最終話

 今日も相変わらず、雲一つない快晴だった。

 頬をそっと撫でる微風はとても優しくて、大変心地良い。

 さんさんと輝く陽光をたっぷりと浴びながら、穏やかな時をただ満喫する。

 いつまでもこんな平穏な時がずっと、続いてくれることを雷志は切々に祈った。

 ゆったりと流れる雲をしばし眺めていた雷志に、その訪問者はひどく焦っている様子だった。

「――、ちょっと雷志さん! いつまでそうやって休憩してるんですか! 速く戻ってきてくれないと仕事が終わらないですよ!」

「……休憩してまだ10分しか経過してないんだが?」

 余裕がまったくないマコトに、雷志は小さく溜息を返した。

 一度退職した彼だったが、再びドリームライブプロダクションのスタッフとして働くことになった。

 一旦退職した人間が再び戻るなどカッコ悪いことこの上ない。

 だが、社長をはじめとする面々からの強い要望があれば、逆に断るのも気が引けた。

 もう一度だけ、スタッフとして働いてみるのも悪くはないかもしれない。

 なによりもここにいる方が、守りたいと思える者たちを守ることもできる。

 だからこそ、せめて休憩時間だけはしっかりと確保してほしい。雷志はそう、すこぶる本気で思った。

「――、雷志さん! カエデの配信にまたゲストとして来てくれませんか!?」

「ウ、ウチのお料理配信の審査員役として出てほしいなぁ……なんて」

「某とゲームやるぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 穏やかな静寂に包まれていたはずの屋上が、一気に騒がしくなった。

「……相変わらずここは賑やかすぎるな」

 がやがやと賑やかになった雰囲気に雷志は静かに、その口元を優しく緩めた。

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取り残されたのは拳皇でした~無人島で武者修行していたら世界が一巡していました。とりあえず新しくなった世界でハードライフを楽しみたいと思います~ 龍威ユウ @yaibatosaya7895123

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