第50話 旅立ち
深刻な顔をしたギルマスと副ギルマスに呼び出された直後、街長の使いの方がギルドに駆け込んできて、オレは一緒にギルマスの執務室に呼ばれていった。
「なんでウィレミ達が追放されなければならないんですか!」
そこで聞かされた内容に、来客中なのも忘れて思わず疑問の叫びをぶつけてしまった。
すると、街長の使いの役人のかたが、申し訳なさそうに
「実は、今こうやって急ぎの使者として参ったのは、全く同じ内容です。街長のところにも、領主様の名前で同じ内容の通達が届いています。」
「ナカムラよ、落ち着いてよく聞け。ギルドのほうに、領主様から通達が来た。枚葉は、使いの方が言ったことと同じだな」
「なんで、なんでそういう話になるのですか!?」
「落ち着いて聞けよ。これはあくまで手紙に書いてある内容だ。領主様曰く、先日のスタンピードはこれまでにない規模のもので、この近辺に滅多に現れないセンチピードや上位種まで現れた。これだけの魔物たちが暴走した原因として、魔物たちが、獣人の臭いを嗅ぎつけて襲い掛かってきたという話になったらしい。だから、本来であれば獣人は処刑するところであるが、街への貢献を認め。寛大にもつ異方処分に処するといったいい分だな。」
「そんな! 魔物が獣人族の臭いに誘われて襲ってくるなんて、そんな事実はないですよ! もし、それが本当だったら獣人族の国はとっくの昔に魔物によって滅ぼされていてもおかしくないじゃないですか! そんなの、間違っています!」
「ああ、俺もそう思う。だが、お貴族様やその取り巻き共は、獣人族を見たこともねえんだろう。だから、勝手な憶測がかにも真実であるかのように、忠臣を名乗る賢し気なツラをした奴らが吹聴でもしたんだろうさ。」
「なんて‥‥‥なんて無知で傲慢な!」
「街長も心配しておられました。聞けば、ウィレミどのたちは街長の息子さんのヴィクシム君たちが街で見つけたそうじゃないですか。その後も街に溶け込み、今では立派なこの街の住人です! それを、追放だなんて、街長も納得は致しておりません」
「ああ、それは救いだな。だが、事はそれでは済まない。領主様じきじきのご命令になってしまっている。ここでウィレミちゃんたちをかくまったりしたら、街長は追放どころか罪に問われてしまうし、ギルドは国から独立しているとはいえ、様々な圧力をかけられるだろう。ナカムラよ、残念だが、ここは領主の言うとおりに――」
「―――れていきます」
「ん?」
「オレが連れていきます! いかにウィレミがしっかりしていても、彼女はまだ12歳なんです! 大人が、大人が守ってやらなきゃ! どうせ、オレは別件で領主の誘いを断って罪に問われるか何らかの圧力をかけられる未来が決まっていました。このままここに居ればこの街やギルドに迷惑をかけるかもしれない。だから、ちょうどいいんです! オレは、ウィレミ達を連れて、この街を出ます! 今すぐにでも!」
「‥‥‥そうか。決意は固いんだな?」
「はい」
「わかった。だが出発は明日の朝まで待て。ダリボル、スタンピードでナカムラが倒した分の報酬の計算を急げ。オーク肉も、ナカムラの収納なら全部持たせてやれるだろう。あとは売店にあるテントとか野営に必要な道具も全部持たせる。ナカムラ、ちび共に支度をさせろ。孤児院のお友達との別れも必要だろう。急いで動け」
「わかりました! 任せてください!」
「私からは街長の方に、街長名義での『通行許可証』を全員分貰ってきます! それがあれば、街や村で通行税を取られることもありませんし、獣人を見たことがない人間にもそれなりの説得力が生じるでしょう!」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
「例には及ばん。これは、俺たち大人たちのせめてもの罪滅ぼしだ。むしろ、こんなことしかできなくて済まねえな。」
ギルマスの言葉に揃って頷く、副ギルマスと街長の使いの役人さん。
ああ、ほんとうにこの人たちはあったかい。
こんなあったかい人たちと離れるのは寂しいけれども、
出会えたことに感謝しよう。
◇ ◇ ◇ ◇
――翌日の朝。
お世話になった人たちにしっかりと別れを告げ、そして旅の準備を整えた俺たち5人は街の出口で大勢の見送りを受けていた。
「ナカムラ! 何かあったら当地のギルドから連絡をよこすんだぞ!」
「‥‥‥ナカムラよ、お前には世話になった。お前たちの旅の無事を祈っている。
「ウィレミ! 短い間だったけど、お前は俺たち『プロミスコクーン』の一員なんだからな! 籍は開けておくから、ほとぼりが冷めたら必ず戻って来いよ!」
「ウィスラちゃん! ウィトンちゃん! また一緒に遊ぼうね! お手紙書いてね!」
「ナカムラきゅん! わたしもついていきたいのよん! でも、待っててねん! いつか必ず、クラン『百花狂乱』は全員であなたたちのところに遊びに行くのねん!
「じゃあ、行くか」
「「「うん、ナカムラさん(兄ちゃん)!」」」
「ええ。行きましょうか魔性の女」
「ビェラさん? 本当についてきて大丈夫なの?」
「それは愚問よどら〇もん」
悲しい別れだろうけど、
せめて、笑顔で別れよう。
これは今生の別れではないのだし、
なにより、心の中には、これまでの大切な温かい思い出と絆がある。
まずは、この国を出よう。
隣国の、海のあるマラナヴァ海洋国あたりを目的地としてみようか。
あの国は魔道具技術が栄えているらしい。
日本でなじみの『車椅子』とか、『義手』とか『義足』とか。
そんなものも、この異世界で一般的になる様にできるかもしれないな。
さあ、出発だ。
「行ってきます!」
――― 完 ―――
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』を最後までお読みいただき誠にありがとうございます!
この作品は、『ちょっと違う異世界もの』という観点のテーマに取り組んでみたものです。
やはり、タイトルに聞きなれない単語が入っているせいかPVはそれほど伸びませんでしたが、それでも呼んでくださる皆様方の応援は、本当にありがたく感じております。
もし、「この作品お続きが読みたい」「新作が読んでみたい」等々ありましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援、コメントなどをよろしくお願い致します!
桐島 紀
異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。 桐嶋紀 @kirikirisrusu
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