こんなの感想かけねーっすよ!
ってのが正直な今の感想。
クソデカ感情でぐちゃぐちゃにされた感触に関しては言語化が難しいので、言語化が簡単な枝葉の話からします。
次々に緊張感を生み出してくるので止まれなかった。動物って不確実なものは解決したいという本能があって、すなわちそれが原始的な好奇心で。話の緩急は一見地味なのに読むのが止まらないものって、この不確実性と緊張を出して読み手の本能をフックするのがうまくて、俺はそれを好奇心ドリブンって勝手に呼んでます。ホラーなんかがそのわかりやすい典型です。
不確実性と緊張を解決したいという本能とそれが達成されたときの神経科学でいうところの報酬が、与えられるストレスよりも上回ることによって「なんでこんなにも傷つけられながら読む手を止められないんだ」という娯楽が成立する。
この作品は少なくとも俺にとっては好奇心ドリブン小説だった。簡単にいえば「どうなっちゃうんだよ!」ってやつ。安っぽく聞こえてたらすみません。
ディアの時も感じたのですが、つるさんの作品はこの「不確実性と緊張感を出して読み手の本能をフックする」速度感が現代的だなぁと思ってます。割と計算してやってるのかなぁとも思ったり。道具としてそれをうまく使って、なかなか人が踏み込みにくい重いものをずんずん読ませるようにしてる。
不確実性と緊張の開放と解決が、暴力によってなされるのもすごい。非常に丁寧にそれがただの不快な行為にならないように、それでいて都合のいい人物像にもならないように綱渡りしてる。暴力によってされるせいで、それが報酬であると同時に新たな不確実性と緊張になってるから無限ループなんだよなぁ。それをずっと続けて、最後に真の開放がくる。
読み手の気がそれたり白けたりすると好奇心ドリブンはうまく機能しないので、読んでて文章に引っ掛かりがなくて五感がぞくぞく刺激される表現力が基盤にあるからこそと思います。今回は本当に文章が一段垢抜けてて (なんかこの言い方も上から目線ですみません、うまい表現がみつからなかった) 五感がフル活動ってかんじでした。
梨を切ったときの白とか、香りとか。あのみずみずしさで光がテラっとする感じとか、かじったときの音も。肌の白さも、夏の日差しも。そして何度も登場する印象的な場所も。モチーフがあって、それらとの五感の繋げ方、連想のさせかたも自分とうまく波長があってた。例えるなら美術監督がいい仕事してるなー感。
ここまでは枝葉の話です。
可能であればどう心を動かされたかについて書きたいのですが、これがむずかしい。言語化してしまうと別物になってしまうような。かれこれ二十分くらい悩んでますが諦めました。
おそらく単に、自分でもよくわかってないんだろうな。
でも、これを言語化できるようになることだけが正しい読書ではないと思う。
言い訳ですが。
とにかく最後は喉の奥が熱くなった。
よき体験でした。
ありがとうございました。
作者からの返信
八軒さま
読了有難うございました。
また「書けない!」と仰いながらもこんなに長いコメント、ありがとうございます……!
今作はいままでとまったく違う作風で(通じるところはありますが)こちらを八軒さまがどう捉えるかどきどきしながら通知を見ていました。結果、お心に残ったようなら、なによりです。
「どうなっちゃうんだよ!」と先を読ませるフック、八軒さまが言うところの「好奇心ドリブン」。満ちていましたか、よかったです。重苦しくセンシティブなテーマを含んだ作品なので、どこまで読み手がついてきてくれるかはすごく気になっていました。重苦しくはあっても、エンタメでありたいとは思っているので。
ただこのフック、私はあんまり意識的に使ってる自覚はないのですよね。ディ・ア・レ・ストのときから展開が早いのは特色だと思っているのですが、それよりは抑えたつもり、くらいしか。結構感覚でやっています。ここのへんでこういうシーンがくるといいかな?くらいの。とくに今回はプロットの立て方がまず各話の「時代を決める」→「その時代の世情を調べて登場人物がどう感じたかを考える」というところからストーリーを練っているので、ストーリーの組み立ては、自分でもいつも以上に先の見えない感がありました。暴力がフックの推進力になっているのも、ご指摘いただいてはじめて「なるほど」となるなど。テーマが「暴力」「性」「時代」みたいなものなのと意識して書いてたので、それが滲み出た感じでしょうか。ともあれ、こうやって自分が無意識に書いてる部分をこうして言語化して下さるのはありがたいです。
文章の表現力も今回は力を込めた部分ですので、そこに目を留めて頂けたのもうれしかったです。とくに梨の描写はキーなので心を砕きました。よかったです!まだまだ語彙力も表現力も足りないと日々思っていますので……。
感想の言語化、むずかしいですよね、これ……。他サイトでも連載していたのですが、そこでいつも「言語化の鬼」みたいなコメントを書いてくださる方がいるのですが、最終話にその方が「語彙が見つからない」とだけ書いてくださったのを見て「そうか……」とは思ったのですが、肝心のわたしでさえ、いまもこの小説をどう紹介すればいいかわかりません。良太郎と邦正のエンドも、書き上がったとき「こうなるんだ……」とちょっと呆然とした記憶があります。でも、それでいいとも思っています。読んだ方が彼らの生き様になにか感じていただければ、この作品はそれでいいと思っています。八軒さまが「喉の奥が熱くなった」と言い表してくださったのは、そういうことだと思うので、読んでくださりほんとうにありがとうございます!としか、もう、わたしには言葉がありません。
今回もありがとうございました!
感謝いたします。
ひたすらに複雑な感情が押し寄せてくる凄まじい作品でした。
それぞれ過去やお互いに囚われて苦しむ二人の内面と人間性が深く描写されていて圧倒されるばかりです。
壮絶で目を離せない人生を結末まで読めて感慨深いです。
作者からの返信
右中桂示さま
読了ありがとうございます。通知を拝見するたびに「今あの箇所を、どう感じておられるだろうか」などと思っていました。じっくり読み進めて頂きましたこと、感謝いたします。
わたしは「人間とはままならないもの」「理性ではどうにも出来ないことがある」という考えを創作にも滲ませることが多いのですが、それを説得力ある描写で描き出していられたら幸いです。凄まじいとのお言葉、うれしいです。人間の交錯する感情を鮮やかに切り出せていたら良いな、と思います。
彼らと一緒に昭和を駆け抜けてくださり、ありがとうございました!
彼らの行く先や想いの交差に、のめり込んでしまいました…
最後にした決断は、邦正が考えに考え抜いた復讐、かもしれませんが、そこにはその一言では言い表せない言葉が相応しい気もします。そこに優しさもあるような、邦正さえも理解しがたいような、認めたくない言葉。
「男」に取り憑かれてしまったかのような良太郎も、邦正がいたからこそ、その事実に最期、気が付けたのかもしれませんね……
とても読みやすく、時代情景も感じられて心地よかったです。
素敵な物語をありがとうございます!
作者からの返信
凛々サイさま
一気に読了ありがとうございました!
なのに、お返事遅くなりスミマセン!
のめり込んでしまったとのお言葉、嬉しいです。自分でも訳の分からん変な熱量を持って書き進めた作品ですので。
仰るとおり邦正の最後の決断は、良太郎への究極の復讐なんですけど、ほんと、この感情をなんと呼べばいいのか。正直いってわたしにも分かりません。きっと誰にも理解できない、本人でさえ理解できない感情。でも人間は多かれ少なかれ、そういうものを内包して生きていると思うんですよね。
ふたりの行く末を見届けて下さったこと、心より感謝申し上げます。
編集済
素晴らしい読書体験でした。てんえがに引き続き、魂を語彙ごと持っていかれました。それほど素晴らしい筆力でした。圧巻です。
この作品は良太郎の視点で書かれていますのでどうしても良太郎の男性性の方に目が行きがちですか、邦正もまたこの時代の男性性と戦ってきた男なんでしょうね。
小児麻痺で子供の頃から足が悪いということは、同年代の男の子達のように駆け回ることもできず、男としての劣等感を募らせてきた幼少期だったのでしょう。それを、明らかに男性の象徴であるような良太郎を蹂躙して否定することが、まさに彼の「男性性」に対する戦いだったのかもしれません。でも彼が孫にかけた、男とか時代とかに囚われないで好きに生きろという言葉が邦正の本心なんでしょうね。そう思うと、邦正もまた時代に翻弄された男だったんだなあと。
なんかもう、言葉にできないくらいにいい作品を読んだという気持ちでいっぱいです。これはまごう事無く文学ですね。いつもつるさんの作品には情緒をぶん殴られていますが、こんなに等身大の人間を鮮やかに描き出すweb作家さんを他に知りません。ぜひ多くの方に読んでもらいたい名作です。素晴らしい作品をありがとうございました。
作者からの返信
花さん
読了ありがとうございました……わああ、読んでいただけてよかったです。そしてとてもとても、勿体ないお言葉を頂いてしまった……うわあどうしましょう!ありがとうございます!
良太郎に対して、邦正にはずっと「時代にも親にも求められなかった人間」というコンプレックスがあったと思います。そんな彼を唯一認めてくれたのが馨だったわけですよね。だけど馨は良太郎に奪われてしまう。それゆえの憎しみです。戦後は戦後で、おそらくなんらかの手で自分で社会を変えようとしたけれど、結局それにも挫折している。邦正も仰るとおり、いろんなものに囚われた人生だったかと。だから、彼は孫にああいった遺言めいた言葉を掛けざるを得なかったんですよね。
「人間が書きたい、なら、なんのジャンルでも良いじゃないか」と思って挑戦した作品でした。めちゃくちゃ背伸びした感はあります。目指すところまで届いたかも分かりません。でも、花さんの心に響いたのが何より嬉しいです。
書いて良かったです!
何かもう言葉がないです。
完膚なきまでに叩きのめされました。
多分、「男とかどうとか関係なく自由に」のアンチテーゼで良太郎が、そして「私情に取り憑かれ自由をなくす存在」として邦正がつるよしのさんの中で生まれたのかなって思いました。
すごい作品だったな……。
レビューしなきゃ。
作者からの返信
飯田太朗さま
ありがとうございました!読了、ほんとうにありがとうございました!!
ここまでの熱量でお読みくださいましたこと、心より感謝いたします。改めましてレビューもありがとうございました。
強さ。
自由。
仰るとおりそれらを追い求めたふたりの昭和だったと思います。こんな結末ですが。
また、たまにでも良太郎と邦正のことを思い出してくだされば、これ以上の幸せはありません。渾身の一作、お届けできて良かったです!
んーむ、ありがとうございました。
うぅむ、最後までぶれない二人の、何と言うか、在り方、感情、んーっ、表現が難しいにゃ、よし、諦めた。余韻に浸るのに専念しますにゃ!
完結、お疲れ様でした、おめでとうございます、それより何より、読み応えのある素晴らしい作品、ありがとうございました!!
作者からの返信
@hikagenekoさま
読了ありがとうございました。お返事遅くなりすみません。今回も最後までお付き合いくださり、感謝に堪えません。@hikagenekoさまにはほんとにいろんなつるの姿を見ていただけているので、お読みいただき緊張もありましたが、追いかけてくださりとても嬉しかったです。
もう、この作品に至っては、ただただ受けたご自身の感情に浸っていただきたいです。わたしもこのラストをどう言い表したらいいか、よくわかりません。
ほんとうにありがとうございました!また別の物語でお目にかかれれば幸いです。
完結おめでとうございます!!
うわーーーーーーーーー……!
まず亜紀ちゃんの「梨って『ありの実』ともいうらしいね」でうわーーーーーー!でしたね。
実は前回、良太郎は良かったけど、邦正はそれで良かったのかな、と気になっていたんです。
これから邦正は、良太郎が受けるべきだった分の罰まで独り占めして残りの人生を送るんでしょうか……あの時に割った梨……自分だけが彼の秘密を抱え込んだままで……ングゥ(窒息)
ある意味でこれ以上ない愛のようにも思えてしまってもう、ウワァァァ……
最初から最後まで素晴らしかったです。
ちょっと、しばらく余韻でぼーっとしときますね。
毎回の更新が本当に楽しみでした。ありがとうございました!
作者からの返信
陽澄すずめさま
読了ありがとうございました。お返事遅くなりすみません!また、あらためてレビュー、また各話のコメントもありがとうございます。陽澄さまのコメントを読みながら読み手の感情を探って行くことができ、その結果推敲して書き直したシーンもあります。とてもありがたかったです。
こういう帰結になりました。人間はどこまでもままならない、理性だけでは生きられない、という自分の考えや実感が色濃く出たエンドだと思います。邦正の選択はきっと誰にも(なんならわたしにも)理解し難いものでしょうが、彼ならこうするだろう、という妙な確信がありこうなりました。良太郎への愛も憎しみも、罪も罰も、みんな自分が背負うことで復讐の終わりとする。と書くと、ほんとわけわかりませんね、こいつ…。
各所で「梨」の描写にも注目していただけたのが嬉しかったです。「なし」か「あり」か、という言葉遊びがしたかったんです。もっとも舞台を梨の産地に決めたのは偶然なので、それが後付けで意味を持ってきたのはわたしもめちゃくちゃ意外で面白い経験でした。
ほんとうにありがとうございました!
く、邦正さあん!!
お別れを言うように「母さんを大事にして」という辺りから怪しい気がしていましたが、穏やかな最後すら捨ててしまうなんて……!
あの事件の事はいずれ誰かが決着させなければ終わらない、という気がしていましたが、死後に良太郎を辱めるのではなく、実行した人間であることすら世間には知られない形にしてしまう、そこまでするほど良太郎の存在に囚われていたんですね。
最後の最後で良太郎を救ったのはたぶん邦正だったのだと思いますが、憎んでいた一方では「愛し愛される人間になれない」良太郎を憐れんでもいて、亜紀への優しさに感謝もしているという、その複雑さからこの最後の行動の意味を別の意味ににも見せている気がします。
良太郎を理解できる人間は自分だけでいい、とでも言うような。
途中何度も「良太郎のあほー!」と思いながら読んでいましたが、最後まで読めてよかったです。最後は「邦正もあほー!」って思いましたが。愛憎でここまでドロドロした話は初めて読んだので、また機会があったら読んでみたいです。
作者からの返信
しらすさま
読了ありがとうございました!お返事遅くなりすみません。
邦正、アホかな?ってわたしも思います。頭がいい奴ほど常人に理解できない行動をとるというか、なんというか。ほんとは本編最終話で締めれば綺麗にまとまる話だったとは思うんです。でもわたしの頭の中の邦正が「僕ならこうします」って主張してきて、こうなりました…。
最後に邦正のなかにあった感情はなんなのか。これはわたしも言葉にはできないもので。愛ではない、でももう、純粋な憎しみでもない、だけどすべて許すわけにはいかない。そんな葛藤の賜物なんだろうとしか。結局、どこまでも良太郎も、邦正も、人間だったんだと思います。理性に、規範に、時代に沿って生きようとし、でも揺れ動く感情がそれを許さない。そんな人間の姿が書きたいと思い書いた話でした。言葉ひとつでまとめられませんが「人間だった」としか書き終わった今も、わたしには言い表しようがありません。
最後までお付き合いくださり、ほんとうにありがとうございました!感謝です。
完結おめでとうございます。
ここまで息を詰めて拝読いたしました。
ヒリヒリするような二人の感情にずっと揺さぶられ続けました。
良太郎はあくまで自身の生を生きたように思います。もちろん、そこに深く消えない傷痕を刻み、彼から男性としての幸福を奪ったのは邦正ですが、それも良太郎自身の行いの帰結と言えるのではないかと思います。
ただ、戦前という時代の感覚では、良太郎はさして悪いことをしたわけではないということになるのでしょう。
この時代が彼の中に育てたある種の傲慢さを、良太郎は生涯自覚することはなく、けれど邦正はそれに良太郎の死後も囚われ続けるのですね。
義兄さんは狡いんだよ、この一言がとても胸に来ました。
最後まで孤独に生きた(生きざるを得なかった)良太郎に対し、邦正は家庭を持ち、孫まで生まれ、はたから見れば彼の方が戦後という時代を上手く生き、幸福を得たはずですが、結局それらより、既に亡い良太郎の生を無かったものにするための道を選ぶのですね。
邦正の人生を象徴する選択だと思いました。
振り返ってみれば、この二人の人生は何だったのか――感情というもののある種の恐ろしさを感じずにはいられません。
とても引き込まれる素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました。
作者からの返信
Skorcaさま
読了ありがとうございました、そしてお返事遅くなりすみません。
ふたりの帰結、このような形になりました。結局はどこまでも、良太郎も邦正も、己を生きて、なお自由にはなれなかった、だけどそれに満足はしている、みたいな結末です。
良太郎は戦前の規範に死の寸前まで囚われ、邦正は良太郎という憎き仇に囚われ。ほんとうは無視し、でもどうにかしてやりたい相手に固執し、どうしようもなく人生を撹乱されていくふたりの男が書きたかったので、このようなラストにしました。
仰るとおり感情とは恐ろしいものだと思います。わたしの創作のベースにはいつも、人間理性だけではどうにもならないことがある、というものがあるのですが、それを昭和という舞台を借りて極大限に書き出そうと思ったのがこの梨子割です。口当たりの悪い話だとも思います。それに最期までお付き合いくださいましたこと、感謝に堪えません。
なお、「義兄さんは狡いんだよ」の台詞は、脱稿後、推敲に推敲を重ねて、更新前日に付け加えたものです。書き加えてよかったです!
こんにちは、お邪魔します!ここ数日(耳でですが)読ませていただきました。今日は移動時間が多かったので、なんと最後まで来てしまいました…!!途中で感想を挟まなかった(なんかもう挟めなかった笑)のでちょっと長くなるかもしれないんですがお許しください。
いやあ、圧巻でした…!梨は好きな果物ですが、きっと今から見るたび食べるたびにこのお話のことを思い出しそうです。私は普段ファンタジーかミステリしか読まないという極端な人間なので、こういう骨太でリアルなお話で殴られるのに慣れていません。戦争映画なんかも入り込んでしまうのであんまり観なかったりします。が、面白かった…!緊張であれ不安であれ、何かの感情を掻き立てて「先はどうなるんだろう」と思わせることが物語の一番の仕事だと思っているので、最後まで読ませる力に溢れているこのお話の完成度が高いことは間違いないと思います。
他の方みたいにすぐれた分析はできないので、感じたままのことを書きますね。暴力からはじまる冒頭シーンや良太郎の「男の強さ」という価値観の形成は、もう今の時代では失われてしまったやりとりばかりで単純に新鮮でした。別に良太郎が特別ひどい男というわけじゃなく(むしろ真面目で勤勉ですよね)、こういう「時代」だったんだなあと強く感じさせられます。そして美しく強烈な印象の双子と過ごす子供時代もまた鮮やかで…。こんな双子が近くにいたら狂わされますよね。馨を「啜った」喜びも、女としては胸糞なシーンなのになんだか乾いていた喉が潤っていくような感覚が…あ、私もいつの間にか梨症候群になっている??w
やっと手に入れた梨を味わう暇もなく厳しい戦地へ行くのもさすが。描写すごすぎる…。調べられた資料の量を思うと頭が下がります。私も実は編集の仕事で満州引き揚げの自伝をお手伝いしたことがあるんですが、戦時中って本当に違う世界ですよね。良太郎、心が壊れずに帰ってきただけやっぱり強い男です。それもこれも馨という希望があったからこそなのに、帰ってみれば彼女はいなく…。そして待っていたのが邦正で、あああお墓のシーンってここー!!ってなりました。屈強な男が組み伏せられているの大好きマンですが、このシーンはまた違う味わいがありますね。邦正、おそろしい子…。
その後はあの日の衝撃から抜け出せずに、でも世の中はどんどん進んでいくという描写が見事でした。読者の心も全然世の中の進化についていけず、良太郎と一緒に呆然とするばかりです。実際彼の個人的な事情は抜きにしても、元兵士の方ってこういうやりきれない思いだった方も多かったんじゃないかなあと思います。けれど孝敏との出会いからは一転、復讐計画という熱くて黒い想いを抱えた男になっていき、ああ「良太郎」が帰ってきた!という謎の応援心が湧き上がってきました。いやどちらに肩入れしたらいいのかわからず読んでいたんですけども。誰の心情の元にも落ち着けない、それが梨子割。ひとを殺すために生きている、というのはなんとも不思議な状態ですよね。嫌いなの?いっそ好きなの??という…。しかもまた、ちょっと結局ひとが二人も死んじゃったというなんとも痛い結末!孝敏ィ!でもお金ちょっとくすねてたから因果応報だね!!双子の父親殺しの真相もまたゾッとしました。なんなのこの双子…(すき)
ここで痛み分けかと思いきや、なんと今度は邦正の娘が登場という。やっぱり良太郎の人生は梨子の香りから離れられないんですねえ。でもここで亜紀ちゃんに復讐の炎を差し向けなかったこと、本当にすごいと思いました。先にも書きましたが良太郎って獣みたいな激しい気性だけどきちんと生き残るためのライン引や賢さ、冷静さもあると思っています。亜紀ちゃんをただの子供として扱って世話を焼いたのは、そういう彼の「良いおとな」の部分があったからじゃないかな…と感じました。自分は決して守られた子供ではなかったけれど、今の時代を生きる子供までそういう目に遭わせたいんじゃないというか。復讐のチャンスではあったのに、ここを梨のようにすぱっと半分に切ることができない良太郎、本当に人間くさくて良い人物だなあ。
何気にちゃんと仕事して出世もして、独り身ではあったけど何もなければ穏やかに終われそうな人生。でもちらちらと浮かぶ哀愁と憎悪と、そして「男」としての価値を自分に見出せない諦観。華やかになっていくばかりの世の中と比例するようで印象深かったです。亜紀ちゃんの件もあって、邦正との関係も変わって…………変わってない!!最高!!!!(突然のクソデカ感情爆発)私が一番このお話で心打たれたのはその点でした。じいさんになってもこいつら……変わってない!!!!(大拍手)男なのに色っぺえ邦正(ただし毒蛇)と、つよい男になりたくてもがいている良太郎(ただし不憫)。ふたりが最後までずっとふたりだったのが最高でした。ちょっと上手く言えなくてすみません、伝わって…^q^
ハピエンとかメリバとか、そんな形式には収まらないラスト。ここにきての邦正視点すごかったです!何を考えているのか最後のお話でようやく分かった気もするし、さらに彼(と馨)に対しての謎や闇が深まった気もします。お互いに相手を消してやりたくて、それが一番消せない方法だったなんて…これって結局愛?なのかな。恋なのかな。いいえ梨子割です。それしか言えない。
今までで一番謎な感想になってしまいましたすみません…。とにかく非公開までにお邪魔できてよかったです!(T ^ T)きっと数日後に「あれはああだったのではないか!?」などと気がついている自分を予感しています笑 今はただ、なんというか…梨子たべたい。だめ、なんかもう梨がアダムとイブの禁断の果実みたいなやべえフルーツの印象になってしまいました笑。たぶんこの秋に親族から「梨食べるー?」って誘われても「梨だとぉ…!?」って構えちゃいそうwww大好物なのにどうしてくれるんですかよしの先生!ww最後に謎のクレームを入れる形にはなっちゃいましたが、素晴らしいお話をありがとうございました!!
作者からの返信
ぶんさん
読了ありがとうございます……!ほんとお忙しい中ありがとうございました……。昨日今日とぶんさんのコメントを浸って読んでおりました。
感じたことだけ、といいながらもめちゃくちゃ長いご感想いただけて本当にうれしいです。人を選ぶ話だよなあとはいつも以上に自覚があるので、最後まで読んで頂けただけでも嬉しいのに。泣いちゃいますよこんなん;;
この作品は柄にも無く「男性性」とか「暴力」「性」とかに踏み込んで書いてみたいと思って、その象徴のしての良太郎という人物、それに相対する邦正、というところから話を作っていったんですけど、まさに仰るとおり「こういう時代」があったんだよなぁ、というところからしか成り立たない話でもあって。とても遠い時代に見えて、でも掘ってみるほどに自分もその地続きのなかで生きている、っていう実感が出てきて、そこが一番書いてて面白かったところでしょうか。とはいえ、わたし、昭和50年代生まれなんですけどね……。
満州引き揚げの自伝……うわーそれをお手伝いしたのなら、わたしのへっぽこ資料探しなんかよりもよっぽどお詳しいと思います。へんなとこあったらすいません……(震え)戦時中やシベリア抑留のことは阿呆みたいな気力を絞って調べたつもりですが、調べても調べても、今の人間にはわからん、みたいな部分がたくさんあって。ほんとあの渦中で心壊さなかった人間は強いですよね……そんな良太郎を帰国した途端に木っ端微塵にする邦正はやっぱり恐ろしい子……!
ああなってしまった良太郎を戦後、奮い立たせるにはどうすりゃいいんだ?と考えた挙句「こいつを動かすのは結局暴力衝動なんだよ」と至り孝敏の登場となるのですが、ここで「帰ってきた良太郎に謎の応援」ってのがうれしいですね。良太郎はほんとうに褒められた人間では無いんですけど、すごく凡人で、戦後を生き抜いた中で身につけた社会性もあって、それが後々の亜紀への対応にも繋がっていくんですよね。そういう彼は「こいつほんとどうしようもないな……」と書きながらも、わたしも応援したい気持ちはあって。邦正に殺意を燃やして生きていく、って、ほんとにもう矛盾の塊だし「嫌いなの?いっそ好きなの?」っていうクソデカ感情でしかないんですが、そうとしか生きられなかった彼がわたしは愛しいですね。本当に傍に居たら殴り倒す気もしますがw
そんな良太郎、そして邦正が最後まで「良太郎と邦正」だったところにクソデカ感情の大爆発、ありがとうございます……!とてもうれしいです。内面の変化はありつつも、それでも表に出るやりとりは、じじいになってもこいつらはこいつらでしかないので……。お前ら常務室を何だと思っているんだーッ?と思いつつも、人間の変わるところと、それでも変われないところをこのふたりに託せて書けたのは非常に面白かったです。
ラストもほんとうにねえ。わたしも書き上げたとき「なにこれ?なんなの君たち?」ってなって、正直いまも言葉がありません。わたしは「どう生きてもどう言われても、その人間の人生はその人間のものでしかない」っていう考えの持ち主なんですが、ラストの邦正はまさにそのわたしが滲み出た格好になりました。だから「愛なのか恋なのか。いいえ梨子割です」という感想はすごくうれしいんですよね。なんかそういう自分の思いがひとつの作品としてかたちになった証のように感じてしまって。
梨。ヤバい食べ物にしてすみません。わたしも、いまから秋のスーパーの果物売り場を変な顔で歩いてしまう自分が見えます。生涯、梨を見るたびに変な微笑を浮かべてしまいそうです。できれば、ぶんさんもそうであってほしい(こら)
なんか今だけかも知れないんですけど、この作品を書いたことで「もうこのあと何も書かなくてもいいかな」くらいの自分になっているわたしがいます。まあ、これからもなんだかんだと書くんでしょうけど、今死んだら「あのヤベえ梨の話書いた人」で思えてもらえるのいいな、とか思ってる自分がいます。
そういう作品を楽しんで読んでいただけたこと、感謝しかありません。ほんとうにしあわせです。
ありがとうございました!