第48話 勝利
ロレリアムの街に襲い掛かるスタンピード。
その魔物の数は、事前の予想のおよそ2倍、やく1000体ほどであることが確認された。
1000を超える魔物の群れなんて、どこかの都市のような堅固な防壁でもあればそれほどの脅威でもないのだが、この街には通常は簡素な土塁と木の柵、それに急遽設置される逆茂木くらいしか防御のための備えはない。
そして、防衛のための戦力と言えば、街長が編成した街の衛兵がおよそ100。冒険者たちは最大戦力の『百花狂乱』が40ほどで、AランクであるエフェリーヌさんをはじめとしたB~Dランクの猛者が主戦力であり、他はC~Eランクの各冒険者が80ほど。
ランクF以下の冒険者たちは、先日完成した『救助者マップ』を基にした住民の避難誘導に回っている。
この街の人口はおよそ3千。その中から編成された『自警団』の数はおよそ400。そのうち魔物との戦闘経験や狩りの経験のある者100人が戦闘に参加し、他の者は避難誘導に回っている。
ということで、実際に戦闘に参加するメンツは合計320ほど。
元Aランクのギルマスと、現Aランク(兼厨房見習い)のエフェリーヌさんの2大戦力が心強いな。
利き腕を失ったシュラークさんも参戦の意思を示し、他の元冒険者たちと共に後詰めに回っている。
そして、オレも参戦する。
シュラークさんに教わった戦闘訓練をはじめ、『プロミスコクーン』や『聡き探索団』たちとの討伐など、それなりに戦闘の経験は積んでいる。
主力にはなり得なくとも、足手まといにはならないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
魔物来襲の報を受けたオレは、他の冒険者パーティーの魔法使いと共に望楼の上に登る。
魔法を使えるものは、可能な限り遠方から攻撃を行って少しでも敵の数を減らすためだ。
開戦の狼煙となる先制攻撃の開始が刻一刻と迫ってくる。
周りの魔法使いたちは、魔物たちがまだ射程距離に入らないのか、まだ魔法を打つ気配は見られない。
あれ?
でも、オレの感覚からすれば、すでに魔物の先頭は射程範囲に入っているのだが。
もしかして、オレの魔法はほかの人より射程が長いのかもしれない。
よし、効くかどうかはわからないが、一発放ってみようかな?
「えーと、届きそうなので行きますね。『土魔法』!」
オレは、以前に覚えた『土魔法Lv3』を使って、逆茂木のように石による槍を地面から生えさせて、一番先頭の魔物の正面に作り出し、少しでも敵の進軍速度を減らそうとした。
なのだが。
どがんどがんどがん
え?
目の前には、襲い来る魔物たちの前面をすべてふさぐにとどまらずに群れの3割くらいの範囲に突き刺さるほど大量の石槍が魔物たちを貫いたのだ。
「あ」
そういえば思い出した。
ついこの前、エキストラスキルの『専門家』を覚えてから、これまで軒並み低Lvだったオレの各種スキルが成長するようになっていたのだ。
ちなみに『治療魔法』はLv1からLv8に爆上りしており、以前にエフェリーヌさんが家庭訪問した先の、心臓が止まりかけたおじいちゃんを治療したことが記憶に新しい。
確認のため、ステータスを開いてみると、そこには『土魔法Lv9』の文字が。
ほぼカンストしとるやん!?
我に返ると、目の前には一瞬で3割ほど数を減らし、進軍が停止した魔物の群れ。
そして、周りには口を開けて驚く冒険者の魔法使いたち。
望楼の下、地上では遠くがよく見えないため何が起こっているのかわからないようで「今の音は何だ」とか、「魔物の足音が止まったぞ?」とかいろいろ混乱している。
みんな戸惑っているが、オレも戸惑っている。
感覚的には、かるくキャッチボールで投げたボールがいきなり160㎞/hをオーバーしたような戸惑いだ。
そうして戸惑っていると、目の前では味方の死体を足場にして石槍のエリアを通り抜けた魔物たちが再び進軍を始めていた。
おっと、我に返らなければ。さっきのをもう一回お見舞いしてやろうか。いや。
オレの頭の中に、日本で生活していたころのイメージが浮かんでくる。
「『土魔法Lv9』!」
使用したのはさっきと同じ土魔法。
だが、前回は石槍を出したが今回は違う。
魔物の群れの前に、城の堀のような大規模な落とし穴を作ったのである。
進軍してくる魔物たちは、次々とその大きな落とし穴の中に飲み込まれていった。
そして、お堀と言えば、水は不可欠。
追い打ちとばかりに『水魔法Lv8』で大量の水を生み出し、落とし穴が水で満たされていく。
落ちた魔物たちは穴をよじ登る事も出来ず、次々と水没してその数を減らしていく。
「みなさん! 突撃です! 敵は残り2割程度まで減らしました! 上位種に注意して殲滅してください! あと、落とし穴に落ちないでくださいね!」
一瞬の惑いと静寂の後、大きな鬨の声と共に冒険者や街の衛兵たちが敵に向かって行く。
それから約1時間後。
見事、スタンピードは鎮圧されたのである。
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