エピローグ

 ヴィルヘルムの手を握りながら薄暗い洞窟から出ると、朝日が森中を照らしていた。いつの間に夜が明けてしまったのだろう。

 ただ久しぶりに己の目で見る鮮やかな世界に、思わず感嘆の声が漏れる。


「わぁ……っ」


 小鳥のさえずりや、木漏れ日が美しい。まるで天上の世界だ。目が見えていた頃と変わりないはずなのに、不思議と周囲が輝いて見えるのは自分の意識が変わったからだろうか。

 ゆっくりと馬車で皇都に帰る間も、行く先々で町の人々に握手を求められた。道には花束を撒いて祝福してくれる者もいる。


「お前が聖女だという噂が、もう広がっているようだな。邪神から世界を救ったからだろう」


 馬車でイリーナの隣に座るヴィルヘルムが笑いながら言う。


(本当に良かったわ……)


 邪神教は悪行を働きすぎたのだ。イリーナとヴィルヘルムに感謝してくれた者の中は邪神教に妻と全財産を奪われた老人もいて、泣きながらイリーナに忠誠を誓ってくれた。自分達がしたことで、人々に間接的に大きな良い影響を与えることができたことを知れて、イリーナは嬉しかった。


(これから皇妃として……聖女として、頑張ろう)


 そう心に誓う。

 ヴィルヘルムの隣で、己を誇れるように。



 そして三ヶ月後、イリーナとヴィルヘルムは盛大な結婚式を上げた。

 そして皇宮の広いバルコニーで、多くの集まった民に向かってヴィルヘルムは改めてイリーナが聖女であると発表し、皇妃として迎え入れると宣言したのだ。その発表に民達は歓喜の声を上げた。

 純白のウェディングドレスを着たイリーナは愛しい人を見つめる。

 ヴィルヘルムも白の皇帝の礼装に身を包んでいる。それはまるで天上の絵画のように美しくて、つい、イリーナは見惚れてしまった。


「なんだ?」


 ヴィルヘルムは少し照れたように微笑んで首を傾げる。そんな彼を見て、イリーナの胸は幸せでいっぱいになる。


(ああ、なんて素敵なのかしら)


「いえ……とても格好良くて……」


 イリーナがそう頬を赤らめて素直に感想を言うと、ヴィルヘルムはイリーナを抱きしめる。すると人々から歓声が上がった。


「……やはり、お前に見惚れられるのは悪い気分でないな」


 そして再びイリーナを見つめてヴィルヘルムは言う。


「お前も、とても綺麗だ。誰にも見せたくないほどに」


(ああ、こんなに幸せで良いのかしら……)


 これまでの境遇を思うと、イリーナは夢でも見ているのではないかと思ってしまう。

 もう伯爵家を継げる者はイリーナしか残っていない。これからは皇妃と聖女の役割をこなしながら、伯爵領はヴィルヘルムとの共同統治となっていくだろう。


(とても忙しくなりそうだわ)


 それでも嫌ではない。これまで心読みの力以外に求められるものは何もなかったイリーナに、できることがこんなにも増えたのだから。

 ヴィルヘルムはイリーナの手を取って、その甲に口づける。


「もう夫婦になるのだから、そろそろ名前で呼んでくれないか?」


(あっ……)


 そういえば、まだ一度も彼の名前を呼んでいない気がする。しかし、いざ呼ぼうとすると緊張してしまった。イリーナは少し頰を染めて、おずおずと彼を見上げる。


「では、その……。ヴ、ヴィルヘルム様」


「様はつけなくて良いぞ?」


「で、ですが……」


 イリーナがモゴモゴと口ごもっていると、彼は悪戯っぽく笑う。そして耳元に顔を寄せて囁いた。


「早く慣れさせてやるからな」


 その言葉にイリーナは耳まで真っ赤になってしまう。そんなイリーナを見て、ヴィルヘルムはまた機嫌良さそうに笑った。


「──イリーナ、愛している」


「私も……ヴィルヘルム様を愛しています」


 ようやく本当の気持ちを伝えられる。それが、とても嬉しかった。

 イリーナは再びヴィルヘルムに抱きしめられる。もう二度と離さない、というように強く。

 愛する人と生きられる喜びを噛み締めながら、イリーナはヴィルヘルムの腕の中で微笑むのだった。




============================


(あとがき)


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!

まだ書き足りない気持ちはあるのですが、ひとまずこれで、イリーナとヴィルヘルムのお話は終わりとなります。

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今後の創作のモチベーションが、めちゃくちゃ上がります!

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なにとぞ、よろしくお願いします!


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!


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余命一年の心読み令嬢は、冷酷非道と噂される皇帝に溺愛される 〜陛下、本音が甘すぎます…!〜 高八木レイナ @liee

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