22話『次男 ネクア・エンリア』
王都のど真ん中にあったハ○ーポッ○ーのような建物こそ、俺が目指す学校――エルヴィーナ王都魔法学校だ。
毎年千人近くの魔法使いが国境を越えて訪れ、その九割が入学できないと言われるほどの高い倍率を誇っている。だが、魔法使いなら必ず一度は志す魔法界の名門校らしい。
ちなみにそんな倍率の中でも、エンリア家の次男ネクアと三男メノはそれぞれの学年でトップの入学成績を収めていたらしい。
前世でも比べられていたからよく分かる。
身内が優秀だと、その兄弟も優秀だと勘違いされてしまう。
しかも、そんな現実に追い討ちをかけるように、この世界には努力だけでは絶対に埋められない差が存在している。
それはアルトの身を持って理解した
メノとの戦闘を終え、魔力が切れた俺は休憩の合間を縫って、俺は三ヶ月後の入学試験に備えての勉強、もとい過去問をレナードに教えてもらうことになった。
「まず、過去の入学試験の傾向から、魔法の適性検査、教師との模擬試合、最後に魔法の基礎に関する問題が出題されます」
「魔法の適性検査って、どうにかなるの?」
「それはどうでしょうか……私が入学した時は適性検査というよりも、魔力量を参考にされましたので……同じクラスメイトには魔法使い以外も多くいましたね」
レナードが卒業したのは十年くらい前らしい。
今のやり方と違うのも仕方がない。
「安心しろやァ落ちこぼれ、今じゃ九十九%が魔法使いだってんだよ。ましてやその残りは魔法適性がほんの少しある天職ばかり……例えば精霊術師とかよォ」
「それのどこが安心できるっていうんですか、メノ兄さん」
去年入学したメノはこんな風に役に立たない。
応援しているのか、入学させたくないのか。この男はよく分からない。
「メノ兄さん、ちょっといいですか?」
「いきなり小声になってんじゃねェよ。聞こえねェだろうが!」
「ネクア兄さんのことで聞きたいことが……その、ネクア兄さんの魔法って強いんですか?」
「はッ! 何を聞くかと思えばンなことかよ。まぁ端的に言ッてやれば、俺様の魔法はあいつにゃ通用しねェ。つまりはァ、俺様にすら通用しないてめェの魔法なんざ、あいつには効かねェってことだな」
「え、内容は聞かせてくれないんですか!?」
「聞いたところで俺様に勝てなきゃ意味ねェよ。あと一つ教えといてやるよ。ネクアは超がつくほどの地獄耳だぜ」
「……え?」
にやりと笑うメノから感じた嫌な予感に、俺はふとネクアの方を見た。
すると、超満面の笑みでこちらに小さく手を振るネクアが移る。
ネクアの顔も若干霞んで見えるくらいのこの距離で、今の小声が聞こえたってことか。もはやそれは能力の類じゃなかろうか?
というか、授業中もそこそこ離れてるはずなのに変な野次ばかり飛ばしてきたのもあの地獄耳のせいだろうか。
納得はしたけど、ただただ俺は震えてしまった。
「気になるんなら戦ってみろよ。あいつはああ見えて俺様より容赦ねェぞ」
「怖いので遠慮しときます」
ネクアの目的は分からないが、ここ最近常に庭の端っこ。特に日陰を好み、お気に入りの椅子を部屋から持参して優雅にこちらを見ている。
気が散るといえばそうなんだけど、腐ってもアルトの兄であり、エンリア家の次男。
落ちこぼれ認定されている俺が「どっか行ってくれ」なんて言った日には殺されるかもしれない。
しかも地獄耳に加えて、メノより容赦ない戦闘スタイルらしい。
極力大人しく、目立たないようにしておこう。
そう心に決めた時であった。
それにメノ以上に俺を目の敵にしている可能性もまだ拭えない。ここは慎重にいこう。
なんて思った矢先――
「アルト、久々に見たら面白い能力を使ってるね」
ネクアは俺の後ろに立っていた。
「……殺さないでください」
どうやら転生した異世界では俺だけが《転職》できるらしい。〜職業の固有能力を引き継ぐ《転職》をしまくって無職から最強へと成り上がる〜 月並瑠花 @arukaruka
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