい! pasuta @pasuta58
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