第2話 始まりの街

 まばゆい光に飲み込まれた俺はしっかりと異世界に召喚されたらしい。その証拠に、今俺の目に映っているのは、元いた世界の常識の理を外れている。


 宙に浮かぶほうき。建物から建物に流れる水。魔法使いっぽい杖を持ち歩く人。街を歩く人々の中には獣人やエルフと思わしきものもいる。

 

 これだけのファンタジー要素があって現実味のない世界が異世界じゃないはずがない。本当に始まったのだ、異世界での冒険が。


 「しかし、俺はいったい何処に飛ばされたんだろうか?」


 魔法陣を起動してこいと急に飛ばされたはいいものの、住所が一切わからない。というか、ある程度の説明は受けたが、それにしたって不可解な部分がたくさんある。

 

 ただ、このまま懊悩していても仕方ないので、まずはこの街がどうのような場所なのかを調べていこう。もちろんスマホなんて文明機器はないので、直接聞いていくしかない。


 

#####


 俺が今いるこの街は、ヨーロッパの街並みをそのまま絵に描いたような雰囲気である。正直海外には行ったことがないので、とても感動している。

 

 なんだか良い気持ちになったので、ここに送ってくれた正体不明のやつに感謝の念を込め空にお祈りしておこう。だが、あいつがキリスト教徒なのか、イスラム教徒なのか、仏教徒なのかは流石に知らないので、俺の知っている方法で祈ることにしてた。


「アーメン」


間違っていたらすまない。


「おい! そこに突っ立ってられるとモノを運ぶのに邪魔で仕方ねぇ、どいてくれ!」


「あ、あぁ、 申し訳ない」


 祈っていたら道の邪魔になっていたらしい。当たり前だ。俺は道のど真ん中からすぐそばにあった建物の路地に移動した。こんなとこすら異世界っぽさがある。


 今気づいたが、ここは人通りがかなり多いように思える。商人やその顧客が行き交い、街としてとても繁栄している様子だ。情報を得るのはかなり楽そうだ。


 しかし、商人に情報を聞いてしまうと情報料として金銭を取られる可能性がある。ここの通貨がなんなのかわからない現在では、商人っぽいのに聞くのは得策ではないな。


 ここらへんの知識は前の世界での知識が役に立っているのか、わからない部分と同じぐらい、すでに理解できるものあるようで、何をしたらいけない、何をしてもいい、といったところは問題ないようだ。


 ということで、住人っぽい人に話しかけるのが一番無難といったところだろう。丁度路地の建物から住人のような人が出てきた。この人は完全に人だ。多分主婦だろう。


「あ、すみません。ちょっといいですか?」


「はい? なんでしょうか」


 ここで急に、ここはどこですか、わたしは誰ですか、なんて言ってしまったら普通なら不審感を抱いてしまうかもしれない。


 どうやって聞き出すべきか悩んでいると、

ぽかんとした顔をされてしまった。話しかけられたのに黙ってしまったのがいけなかったのだろうか。


「もしかして、旅のお方? 道がわからなくなってしまったのかしら」


 旅のお方…、なんと良い設定だろうか、採用させていただく。ありがとうお母さん。


「は、はい。 行く宛もなく放浪してまして、自分が何処にいるのかもわからなくなってしまって…」


「それは大変ね…、そうだ、わかる範囲なら教えてあげられるから、教えてあげましょうか?」


 このお母さんいささか親切すぎるな。所在のわからない旅人風情にここまで優しくするのはいくらなんでも怪しい。すこし様子を見た方が良さそうだ。


「ありがとうございます、でもすごく親切なんですね」


「あらそう? 困ってる人がいたら助ける、ハタではそれが常識なのよ」


 ハタ、ここの場所の名前だろうか。親切にするのが常識か、とても良い環境なのだろう。


「ここはハタというところなんですね。」


「ここ、っていうより、この国の名前ね。それも知らないなんて、かなり遠くからいらっしゃったのね」


 国の名前だったのか、かなり大きい規模の場所なのか。そしてそのことを知らないことで、大分遠くから来た旅人だと思われている。どこからきたと言われたらどう答えよう。普通にどうしよう。


「だとしたら、かなり疲れてるでしょう? もしよかったら、ウチでお茶でも飲みますか? お金は取りませんので」


 などと考えていたら、そんな提案をされた。正直ものすごく怖いが、情報を得るチャンスだ。これ以上善良そうな人にまた巡り会えるかは定かではないので、行くしかない。


 聞けることはここで聞いてしまおう。







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