イグノーチ

 なぜイグノーチはよあけまえのつきをとんだか。なぜイグノーチはとけゆく森をのみほしたのか。フクロウがミツバチにききました。君のかんがえはどうなんだい。

 ミツバチはこたえます。イグノーチはつきをおいこしたかったからさ。イグノーチはのどがひどくかわいていたからさ。

 

 なぜイグノーチはさかなに足をはやしたか。なぜイグノーチはおとし穴を空にほったのか。フクロウがノウサギにききました。これについてきみはどう思う。

 ノウサギはこたえます。イグノーチはさかなとかけっこしたかったんだよ。イグノーチは鳥をしとめたかったんだよ。


 なぜイグノーチはうみの水をぬいたか。なぜイグノーチはほっきょくにばらをさかせたのか。フクロウがクマにききました。さあ、こたえてみてくれたまえ。

 クマはこたえます。イグノーチはかいていを歩いてみたかったにちがいない。イグノーチはこおりの上で花をめでたかったにちがいない。


 フクロウはどうぶつたちの顔をじゅんぐりにみて、いいました。どのこたえもあっているかもしれないし、どのこたえもまちがっているかもしれない。それはだれにもわからない。イグノーチにしかわからない。けれどイグノーチはどこにもいない。だからわたしは、根っこのない木々のあいだから、イグノーチにいちばん近いこたえをさがしだすしかないのだ。


 それからフクロウは、ぼうぜんとしているどうぶつたちに背をむけて、さっていきました。口のなかでぶつぶつとつぶやきながら。

なぜイグノーチはよあけまえのつきをとんだか。なぜイグノーチはとけゆく森をのみほしたのか。

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林檎姫 沢田こあき @SAWATAKOAKI

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