かわいいこ

 ジェイクはいつだって母さんの「かわいいこ」だ。シャツの襟はきちんとしてるし、約束事は絶対に破らないし、家事だってすすんで手伝う。母さんは満面の笑みを浮かべてジェイクを褒める。なんていいこなの! そうして双子の片割れであるぼくを振りかえっていう。あんたもジェイクを見習いなさい。

 太陽がまどろみを振りまく午後のこと。ぼくは庭で遊んでいる。母さんは本を開いて窓の近くに座り、家の中からときどきこちらに声をかける。楽しそうね。なわとび? うん、そうだよ。とぼくは返す。母さんはいう。ジェイクったらそんな技もできるようになったのね、すごいわ。ぼくは黙っている。

 庭の木につるされたブランコが揺れている。ちょっと前までは、どちらがそれに座るかでジェイクとよく喧嘩をしていたけれど、今はもう風の遊び道具。なんとなく、近づく気になれないのだ。花壇のそばに倒れている自転車にはサビがつき始め、ジェイクが部屋から持ちだしたおもちゃの兵隊は、泥だらけのまま草の中に転がっている。

 西日がぼくの白いスニーカーに模様を描く頃になると、夕食を作り終えた母さんが出てくる。ご飯よ、坊やたち。お腹が空いたでしょう。ぼくは玄関から家の中を覗く。開きっぱなしの部屋のドアから見えるダイニングテーブルに、母さんとぼくとジェイク、三人分の食事がいつも通り用意されている。

 あらあら、汗びっしょり。さあおいで。母さんの手を握って。お夕食は何だと思う? そうよ、正解。あなたの大好きなシチュー。

 ぼくは戻っていく母さんの背中を目で追って、玄関前の階段にひざを抱えて座りこむ。夕日が庭の木の向こうへ沈んでいき、ブランコの長い影が闇に混じる。今日もまた、空っぽの椅子に向かって話しかける母さんの声が、夜の始まりに寂しく響いていく。

 ジェイクはいつだって母さんの「かわいいこ」だった。これからもそれは変わらない。

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