21話『リベンジマッチと再成長』
大きな轟音が再び庭全体に鳴り響き、地面は大きく揺れた。その振動は当然屋敷へと伝わっている。
「ちょこまかしやがッて。避けてたら意味ねェだろが! その黒いモンで受け止めてみろやァ!」
前より全体的に速度が上がった戦闘である。
俺の対応速度が上がるにつれて、メノの魔法の発動速度は俺を上回ってくる。
そうして次第に戦闘自体の速度が上がり始める。
「あー、もうわかりましたよ!――『硬化』……こむぎ、受け止めろ!」
硬くなることをイメージした『魔力付与(エンチャント)』をこむぎに向けて放つ。
『加速』とは違い、パッと見では分からないがメノの重力魔法を受けた体は少しだけ魔法に耐えていた。強度は上がったように見える。
付与術自体は成功といえば成功だが、それでもメノの重力魔法の威力には到底耐えきれずに煙となってしまう。
初めてにしては上出来といえるだろう。
これで状況に対しての使い分けができるようになったんじゃないだろうか。
とはいえ『加速』と違って、『硬化』はまだまだ未完成である。多少は硬くなっても、メノの魔法には耐えられないし、あの謎の男に仕えていたドラゴンにも勝てないだろう。
俺はもう一度こむぎを召喚する。
これは実験だ。怖がる必要はない。
今使えるものは全て使う。使えないものを模索して、それもすぐに試す。
「じゃあやってみよう――『硬化』『加速』の二重がけ。付与する魔力の量も二倍にして……」
「なにブツブツ言ッてんだ、暇すぎて寝ちまうぞ」
『魔力付与』自体魔力の消耗は激しい。そこにイメージした内容を付与すると尚更だ。
しかも付与した魔獣がやられてしまえば、次に召喚できるまでの間にタイムラグができてしまう。
魔力の付与量も二倍にした。
俺が今できる最高速度に加えて、メノの攻撃に耐えうるかもしれない最高強度での攻撃。
「行け!」
こむぎが走り出す。それに合わせて、メノも攻撃を始める。
生身の俺が当たれば一溜りもないほどに高い威力と、《加速》の魔力が加わったこむぎを正確に撃ち落とす命中率。それを可能としてるのはメノ自身の膨大な魔力量と底知れない才能だろう。
でも今の俺ももうあの頃のような何も出来ない平凡な人間ではない。
「よしっ!」
――重力魔法による圧縮。一撃目。
こむぎは耐えることができた。
だが、《加速》は打ち消され、その場に留まるこむぎに更なる追い打ちが襲いかかった。
さすがの二撃目。そしてトドメの三撃目。
もう煙となって消えてしまった。
「はぁはぁ……もう魔力が……」
完全に魔力切れである。
前ほど限界まで消費しきったわけでは無いがら立ってられるのもなんとかという状態である。
メノの攻撃を一撃耐えただけでも成長と言えるのか。あるいはこんだけの魔力を使っても一撃で潰されるメノと俺の実力差に落胆するべきなのか……。
「いいじゃねェか」
「え?」
「――『
「え?そうなんですか、アルト様!」
「それは……」
レナードには隠したかった。
前の魔力切れの時もそうだったけど、レナードは極度の心配性だ。
一日ぶっ通しで授業をしたあと、俺が自主的に練習をしていると知れば止められるに決まっている。だから言いたくはなかった。
「最近は、そうですね。色々と試してはいます。でも、重ねがけどころか、『硬化』の
「悪くねェ! 俺様の攻撃を一発でも耐えられたってことァ、ほとんどの魔法は受け止められるってわけだ、喜べ雑魚が!」
「確かにすごいですけど……でも魔力の使い過ぎは却って体に毒です。私も何度も教えていますし、仮に魔法学校に入学しても口うるさく言われることですよ!? 分かってますか、アルト様」
「察しろや。レナードがそうやってうるせェから誰にも言わずにやってたんだろうが。強くなりてェなら止めねェ。死んでも強くなれや、落ちこぼれがァ!」
心配してくれるのは罪悪感もあるけど、少なくとも嬉しくもある。
だって前世はされたことなかったし。家に引き篭っていてもご飯は出てこないし、カップラーメンの日々を過ごしてた俺を心配してくれる人もいなかった。
俺が一番過去の俺を心配してるんじゃないかと思う。
「ごめんなさい、二人とも。次からは気を付ける。でもメノ兄さんの言う通り。この間の襲撃事件で自分の無力さを痛感したんだ。あの時、本当に死んだと思った……でも、本音を言えば努力してる最中に死んだ方が、僕の中では本望だとも思ってる。誰かに殺されるくらいなら……」
実際に殺されかけたからよく分かる。
あの時の絶望感は今も忘れない。あれだったら自分で死を選ぶ方がマシなくらいだ。
「じゃあアルトの意志を汲み取って五分の休憩後にまた訓練開始だ、早く休んどけ」
「うっす!」
「いやいや! 次魔力切れになったら倒れるので! メノ様もアルト様も今日はもう終わりです!」
成長を感じて高まっていたモチベーションも、俺の魔力切れとレナードの心配性によって、半ば強制的に打ち切られてしまった。
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