第3話 死ね神!

生まれて初めて愛した男に

気持ちいい事した男に騙されて蹴られて

お金も取られて

あれから10数年・・・


華やかだったキャバクラ『Pink・Pop』

豪華だった熟女パブ『Blue・Diamond』

と渡り歩き

今は小洒落こじゃれたスナック『Happy』で

働いている・・・


そして、高山ニカ 52歳

本物の愛を手に入れました~!

お相手は幸彦さん58歳

『Happy』の常連さんで

イケメンじゃないけど

お金も、そこそこしか持ってないけど

月に二回しかデートできないけど

✕✕✕も一回しかできないけど・・・

でも、でも、ニカを愛してくれてる

その気持ちは本物よっ


今夜は幸彦さんとデートなの~

✕✕✕した後に幸彦さんの腕の中で

幸せなひと時


「ニカちゃんは本当に可愛くて

 優しくて癒してくれる

 カミさんとは大違いさ」

「ねぇいつニカと結婚してくれるの?」


「もう少し待ってよ

 あの女、なかなか離婚してくれなくて」

「可哀想な幸彦さん

 家事もしない意地悪な女に縛られて」


「だからニカちゃんだけが

 僕の心の支えなんだよ」

「えぇ私がいつでも癒してあげるわぁ」


「さぁもう帰ろう

 遅くなるとカミさんが怖いから」


早く結婚したいけど

今は腕を組んで歩くだけでも幸せ・・・


「アナタ!ラブホテルで何してたのよ!」

「あっ・・・明美!どうして・・・」


「浮気がばれないと思ったの⁉」

「いや、これは違うんだ」

「幸彦さん、この女は誰?」


「私は妻です!」

「あなたが、ろくに家事もしないで

 文句ばっかり言って離婚してあげない

 意地悪女ね」


いい機会だわ、幸彦さんの代わりに言ってやる


「幸彦さんはね、

 ろくでなし女と離婚したいのよ

 あなた愛されて無いのよ、

 私と結婚して幸せになりたいの、わかる?」

「はぁー!誰がろくでなしよ!

 アナタ、私と離婚して

 この女と結婚したいの⁉」

「そんな事あるわけないだろ

 僕は家庭が、明美が一番大事なんだから」


「じゃぁなんで、こんな女と浮気してるのよ」

「これは、気の迷いだ

 しつこく誘われて、つい出来心なんだよ

 すまん、本当にすまん。許してくれ明美」


いやだ幸彦さんラブホの前で

ろくでなし女に土下座して・・・

そうか、怖いのね

ろくでなし女が怖いのね

なんて可哀想な幸彦さん・・・

この女さえ居なくなれば

私と幸彦さんは幸せになれるのに

幸せになれるのに・・・


「死ね死ね死ね死ね死ね死ねーー!」

「何してるんだ手を話せ!」


「幸彦さんも手伝って

 早く首を絞めて殺すのよ

 ろくでなし女が死ねば

 私達は幸せになれるのよ」

「やめろ!バカ女!

 僕の愛する明美になにするんだ!」


キャー!

なんで?なんで止めるの、幸彦さん?

なんで私を突き飛ばすの、幸彦さん⁈


「大丈夫か明美⁉なんて酷い女だ!」

「なに言ってるのよ幸彦さん

 私と結婚するって言ったでしょ」


「バカか、いい歳して

 そんなの男の社交辞令だろうが

 この世で一番大事なのは妻なんだよ」

「アナタ、私怖かったわ」


「可哀想に、ごめんよ明美

 こんな女に騙された僕が馬鹿だった

 許してくれ。二度と騙されないから」

「本当に?約束してくれるの」


「ああ約束するよ

 だから許してくれるかい?」

「許すわ、アナタを愛してるもの」


「僕も愛してるよ

 ずっとずっと明美と生きて行きたい」


なに?なんなの?

私は愛されていなかったの⁉


「お前、今したこと全部録画してるからね

 慰謝料払ってもらうから!

 払わないと警察に突き出すからね!」

「そうだな、殺人未遂を犯したんだ

 慰謝料は当然だ!

 さぁ明美、帰ろう僕たちの家へ」


えっ?えぇー?えぇーー⁉

私一人置いてけぼり・・・

そして誰もいなくなった・・・ 


————  ————  ————


後日、弁護士から手紙が来た

慰謝料2000万円

払わないと刑事告訴するって・・・


そんなお金は無い

でも刑務所に入るのは嫌!

仕方なくマンションを売って

慰謝料を払った

汗水流して、作り笑いして手に入れた

ニカちゃんハウスは無くなってしまった

幸彦さんとの関係が

スナック『Happy』にばれて

仕事も失ってしまった


それからは場末のスナックで働き

年月は流れ、今は・・・


「高山さん、もっと速く動いてよ!」

「はい、すいません」


「高山さん、何度同じ事を言えば覚えるの!」

「はい、すいません」


「高山さん、ここやり直し!」

「はい、すいません」


残っていた貯金も使い果たし

清掃員の仕事を掛け持ちで働いている

この国では年を取ると

なかなか仕事は見つからないし時給も安い

でも、生きる為にはお金がいる・・・


「ただいまぁ」

と言っても待つ人は居ない・・・

築45年の1Kアパート

今夜も夕飯はコンビニ弁当

疲れて家事なんてする元気も無い


人間に成りかけの頃は24時間働けたけど

今の体は正真正銘の人間だから

休養が必要だし・・・


・・・ちがう!

・・・そうじゃない!

私がお婆さんになったからよ!

あぁ鏡を見るたび悲しくなる顔のシワ

体は俊敏に動かせない

節々が痛い

惨めで寂しい76歳の老人・・・


なんで?

なんで国民的アイドル人形の私が

こんなお婆さんになるのよ⁉


【ソレハ アナタガ 二ンゲンニ 

 ナッタカラ】

「はぁー、なにこのスマホ

 何十年も動かなかったくせに

 私はお婆さんになりたく無かったのよ」


【二ンゲンハ トシヲトルノヲ 

 サケラレナイ サダメ】

「なんで私が人間に成って苦しむのよ」


【アナタガ カミニ ネガッタカラ】

「私は人間しろと言ったの

 年を取る体にしろとは言って無い!」


【二ンゲンハ トシヲトルノヲ 

 サケラレナイ サダメ】

「うるさい!私はババァになりたい

 なんて言わなかった!」


【二ンゲンハ トシヲトルノヲ 

 サケラレナイ サダメ】

「お前は喧嘩売ってんのかよ!

 今の私が惨めなのは神が無能だからだろ!」


【二ンゲンハ トシヲトルノヲ 

 サケラレナイ サダメ】

「キィー!神が悪いんだよ

 神がバカだからだよ!

 これまでの人生みんな神のせいだ!」


【アナタガ カミニ ネガッタカラ】

「願って無い!クソ神がぁー!」


【カミヲ オトシメル コトバハ

 イッテハ イケマセン】

おとしめられたのは私なんだよ!

 役立たず神!バーカ!死ね!死ね!

 私を国民的アイドル人形に戻せ!

 許さないぞクソバカ神!戻せー!

 戻せないなら死ね神野郎!」


【イッテハ イケマセン】

 

「命令するな、スマホのくせに!

 クソバカ神って本当の事だろうが!

 バカ神がぁ消えて無くなれ!

 お前なんて人類に必要ない!

 お前は悪魔だ!人類の敵だ!死ね神!

 死ね死ね死ね死ね死ねーー!

 死んでしまえ!!クソ神!!」


【カミニ ボウゲンヲハキ

 バツトシテ 二ンゲンニナリシ

 オロカナル ニンギョウヨ

 サイケツハ クダッタ

 二ンゲンデモ ニンギョウデモナイ

 ジゴクヲ サマヨウガ イイ】

 

————  ————  ————


「ニカさ~ん、ちゃんとご飯を

 食べましょうねぇ

 モグモグするんですよ~」

「あらニカさん、上手に食べてますねっ」

「相変らず無反応だね、ニカさん」


「そうよねぇ」

「検査しても脳に異常は無いのにね」

「自分の名前も歳も住所も分からないなんて」


「公園で保護されたでしょ

 よくある老人の行方不明よねぇ」

「家族から捜索願いも出されて無いし」

「このまま、この老人ホームで

 一生を終えるのかなぁ」


「なんだか可哀そう」

「どんな人生を送って来たのかしらね」

「友達とか居なかったのかなぁ」


『トゥルートゥルー』


「始まったトゥルートゥルーって

 電話の呼び出し音を言ってるわ」

「起きてる間は続けるよね」

「保護された時の唯一の所持品

 おもちゃのスマホ・・・」


『もしもし、わたしニカよ』


「おもちゃのスマホにだけは話し掛ける」

「実名は分からないけど」

「私ニカよって、おもちゃのスマホに

 話すから愛称がニカさん」


『わたしはバラが好きなの

 あなたの好きなお花は何かしら

 また電話してね。ツーツーツー』


「ニカって、ニカちゃん人形だよね」

「自分をニカちゃん人形だと

 妄想してるのかな」

「それチョット怖いわぁ

 お婆ちゃんのニカちゃん人形、アハハハッ」


「笑わないでよ~」

「そうよ、みんな笑うの我慢してるんだから」

「ゴメン。でもやっぱウケる、アハハハッ」


「そう言えばね、私の死んだお祖母ちゃんが

 子供の頃ニカちゃん人形を大事にしていて

 公園に行く時も寝る時も

 離さないで大切にしてたんだって」

「へぇ~、それでニカちゃん人形は

 どうしたの?」


『トゥルートゥルー

 もしもし、わたしニカよ

 もうすぐ夏休み

 夏休みは家族でフランスへ行くの

 また電話してね。ツーツーツー』


「実家が火事になって燃えたんだって。

 お祖母ちゃん、嫁に来る時に

 持ってくれば良かったって後悔してたぁ」

「あらぁ、本当に大事にしてたんだぁ」


「ニカちゃんは大事な友達だったのにって

 話すたびに泣いてたわぁ」

「なんか、切ない話ねぇ」

 

『トゥルートゥルー

 もしもし、わたしニカよ

 今日はお友達と公園へ行って遊んだの

 とっても楽しかったわ

 また電話してね。ツーツーツー』


「あれ?ニカさん泣いてる・・・」

「ほんとだ、涙流してる・・・」

「どうしましたぁニカさん?」


『トゥルートゥルー

 もしもし、わたしニカよ・・・』



     —— おしまい ——

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わたしニカよ 桶星 榮美OKEHOSIーEMI @emisama224

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