第49話 勧誘。そして‥‥‥

「‥‥‥ナカムラよ」


「はい‥‥‥」



「‥‥‥これ全部お前がやったのか?」


「いや、全部ではないです‥‥‥」



「‥‥‥でも、ほとんど、なんだろ?」


「そうみたいです‥‥‥」




 スタンピードから一晩明けた翌日。


 冒険者たちや衛兵、自警団の面々は、倒された魔物たちの素材回収で大忙しであった。


 街の前に広がる、大量の魔物の成れの果て。


 オレはシュラークさんと組んで、Gランクの初心者たちと素材回収に当たっていた。


「‥‥‥ほれ、関節の軟骨に刃を入れて骨同士を切り離すんだ。そうすれば持ち運びしやすくなる」




    『ナカムラは『解体Lv6』を覚えました!』



 そんな中、脳内アナウンスは鳴り響く。




 そこに現れるギルマスとエフェリーヌさん。



「おう、ナカムラ! おめえはとんでもねえな! そんなチカラを隠していたのか?!」


「ほんっとうよねん! もう、あの魔物たちが次々倒れていくところ! すごかったわん! もう、わたしはナカムラきゅんにメロメロよん!」


 

「いや‥‥‥隠していたわけではなくてですね‥‥‥」


 んー、説明が難しい。


 あと、エフェリーヌさんはどうか他の得物ターゲットを見つけて欲しい。



「それにしても、この量は半端ねえなあ。これじゃ、解体が間に合わずにほとんど腐らせちまうぜ!」


「そうねん。『収納』持ちでもいれば楽になるのだけどねん」




   『ナカムラは『異次元収納Lv9』を覚えました!』



 へ?


「あ、あの‥‥‥」


「どうした?」



「たった今、覚えました‥‥‥。『収納Lv9』です‥‥‥」


「「「はああああ(なのねん)?」」」






「‥‥‥ほんっと、おめえはとんでもねえ奴だな‥‥‥。おーい! みんな! 解体はいったん中止だ! 続きはギルドの解体場と訓練場だ!」


 突然の予定変更に戸惑う顔をする周りの人たちを尻目に、オレは魔物の死体を片っ端から『収納』に入れていく。


 30分もしないうちに、魔物の死体は全てオレの収納の中に納まっていた。



「よーし、あとはナカムラが適時収納から出したものをギルドの方で解体してくれ!   あ、ナカムラは戻る前にその落とし穴埋めておけよ!」



 そんなこんなでその日からは解体の日々が続き、飽和状態となったオーク肉を少しでも消費すべく、ギルドの食堂には新メニューの『とんかつ』がメニューに加わったのだった。




◇ ◇ ◇ ◇



 スタンピードからの解体祭りが落ち着いてきたとある日。


「ナカムラ。お手紙来てるわ読まずに食べて」


 

 なんか新境地を開拓したような雰囲気のビェラさんから一通の手紙を渡される。


 見ると、そこには貴族からのものと思われる、家紋の付いた封蝋付きの封書。


「その手紙は領主様であるテヒメラス伯爵様からね。同じ封蝋の封書がギルマスの所にも届いていたわよたわしなのよ」


 どんどん混迷さを増してくるビェラさんのオヤジギャグ? を聞き流しながら封書を丁寧に開ける。


 その中には、先日のスタンピードを退けた功績を評価するとともに、伯爵家に家臣として仕えよという内容の文章が、回りくどく高圧的に書かれていた。



 えー、やだなー。


 お貴族様に仕えるなんぞ、小さな街の一般平民からすれば望外の栄誉なのだろうが、日本で社畜のように生きていたオレにとっては何の魅力も感じない。

 それどころか、今の結構気ままな生活が送れなくなることが苦痛でしかない。


 すでにお断りすることは決定事項となっているが、貴族様相手にどうやって波風立てずに断ればいいのかなと思いを巡らせていると――



「ナカムラ! 大変だ! ちょっと来い!」


 いつになく真剣な顔をして、大声でオレを呼ぶギルマスの声。そしてその横に立つ副ギルマスのダリボルさんも渋い顔をしている。


 もしかしてオレの伯爵家への仕官の件だろうか? いや、それでこんなに深刻になるとは思えない。

 これはほかに何かあったのかと訝しながらギルマスの部屋に向かおうとすると、ギルドの入り口から慌てた様子の、街長からの使いの者が飛び込んできた。


「ギ、ギルマスはいらっしゃいますか?!」



 切羽詰まった様子の使いの者を後回しにするわけにもいかず、ギルマスは街長からの使いを執務室に招いていく。


 それを見て遠慮しようとしたオレに「おめえも来るんだよ!」と言われ、言われるがままにその後を追う。


 そして、ギルマスの執務室に集ったところで、衝撃の内容が街長の使い、そしてギルマスの口から語られたのだった。



◇ ◇ ◇ ◇




「ウィレミ達を追放?! 何でですか!」



 その内容は、オレの部屋で一緒に暮らしている、獣人であるケモミミ3姉弟を追放せよとの領主からの命令であった。




「なんで! なんでウィレミ達が追放されなければならないんですか! ウィレミは、『プロミスコクーン』に加入して、先日のスタンピードの時だってみんなと一緒に魔物と戦って! ウィスラとウィトンだって、食堂で一生懸命働いているし、孤児院のお友達もたくさんできて! 住民の皆さんへの炊き出しも手伝ったりして! みんな、冒険者のみんなにも、街の人たちにもかわいがってもらっているじゃないですか!」






 ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します!


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