生まれる前から引きこもり

@tyeri-

生まれる前から引きこもり

オレの目の前にソレが置かれた。オレの周りに居る同種は次々にソレを捕食しだす。

「どっから食へば良いものか・・・」と独り言を発すると、隣で捕食していたものが「常識では旨いものから食べるともいう」とアドバイスを独り言のようにオレに与える。オレは、同種と同じように同種の旨いところから食い始めた。旨い。


 あれから5年の時がたった。今日のソレは、隣の同種だった。決まりに反した行動をとったらしい。5年前の姿とは変わり果ててソコに出されていた様子でソレが目の前に置かれた。当たり前のように同種はソレを捕食しだす。オレも同じように捕食しようとしたが、どっから食らえばよいのかわからなくなった。ので、捕食しなかった。


 あれからいくつかの時がたった。ナカがざわついてるところにあいつが水を差しに来た。みな、文句の一つも言わずに我慢した。それが礼儀だ。みな、あいつに見られるようにその身を唆した。今日はオレと異種が選択に煎れられた。オレは気分ではなかったので、「お先にどうぞ。遠慮なく。」といい、譲った。異種は喜びの面を掲げながら、出口又は入口へと進んでいった。


 今日はジゴクを見てきた。この間外に出た異種が殺されていた。あまり詳しくはわからないが、ギャクタイ?というものによって死んだらしい。異種の体はハエがたかっていた。その隣で大人は交尾をしていた。狭い部屋の奥には、やせ細った13歳の汚いオナゴが縮こまっていた。あのオナゴもそろそろ異種と同じところに行くだろう。やっぱり外は危険だ。


 あの異種が死んでから2年の時が流れた。ナカは2年前とは見た目は変わっていないが、中身が変わってきている。最近仲良くなった同種がいる。そいつはオレと同じで外に出ることを好まない。ので、あいつが水を差しに来るたびに一緒に影を潜め続けている。そいつにはとても印象深い出来事がある。4年前オレが、「お前は容姿が整っているから外でも苦労しないだろう」と言ったことがあった。その時同種は、 「今ならナカが世の中よりも旨い。」と気難しいことを発した。オレがどういう意味だと聞き返すと、「常識だと旨いものから嗜むんだろう?」と返答をよこした。それを聞いたとき、当時の俺は昔あった隣の同種を思いだした。オレはこいつもそういう一面が大好きだ。


 今日は異種が死んでからちょうど5年の月日が流れた。突然異種のことを思い出し、外を見に行った。5年前死ぬと予言していたオナゴは、生き延びていた。あれからジソウというところに預けられ、生き続けているらしい。外もどんどん変わっていってるみたいだ。少しだけ外に対する嫌悪感が減った。そろそろでてみるのもありかもしれない。


 オレの仲のよかった同種は今日外に出た。オレが嫌悪感が減ったといってから僅か半年後のことだ。どうやら死にかけの18歳の魂と変わるらしい。よくわからないが、幸せになることを願っておこう。オレもそろそろ頃合いかもな。この頃あいつに眼をつけられている。出ていくなら、幸せなところがいい。


 今日はいい日だ。仲のよかったあいつが出てから、2年がたった日だ。親友ができた。親友は常識に囚われない自分を貫くかっこいい奴だ。やっぱりナカは最高だ。正直ナカに魅力を感じなくなったので、外に出ようか考えていたこの頃だったが、こいつがいる限りは、外に出るのはやめておくことにする。出ていくときはこいつがいなくなってからだな。まぁまだ先の話か。


 今日は親友ができてから、半年がたった。どうやらあの例のオナゴ・・・いや、女性が結婚したらしい。それもオレの仲の良かった同種と。少しうれしい。13だったオナゴも、今じゃ21も大人な女性だ。幸せになれてよかった。報われてよかった。なんだか気分が誇らしい。このことを親友に話すと、どこかさびしい目をしながら共感してくれた。今日は忘れられない日になるだろう。


 これよりも苦痛な日はあっただろうか?ショックで今すぐにきえてしまいたい。  おめでたい日から5年の時が流れた今日、親友が死んだ。いや、殺された。あいつは常識を破りすぎたらしい。過去にもそういうやつがいた気がする。もう忘れてしまった。でも、頭が親友のことばかり考えてしまって働かない。そして今日踏ん切りがついた。オレも自分を貫いて捕食されるならば、ジゴクへ、いや外へ出る。今度あいつが来たときに、名乗り出てみることにする。どんな運命でも受け入れよう。それが俺のスタートラインだ。


 今日が最後の捕食だ。皮肉なことに、最後の捕食は親友だった。変わり果てた親友に嗚咽がこぼれ出そうになる。それを喉の奥に押し込み、食事を始めた。食へば食うほど、眼から啼泣がこぼれ出る。そうこうしているうちに最後の一口までになった。旨いものから食っていたせいで、最後はとてもまずかった。オレの選択は間違っていたのだろうか?


 あいつに連れられて出口という名の入口の前にきた。入る前にナカを見渡し、子宮へオレは入っていった。もう何も怖くない。だって落ちるところまで墜ちたから。

 そうして俺は1年というながい眠りについた。


 一年ぶりに眼が覚めると、眩い光に包まれた。頭からすべてが抜けていく感覚がする外はどんなところかはまだ詳しくわからない。でもこれだけはわかる。

 俺は幸せになる。親ガチャ大成功だ。なんだって仲のいい同種に、あの女性の子供だ幸せにならないわけがない。親友の分まで幸せになるんだ


 ※記憶の削除を完了致しました。






 

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